後からやってくるミルキーが迷子にならないように、お節介お母さんは転ばぬ先の杖よろしく、写真を撮りまくる。
JR北浦和駅は改札が1つだけ。ここを左。
3コインズを左側に下りる。
外に出たら左手奥のバス停。
バスに乗るときと下りる時にピッする。
まるで小学生のはじめてのお使いのようだ。ミルキーは動物の勘で行動し、大抵それは間違えている。
ダンス仲間にもそんな人がいて、あてにならない勘を信じて行動する。よく迷子になって遅刻、人様に本当に迷惑を掛けるのだけれど、めげないし反省もしない。
バス停前の小学校の隣がショートステイ先。
3時の約束でわたしは2時40分くらいには着いた。
お母さんはみんなと体操をしていた。適当に腕を動かしている。
わたしの顔を見るなり。
「こんなところまでどうした?」
「お母さんの顔見に来た」
「来るなら家に来たらいいのに、バカだねー」
お母さんはデイサービスに来ているつもりなのかな。
そうこうしているうちに区役所の人がやってきて、お母さんに挨拶。若い男性だ。まだ20代だな。
「○○区役所の△△です」
「はい、ご苦労様」
「ご体調はいかがですか?」
「お陰さまで」
ここまでは、なんとなく好意的な返しのお母さん。
「今日はS子さんにいろいろお話を伺いたくて参りました。外はとても暑いですよー」
「あたしのせいじゃございません」(きっぱり)
△△さんはまだ若く、お母さんの返しにタジタジしている。
そして。認知症患者のループ質問に慣れない人は、何度も同じことを聞かれて一生懸命答えようとする。
「今日は何のご用?」
「それ聞いてどうするの?」
「なんか良いことあるの?」
「さっきもご説明しましたが...」
何回説明したって、説明したそばから忘れていくのだ。
挙げ句の果てに、「なんでも忘れることにしています」と来る(^_^;)
彼は2時間、お母さんと対決した。勝敗?
彼もかなり頑張ったから引き分けかな(^_^;)
△△さんも、短期間の記憶が出来ない人はどんなものなのか、知ることができてきっと勉強になっただろう。
「S子さん、僕また来ます。覚えておいてくださいね」
「名前、なんていうの?」
「△△です」
「うん、下の名前」
「ユウキです」
「(石原)裕次郎の裕?」
「人偏に右です」
「人偏に右?」
「お母さん、斎藤佑樹の佑だよ、ハンカチ王子」
「左様か。ユウキくん、頑張ってー、生きてる限りは頑張ってー」
「ありがとうございます。ではまた」
お母さんは最近、変な節回しで「頑張ってー、生きてる限りは頑張ってー」という。
無事にたどり着いたミルキーと3ショット。
永遠に78才のお母さんの中で、ミルキーは永遠の大学生だ。