「くるりさん、僕、嫌になっちゃいました」
「何が」
「僕が悪いんですけど」
「何したの」
武器になりそうな銀色の10キロダンベルを持たされて、ふーふー言いながらワイドスクワットをしているわたしの横で、浮かない顔をしているハービー。普通、トレーナーはトレーニーの傍らで応援すると思うのだがだがだが。
ハービーは医学生。教授都合で別日に振替になった実習の連絡を見落として欠席。教授から呼び出しを食らい「ハービーくん、金曜日なんで来なかったの?実習受けないと留年だよ」と言われてブルーが入っている。
ハービーは実習を楽しみにしていたのだけれど、振替になった金曜日はプールで気持ちよく泳いでいたらしい。
「僕もう、大学辞めたくなりました」
「え?そんなことで?」
「もう嫌です」
「そんな実習1つ出なかったからって留年になんてならないよ。きっと救済措置あるし、注意されただけだよ、他にも見落として参加しなかった子がきっといるから、大丈夫、大丈夫」
「でも、僕。。。」
こうなるとグズグズのダメ男になる。
「せっかく入ったんだし、みんな応援してくれているんだから、そんなんで不貞腐れちゃだめだよ、損するよ」
慰め、励まし、またねと別れた。ハービーは次のパーソナルトレーニングへ。わたしはウォーキングマシンでのしのし坂道歩きで汗をかき、さらに水中ウォーキングのクラスに参加していると、ギャラリースペースからの視線を感じて目をやるとなぜかハービーがいた。
何をしているのだ、あいつは。。。手を振ると振り返して降りてきた。どうやらパーソナルトレーニングがキャンセルとなって暇つぶしにプールへ来たらしい。
わたしたちが歩く隣で泳いでいる。さすが長い手足はダテではなく、あっという間に向こう岸。だいたいが潜水して半分くらい潜っているので何回も掻かずに着いてしまう。しばらく遊んでいたようだけれど、いつの間にかジャグジーに移っていた。
大きな体が小さくなってなんとなくしょんぼりしているように見えて、可哀想になった。嫌だな、もう。そもそも自分の見落とし、悪いのはハービーなのだけれど。きっと大丈夫だよ。ハービー、元気出せ!今晩は元気になってるといいな。