演劇書き込み寺

「貧乏な地方劇団のための演劇講座」とか「高橋くんの照明覚書」など、過去に書いたものと雑記を載せてます。

高橋君の照明 覚え書き-2

2012年04月22日 13時21分39秒 | 高橋君の照明覚書

2.2 自分たちだけでホールを使うときのうまい照明の作り方
(吊りこみなど高度なことをしないとき)



2.2.1下準備

基本は指示を出すだけのときと同じですが、すこし程度を上げていきます.
照明の仕込み図を書いてみましょう.業者さんを頼んでやってもらうときでも、本当にホールの人に仕込み図を渡す時にも一応書いてみます.業者によっては、「素人がなにやっているんだ」という顔をするかもしれませんが、照明の面白さのほとんどはこの仕込み図を書いているときに「ああもしよう、こうもしよう」と制約と戦いながら想像する作業だからです.親切な人はこの時いろいろ教えてくれます.
仕込み図を書くときに必要なのは次の項目です.
①機材の種類と照明のあたる方向。
②その機材に使うプラステートの色。
③ホールのバトンの位置とコンセント位置。

①機材の種類と照明のあたる方向。
照明の灯体の種類はかなりありますが、基本はレンズのある照明とレンズのない照明に分かれます.最近はレンズはないけれど反射鏡を使うものもあります。
■レンズのない照明器具
ボーダー、ホリゾント、フラットライトなどがこれに当たります.レンズのない照明は明るいのですが、光が拡散してしまうので、まんべんなく明るくする照明に使います。
■レンズのある照明器具
スポットライト、エリスポットなどです.パーライトなどもこれに含めていいかと思います.ただ、パーライトを光を絞ることが出来ません.自動車の照明を缶につけたようなものです。
ホームページを見ると、こういうライトが載っています.詳しくは
演劇照明講座
http://www1.linkclub.or.jp/~chara/Lighting.html
ネコでもわかる照明の部屋
http://go.fc2.com/lighting/

むしろ問題は照明のあたる方向です.なぜ、この方向からあてたいのか、なににあてたいのかを考えます.図が入らないと説明が難しいので、細かい説明が出来ないのが残念です.
気をつけてもらいたいのは影の処理です.照明をあてれば必ず影が出来ます.この影をどう処理するか、さらに効果的に使うにはどうしたらいいかを考えるとより繊細な照明が出来ます.
ここからは少し専門的になりますが、個人的には現在の演劇の照明のあて方は、あまり好きではありません.むしろ踊りの照明のほうが面白い場合が多いのです.公演まで時間があるのでしたら、劇場に足を運んでよその(特に別のジャンルの)照明も研究してみてください。少し難しいですが、次のサイトは参考になるかもしれません.(でも、難しいかな。)

一挙公開! 青年団の照明の作り方
http://www.letre.co.jp/~iwaki/sndlt/sndlt-index.html

図入りで分かりやすいのは次のサイト.
基礎講座も充実しています.
ka-i-ka-n
http://homepage2.nifty.com/ka-i-ka-n/index.htm

仕込み図を書くときにはテンプレートを使うとカッコよく書けます.でも、自分では使ったことはありません.かっこいいだけで、中味に変わりはありませんからアマチュアでは必ずしも必要ありません.ただ、間違いは少なくなるかもしれません.テンプレートはここで売っています.
記号の使い方は、必ずしも統一されていません.「凡例」を必ずつける習慣を。(凡例の意味は辞書を引いてください.)

東京舞台照明
http://www.tokyobs.co.jp/


②その機材に使うプラステートの色
正確にはカラーフイルターというのかもしれません.種類は4種類ほどあります.うまく見せるコツは次の通りです.

◎感情に合わせて色をつけない.
怒りのシーンだからといっていきなりホリゾントを赤くする人がいます.こういう演技の障害になる照明はやめましょう.
◎薄い色の地明かりに濃い色のスポットを使わない.
これは言葉だけだと説明が難しいかもしれません.まわりが生明かりで明るい時に、人物を紫で抜いたり、色をかけたポチを入れないということです.
◎派手な色は少なめに使う.
赤からグリーンに変えるより、赤にグリーンの筋が入ったほうが目立つしセンスもいいという事です.

カラーフイルターには次のようなものがあります.

■プラステート(ポリカラー)
普通に使うものです。22(赤)64(青)というようにたくさん種類があります.

■コンバージョン
色温度を上げたり下げたりするためのものです.B1とかA3とかいうやつです。もともとはテレビのカメラ用に作られたものです.舞台をビデオカメラで撮ると黄色く撮れるので、それを補正するためのものでした。最近は、関係無しに舞台でもよく使います.

■エフェクト
PU16(紫)GR4(緑)というように色物です.これも映像用ですが、演劇ではたまにしか使いません.テレビ局の関係でバイトするとお下がりをもらえるので、首都圏では使う人は多いかもしれません。
私はサントリーのコマーシャルをやっていた監督の手伝いをした時にスタッフから結構もらったことがあります.

■私もよく知らないやつ
221とか224とかいうやつですが、使ったことはありません.そういう意味では特殊なフイルターです.

メーカーから、カタログをもらって、よく研究してください.ただ、ホールには全ての色があるわけではないので、特殊な色を使いたいときには自分たちで購入して、もって行ってください.カタログは次のメーカーに請求すればもらえるはずです.(有料だと思いますけど)

東京舞台照明
http://www.tokyobs.co.jp/
丸茂電気
http://www.marumo.co.jp/index.html

③ホールのバトンの位置とコンセント位置。
本来は最初にホールを下見に行って、図面などをもらってきます.使える照明機材の確認もこの時おこないます.そして、どこにどれだけ照明が吊れるのかを確認します.
図面にはコンセントが載っている場合と載っていない場合があります.また、ひとつのコンセントで何kwまで使えるかも確認しなくてはなりません.通常は3KWだと思いますが、2KWの時もあるはずです。
ポイントはひとつのバトンに吊れる照明には限界があるということです.



2.2打ち合わせ

照明プラン(どこでつけたり消したりするかの意味です)と仕込み図が出来あがると、ホールの人と打ち合わせを行います.装置図と一緒に持っていって、どこの誰にどの明かりをあてたいのかを説明しますが、ここまで出来ているとあまり説明を聞いてくれないかもしれません.
むしろ、「この灯体でここにいる誰だれにあてたいのだが、自分の考えたこのライトの種類とあて位置でいいだろうか」というように質問形式にすると、かえって問題点がはっきりすると思います.
回路以上に計画して吊れない場合や、書類には載っているのに実際にはホールにない機材などもここでチェックします.色合いについても、意見を聞きましょう.答えがない場合には、当日勝負になります.
最近の流行に、エリスポ(ITOを含む)で模様を出す効果があります。ネタ(アルミ板に模様をすかし彫したもの)をいれないと、模様が出来ませんので、ホールにネタがあるのかないのかも確認します。ネタがないときは業者さんから借りるか、買うか、作ることになります.
この時どこまでやらせてもらえるのかを、確認するのを忘れずに.やってもらえるのにこしたことはないなんて思わないこと.もしかしたら調光卓を触るチャンスは一生でこれが最後かもしれないからです.


2.3本番当日

今回は高度なこと、つまり照明を吊ったりあて位置を調整したりパッチをしたりCPUでシーンを記憶させるのはホールの人まかせ、という前提です.(今ごろこれを書き忘れていたのを思い出しました)というわけで、照明は前日にホールの人が仕込んでくれてあります.(という設定です)
装置の建てこみが終わったら、シーンごとの照明を点けてもらい自分が考えていたとおりの照明かどうか確認します.この時には、できれば客席中央で確認するほうが確実です.調光卓がマニュアルの時は、誰かに卓を操作してもらうか、演出か舞台監督に客席にいてもらいゲージを決めていきます。ゲージとは明るさのことです.フェーダーの脇に目盛があるので、こういうようです.ひととおり終わったら、あるいはやっている途中であたり位置が違っている場合にはホールの人に頼んで位置を直してもらいます。
あたりが決まったら、調光卓の説明を受けていじってみましょう.ただ、時間はほとんどありません.すぐにゲネプロが待っているはずですから.CPU卓(コンピューター卓ともいうらしい。私は使ったことは余りないので正式名称を知らない)は、スイッチを入れるだけで、あるいはレバーを上へやったりしたへやったりするだけでシーンが変わっていきます.
ホールのマニュアル卓はプリセットといって、フェーダーが2段から4段並んでおり、この段数だけ場が作れるようになっています.使っている段以外のフェーダーで次の場を作っては切り替えて行く形になるわけです.ゲージを記録しておかないと、次から次へと場を切り替えられないことになりますが、実は芝居では、そんなにややこしいことはほとんどなくほとんど同じように組んでおいて、わずかに変えるだけの場合や、いくつかのスポットを単独でいじるだけのことも多いので、深刻になることは全然ありません.
今まで聴いた話で一番多かったのは50分の芝居で200シーンの照明を組んだという話が最高です.こんな数になるとCPU卓でないとまず無理ですし、アマチュアではこんなに覚えられません.(おまけにプロがすごいのは、これだけ変化しても観客はほとんど気がつかない照明を作ることだ。)
後は習うより慣れろです.ゲネプロであたりのおかしい所が見つかったり、演出の変更が出たりすると、ここでまたあたり直しをします.
本番は、出たとこ勝負.照明室の位置によって、また照明係の視力によって明るさの感じ方が違うので、客席で見ていたときと違う感じがするはずです。ここまできたら、いったん決めたゲージはあまりいじらないほうが良いかもしれません.
時々、仕事を忘れて観客になってしまい、操作を忘れるタイプの人がいます。普通インカムで演出や舞台監督の怒りの声が飛んできますから、あわてずあせらず、「わざとだよ」ぐらいにうそぶいて、シーンを変えましょう.ここであせってもなにもなりません.反省は家に帰ってからゆっくりするものです.
さて、本番当日で一番大事なことはなんでしょうか.それは、後片付けをきちんとするということはないでしょうか.何校かの合同公演なら、人数が多すぎてかえって邪魔でしょうが、自分たちだけでホールを使ったときはコードを巻くことぐらいはやってみよう.軍手もしくは皮手袋を忘れずに.

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