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富士の山

2014-01-04 08:09:17 | 編集手帳
1月4日 編集手帳

居眠りをしていても、
誰かの声が教えてくれる。
幼い子供のときもあり、
陽気なおばさまたちのときもある。
「ほら見て、見て!」。
東海道新幹線に乗っていて、
車窓の富士山を見逃したことがない。

仰ぐたびに印象が違う。
「お前ね…」と小言が待っているかと思えば、
「そんなものよ、人生って」と慰められる日もある。
父母の遺影がその時どきで厳いかめしくも、
優しくも見えるように、
一度として同じ表情がない。

年末年始をふるさとで過ごした人が日常に帰っていく頃である。
心身のスイッチを切り替えた旅人を、
きょうはどの顔で出迎えてくれるだろう。

堀口大学に、
その山のいろいろな表情を書き留めた『富士の山』という詩がある。
〈あの玲瓏(れいろう)
 あの清楚(せいそ)
 あの孤高
 あの素白
 あの不動
 千が一ほど
 いとせめて
 似てはくれまいか
 あの山に
 僕の詩よ
 命をかけたわざくれよ〉。
命をかけた“わざくれ”(=手なぐさみ)という言葉に、
眉を張って山頂を仰ぐ詩人のまなざしが重なる。

特大の風呂敷をひろげても許してもらえそうな正月である。
ならば――
似てはくれまいか、
僕の『編集手帳』よ。
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