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トロのエンジョイ! チャレンジライフ

「音楽はやめられない。あと300年は続けたいね」マイルス·デイビス

連載小説「あなたの騎士(ナイト)になりたい」第6回

2018-06-13 20:00:02 | 小説・あなたの騎士(ナイト)になりたい
「へー、鳴神美鈴の妹に、母親? この辺に住んでたなんてねえ」
 坂口さんが言った。
「今度オレも連れて行ってくれよ、その店」
 翌日の昼休み、屋上で一服しながら、僕は坂口さんと話していた。
 葵さんは、一人息子の賢一くんが熱を出したという学校からの連絡で、早退していた。
「葵さんのちょうどいいケンカ相手が見つかったみたい」
 僕は言った。
「でもさ、その洋子さんだけど、木下名人とくっついたのはおそらくチェスを通じてだろうけど、別れちゃったのもチェスが原因なんじゃないかな?」
「そうですねー」
「たかがチェス、されどチェスってわけだ。洋子さんはそれでチェスそのものを嫌うようになったのかもしれない」
 坂口さんはそう言ってタバコを消した。
「葵さんも旦那さん亡くしてるからなー。そういう意味じゃ、相通じるものを感じたのかもしれない。チェスに関しては正反対でもね」
 相通じるもの、か……。
 僕は2年前の出来事に思いを馳せていた。

 僕は大学を卒業後、現在の職場である大須フーズ株式会社に就職した。一通りの研修が終わり、配属部署が決まって、葵さんや坂口さんと知り合った。
 それは、その時の僕の歓迎会の夜に起こったのだった。
 なぜか僕は、真っ先に葵さんと意気投合してしまった。よく笑う、魅力的な女性だと思った。僕より9つも年上で、シングルマザーだということも含め、こんな人と職場でいつも顔を合わせられるなんて幸せだ、と思った。
 僕はちょうどその頃、大学時代につき合っていた彼女と別れたばかりだった。そうなると、そんなときに何が起こったか、だいたい想像はつくんじゃないかと思う。
「送ってくれてありがとう」
「いえいえ」
「あのさ、ちょっと話があるの」
「はい……」
「上がっていかない? 飲み直しながら話そ」
 ちょっとまずいんじゃないか、と頭のどこかで警報が鳴ってはいたが、アルコールの力もあって、僕はあっさり誘惑に負けた。
 そして、太古より変わらない、当たり前の男女の営みのあと、
「……」
「……」
 2人ともすっかり酒が醒めてしまい、超気まずい雰囲気。
「ま、まあ……起こっちゃったことは、しょーがないよ、ね?」
「そ、そうですね……」
「ふしだらな女だと思った? か、彼女とか、いるわけ?」
「いえ、いないっす……」
「犬にでも噛まれたと思ってさ、忘れてよ、ね?」
「はい……」
 僕は何気なく、当時の葵さんの部屋の中を見渡した。ふすまの向こうでは、息子さんが寝ているのだろうか。
 三人が写っている写真が、立てかけられていた。
 そしてその近くには、高級そうなチェス盤と駒が置かれていた。
 僕が見ているものに気づいたのか、葵さんは、
「ああ、死んだ旦那が、チェスが好きで……」
 そこまで言うと、急にがばっと身を起こして、
「ねえねえ、話があるんだけど!」

 その場で、僕はチェス愛好会に入ったのだった。そして2年が経ち、いまだにヘボだけど、チェスというゲームの奥深さは、わかってきたつもりだ。
 チェスで勝つために重要な要素は、先読みができること、定跡を知っていること、いろいろあるかもしれないが、最たるものは、抜け目のなさである。間抜けはいつまでたっても強くなることはできない。
 相手のミスや、有利になる局面を決して見逃さず、自分は決して間違った手を打たないこと。神のように強いマスターと呼ばれる達人たちは、正しい手を打つから強いのである。
 しかし、強さだけがチェスのすべてではない。少なくとも僕はそう思っている。
 なぜなら、単に量的に強いということなら、機械に人間がかなうわけがないからだ。どんなに強い人工知能も、所詮は道具にすぎない。
 道具はチェスを楽しむことはできない。人工知能どうしの試合なんて不毛に違いない。チェスは人間が造ったゲームであり、人間どうしが楽しむためのものなのだ。


(つづく)



連載小説「あなたの騎士(ナイト)になりたい」第5回

2018-06-12 19:42:23 | 小説・あなたの騎士(ナイト)になりたい
 梓と美鈴の母が経営するというスナック『ポル・ファボール』は、わりと近くにあった。
 やや狭い店内は、カウンター席と、ボックス席が2つあるだけだった。
 経営者とおぼしき女性を見て、驚いた。雑誌に載っていた美鈴そっくりだ。ピンと張り詰めたような雰囲気まで似ている。もちろん化粧をしているせいもあるが、同じ親子でも、梓のまとっている雰囲気とは違っていた。
「いらっしゃいませ……あれ、梓、遅かったじゃないの」
 名前は鳴神洋子(なるがみようこ)というそうだ。洋子さんは営業用スマイルを引っ込め、僕と葵さんに遠慮のない視線を向けた。
「途中でちょっとトラブルがあって……この人たちが助けてくれたの」
 洋子さんは大して感謝するようすでもなく、
「それはどうも。娘がお世話に」
 梓は僕らにささやくように、
「ごめんなさい。私の友達には警戒心が強くて」
 片親だけの子育ての苦労が、ある種の他人との壁を造ってしまったのかもしれない。そんな感じだった。
 あまり歓迎されているという雰囲気ではなかったが、せっかくだから、ということで、僕と葵さんはカウンター席に座った。
 しばらくすると梓が、エプロンをして手伝いに出てきた。
 僕はほとんど梓と話していたが、葵さんは洋子さんにしきりに話しかけていた。洋子さんのほうは、いちおう客だから無視するわけにもいかない、という程度の反応しかしていなかったが。
 会話するうちにわかったのだが、梓は、美鈴の1歳年下の17歳。高校卒業後は、大学で心理学をやりたいという。
「へー、僕も心理学専攻だったよ」
「N大学ですか?」
「うん、そうだよ。臨床心理士の資格を取りたいの?」
「はい。でも、それには大学院まで行かないとダメですよね? それは、なかなか母には言いづらくて」
「いまは公認心理師っていう資格もあるから……」
 突然、カウンターの端から罵声が聞こえてきた。
「いい加減にしろよ、てめー!」
 葵さんだった。あちゃー、始まったか……
 イヤな予感はしていたのだ。
 葵さんは普段は癒やし系の温厚な女性だが、酔うとケンカっ早くなる。
 相手は、案の定、洋子さんだった。
「もういっぺん言ってみろよ。チェスのどこがくだらねえって? 人生を狂わす魔のゲームって、どういうことだよっ!」
 葵さんが怒鳴っても、洋子さんはひるむでもなく、超然と見返している。
「いいかい、チェスってのは平和の象徴なんだよ。世界中で7億人の競技人口があるんだ。国籍も人種も、政治も越えて、みんながわかり合えるためのゲームなんだ」
 葵さんがまくし立てると、洋子さんも負けじとやり返す。
「それは、趣味で楽しくやってる場合だけでしょう? プロのチェスの厳しさを知らない人に、何がわかるの?」
「あんたこそ、何がわかるってんだよ。チェスを馬鹿にするやつは、あたしが許さんぞ!」
「ご不満がおありでしたら構いません。どうぞお帰りを」
「いいや、決着がつくまで、あたしはここを動かん! へっ、シングルマザーだからなんだってんだ。あたしだってそうさ!」
 どうやら、チェスのことになるとムキになるのは、お互いさまらしい。
 梓は、どうしたらいいのかわからない様子で、うろたえていたが、僕は、案外気の合う2人なのかもしれない、と思った。葵さんは、本当に合わない相手とは、ケンカすらしないからだ。
 しかし、今日のところは、もう引きあげたほうがよさそうだ。
「はいはい、葵さん、帰るよ-」
「な、なに言ってんの。まだ決着が……」
 僕はやや強引に葵さんの腕をつかんで立たせた。洋子さんの顔に、安堵とも寂しさともつかない、微妙な色が浮かんだようにも見えた。
「いいか、今度チェスで勝負するぞー! 覚えとけよーっ!」
 僕らは、『ポル・ファボール』を後にした。



(つづく)



連載小説「あなたの騎士(ナイト)になりたい」第4回

2018-06-11 19:36:55 | 小説・あなたの騎士(ナイト)になりたい
 若い女の声だった。
 なんだろう、痴漢か? 僕は立ち止まった。
 すると、近くの路地から、女子高生とおぼしき女の子が飛び出してきた。
「す、すいません! 助けてください!」
 警察に通報かな……僕はとっさに電話を取りだしていた。
 路地のほうから、男の靴音が聞こえてきた。追われているのか?
 酔っ払いにからまれている、というより、事態は深刻なようだ。
 やがて、女の子の後を追って、50歳くらいの小柄な男が現れた。
 ケンカになっちゃうかもしれない、と思う。まさか僕が逃げ出すわけにはいかない。
 どうやらこの男一人のようだから、女の子を無事に逃がすくらいのことは可能だろう。
 男が突然、何やらわめき出した。日本語ではなく、英語でもなかった。
 外国人か? 僕は一瞬ひるんだが、スマートフォンを男に向けた。
 僕としては、手荒なことをすると警察を呼ぶぞ、という威嚇のつもりだったが、通じたかどうかはわからない。
「おい! 早く逃げて!」
 僕は女の子に呼びかけた。
 すると今度は、女の子が男に向かって、大声で罵声を浴びせた。やはり僕にはわからない言語だった。
 一体どういうことなんだろう。
 男は、まずいと判断したのか、踵を返して、夜の街の中へと走り去っていった。
 僕は、警察に通報しようと、スマホをタップした。すると女の子が、
「あ、ごめんなさい、警察は呼ばないでください!」
「え?」
 警察は呼ばないでくれって……まさか万引きでもしたんじゃないだろうな。
「面倒なことになるので。事情はあとでお話しします」
 丁寧で、真面目さが感じられる口調だった。こんな時間に街中でトラブルに巻き込まれたようだが、非行少女というわけではなさそうだった。
「じゃあ君の家に連絡しよう」
 僕がそう言うと、女の子は困ったように、
「家はちょっと……遠いので」
 なんだそりゃ。家出したのか?
 雨の中を逃げ回ったのだろう、長い髪が濡れて、ぽたぽたと滴が落ちていた。制服もずぶ濡れだ。
 このまま、ほっぽり出すわけにもいかないかな。
 でも、そうは言っても……。
 女の子は、急に思い出したように、ぺこりとお辞儀をすると、
「助けてくださって、ありがとうございました。あたし鳴神っていいます」
 へ?
 ナルガミだって……?

「そうだったんだー、運命の出会いっていうのかな、こういうの」
 葵さんは感心したように言った。
 僕らは葵さんのアパートにいた。来たくはなかったが、この場合、僕の部屋に連れ込むわけにはいかなかったので。
 僕が助けた女の子は、鳴神梓(なるがみあずさ)。
 あのチェスプレイヤーの鳴神美鈴の妹だという。
「すごいんだね、君のお姉ちゃん。一緒に暮らしてるの? 家はここから近いのかな?」
 葵さんは、早くも梓を質問攻めにしていた。
「両親が離婚して、私たち姉妹は別々に育ちました。姉は父と世界中を転々としていて、今どこにいるのかもわかりません」
「君はチェスはどうなの?」
「全然できません。でも姉は、5歳の頃から父から英才教育を受けました。父は、もとチェスの日本チャンピオンでしたから」
「なるほどー」
 そんな事情があったのか。
「さっきの男に心当たりは?」
 僕は訊いてみた。
「海外のマスコミから雇われたんだと思います。姉の居所を教えろって……」
 梓は悲しそうな顔をした。そして、急に思い出したように、
「あれはスペイン語です。両親の仲が良かったころは、海外で暮らすことが多かったので」
 そうだったのか。
 チェスのトッププレイヤーというと、優雅な生活を想像するが、実際にはいろいろと苦労もあるんだな。天才とは、結局のところ何かを犠牲にして作られるものなのか、僕はそんなふうに思った。
「ん? でもさあ、君とお姉さんは同じ名字なの? ご両親が離婚したんでしょ?」
 葵さんが訊いた。
「鳴神は母の名字です。父はなぜか、公式の場では姉に母の名字を名乗らせてるんです。父の名前は木下礼治っていいます」
「えー! 木下名人の娘さんだったのかあ! どうりで……」
「私、姉がかわいそうで……」
 少し気まずい雰囲気。しかし、葵さんは意に介するふうでもなく、
「それで、お母さんはスナックを経営してるんだね? 今日はそこへ行く途中だったわけだ?」
「はい」
「じゃあ、これからみんなでお母さんがやってる店に行こうよ。ちょうどいいじゃない」
「はい……」
 梓がなんとなくためらっている様子なのが気になった。葵さんはそういうことには鈍感そのものだ。



(つづく)



 

連載小説「あなたの騎士(ナイト)になりたい」第3回

2018-06-10 20:32:50 | 小説・あなたの騎士(ナイト)になりたい
 チェスプレイヤーのデータを見ることができる海外のサイトを開いた。「narugami」で検索してみる。あった。国際大会で注目されだしたのは15歳のころかららしい。
 18歳の女の子といえば、僕から見たら、いくらチェスが強いとはいっても、まだ幼く多感な年頃だろう。笑ったり泣いたり、怒ったりとか、いろいろな顔を見てみたいな、と思った。ご多分にもれず、性の経験はあるのかな、彼氏はいるのかな、といった、オヤジみたいな想像もしてしまった。
 写真の中の彼女の肩に、大きくてごつい手が置かれていた。いったい誰だろう。チェスを教えた人物だろうか。手だけしか写っていなかったが、なにやら気持ちがモヤモヤするのを感じた。

 翌朝、職場に出向いた僕は、先輩の大滝葵(おおたきあおい)さんに、鳴神美鈴について訊いてみた。
「ああ、知ってる知ってる。エイリアンでしょ?」
 葵さんはキーボードを打つ手を止めて、眼を輝かせた。彼女はこの会社のチェス愛好会の会長である。僕がチェスを始めたのも、彼女との出会いがきっかけだった。
「和製ボビー・フィッシャーってところかな。まだ18歳でしょ? グランドマスターは確実だし、順調にいけば日本人初の世界チャンピオンだって狙えるんじゃない?」
 ボビー・フィッシャーか……彗星のように現れ、そして消えた、アメリカの不世出の天才チェス・プレイヤー。彼のゲームは、今も世界中のチェス愛好家を感嘆させ、芸術とも称されている。特に当時のソ連のプレイヤー、スパスキーとの対戦は、まさしくチェスにおける奇跡とも言うべきものだ。
「君が今まで知らなかったのも、無理ないかな。日本のマスコミはチェスに関心ないから。これまでのところはね」
 まあ、彼女の言うとおりだ。チェスで生計を立てているプロがいるということも、知っている人は少ないだろう。
「今夜、みんなで例の場所でどう?」
 葵さんは、くいっとグラスをあおる仕草をする。
 僕は、いいですね、と言った。

 店主が無類のチェス好きのスナック『アンパッサン』は安くて美味い料理で、そこそこ繁盛しているようだ。ただし酔って店主とチェスで勝負するのは禁物だ。店主の尾崎は、無類の賭け事好きでもあるからだ。
 今日のメンツは、僕と葵さんと、坂口清文(さかぐちきよふみ)さんの3人だ。チェス愛好会のメンバー全員である。そう、なぜか3人なのだ。
 話題は、もちろん鳴神美鈴のこと。
「でも、かわいそうな気もするよね。どうせ、本人の意志でチェスやってんじゃないでしょ。ねえマスター?」
 坂口さんは早くも酔いが回ってきた口調で言った。
「我が子が物心つかないうちからチェスやらせる親ってのも、ちょっと変わってるよね。海外じゃ、よくあることだけど」
 葵さんはそう言って、生ビールのジョッキをあおった。
「井上くん、美鈴ちゃんのファンになっちゃったとか?」
 マスターは僕に向かって言った。
「そういうわけじゃないですけど」
 そう答えたものの、あのコンビニで鳴神美鈴を知って以来、ずっと気にはなっていた。
「気の早い連中は、逆タマ狙ってるかもね」
 葵さんが言った。
 逆タマ、ねえ……それもなんか寂しい気がする。
 実力があるということが、すなわち幸せというわけではないように思えてきた。

 明日も仕事があるので、ほどよく飲んだところで解散となった。
 葵さんが冗談めかして、あたしの部屋に寄っていく? と言ったが、遠慮しておいた。
 一人で夜道を歩いていると、ぽつぽつ雨が降り出し、やがて本降りになった。アパートに帰り着くまでには酔いが覚めてしまうかもしれない。冷蔵庫に何かあったかな、と思いながら、僕は小走りになった。
 すると、どこからか叫び声が聞こえた。

「助けて!」



(つづく)

更新の時間を少し早めてみましたが…いかがでしょうか?




連載小説「あなたの騎士(ナイト)になりたい」第2回

2018-06-09 00:16:21 | 小説・あなたの騎士(ナイト)になりたい
 僕はその雑誌を手に取った。日本の雑誌にチェスの記事が載ることなど、元世界王者とスーパーコンピュータの対戦以来ではないだろうか。しかも、「エイリアン」とは、一体どういうことだろう。
 それはさほど大きな記事ではなかったが、僕にとっては頭をガーンと殴られたような衝撃を受けるものだった。

 日本がチェス後進国と言われて久しい。しかしその常識を打ち壊す、一人の天才チェス・プレイヤーが現れた。鳴神美鈴(なるがみみすず)という日本人であり、年齢は18歳。あどけなさを残す顔立ちは、まだ少女といってもいいほどだが、その強さは世界チャンピオンのラルフ・ガーラント氏も舌を巻くほど。

 そのような文章とともに、鳴神美鈴の写真が載っていた。チェス盤に向かって、真剣な表情をしていたが、ショートヘアに包まれた顔は、笑えば結構かわいいかもしれない。しかも18歳とは、僕より6つも年下だ。
 さらに記事を読んでいくと……

 彼女は日本国籍だが、何歳からチェスを始めたのか、誰に教わったのかなど、詳細は不明。その棋風は、外見に似合わず攻撃的であり、敵陣を異星人の襲来のように食い荒らすことから、「エイリアン」の異名をとる。現在のレーティングはおよそ2700。

 2700だって?!
 チェスにおけるレーティングとは、勝率と言い換えてもいいが、要するに数字が大きいほどそのプレイヤーは強いということになるだろう。
 1500から1800くらいなら、アマチュアの間ではほぼ無敵かもしれない。2000以上となると、いったいどれくらい強いのか僕には見当もつかない。チェスを指すことで生活をしているプロでも、2400くらいが平均らしいから、この鳴神という女の子はそれすら超えていることになる。
 ちなみに僕のレーティングは……あえて言わないでおこう。
 なるほど、これはまさしくエイリアンと呼ぶにふさわしいかもしれない。
 こんな人が存在していたとは。
 僕のようなヘボにとっては雲の上のような話だったが、強烈に惹きつけられた。
 僕はその雑誌を買い、帰宅した。アパートを出てから40分ほど経過していた。どうやら思いのほか夢中になって、記事を読みふけっていたらしい。



(つづく)