演劇書き込み寺

「貧乏な地方劇団のための演劇講座」とか「高橋くんの照明覚書」など、過去に書いたものと雑記を載せてます。

高橋君の照明 覚え書き-1

2012年04月22日 13時21分57秒 | 高橋君の照明覚書

わからんちんの演劇事始に出てくる高橋君は照明担当になる予定です.
これは、高橋君がお父さんに教わる照明の話の下書きです。


1.基礎の基礎



1.1電気の種類

電気には直流と交流、それと静電気があります.直流は車のバッテリーや電池のようにプラスとマイナスがはっきりしています.交流はプラスとマイナスが交互に繰り返されています.静電気はものとものとがこすり合わされる時に発生します.冬にドアを開ける時バチッとくるあれです.

舞台照明で使うのはこのうち交流といわれている電気です.


1.2交流の種類

家庭のコンセントには普通100Vの電気が流れています.ただ、これは平均して100Vという意味で、瞬間的には140Vくらいまで流れます.コンセントによっては200Vの電気がきていることがあります.エアコンのコンセントの一部がこれです.
交流は単相と3相というわけ方もします.単相というのは家庭用の電気です.3相というのは工場などでモーターを使う時に使う電気です.普通はこの区分を知っている必要はありませんが喫茶店を借りてお芝居をやる時や発電機を使って野外劇をやる時には、これを知っていないととんでもない事故を招きます.業務用のエアコンや井戸ポンプは3相交流を使っていることが多いからです.これには200Vの電気が流れています.この電気を調光機に流すとすごい音を立てて調光機のファンがまわり、スイッチを入れると次々に電球がとびます.(これをやってとばした知り合いを二人知っています.自分では学校が手配した業者がこれをやってくれて、目の前で電球がとびました.)ちなみにとぶというのは電球が切れることです.
単相の交流もコンセントでは線が2本しかありませんが、そのもとのブレーカーでは線が3本あります.これを単相3線といいます.端と端で電圧を測ると200V、端と真中の線の間では100Vの電気が流れているのが分かります.これはブレーカーから自分で調光機まで線を引く人にとってはぜひ覚えてもらいたい電気の基礎です.


1.3ワット数と明るさ

ワット数が大きいほうが照明が明るいことは、直感的に理解できると思いますが、これは同じ灯体(電球とか蛍光灯のこと)で比較した場合の話です.同じワット数なら、白熱電球よりはハロゲンや蛍光灯のほうが明るい照明です.ただ、蛍光灯は特殊な調光機でないと調光出来ません.つまり特別な使い方をしない限り舞台照明には向いていないということです.
最近の照明機材は小さい電力で明るいハロゲン電球を使っていることが多くなっています.
さて、基礎の基礎が分かれば次は実践です.


2.ホールを使う場合

ホールを使う時のグレードは3段階に分かれます.
①照明の配置や仕込みはすべてホールの人にお任せで、調光卓にも触らない.照明の変化は指示をしてホールの人にやってもらう.
②仕込み図を書いたり調光卓は触るが仕込みはほとんどホール任せ.
③ホールの人は見ているだけで、全部自分でやる.
普通のホールではアマチュアには①か②までしかやらせてくれません.③は一応プロでないとだめだという建前になっています.でも、小さいホールでは③まで自分たちでやることになります.簡単な話から説明します.


2.1全てお任せで指示を出すだけの時のうまい照明の作り方.



2.1.1下準備

まずどういう照明にしたいのかを考えます.これはどこでもやっていることでしょう.でもうまくいかないことがままあるのは、なぜでしょう.それは、簡単なコツを知らないからです.まずずらずらっと書きます.それから説明します.
①脚本に書いてあることを全部やろうとしない.
②暗転を少なくする.出来れば暗転を入れない.
③セットを作らない時は出来るだけ、ホリゾントを使わない.
④見せ場をはっきり決める.
⑤ピンスポットを使うことを考えない.

①~⑤を一言でいうと最初はなるべく単純な照明プランを作るということです.では①から説明します.

①脚本に書いてあることを全部やろうとしない.
ほんの一例ですが、雨と書いてあるからエフェクトマシンを使って雨の照明を作ったとします.一瞬、観客はワーッとなります.「きれい」とも言います.でも、そのシーンでは、雨がなぜ必要なのでしょう.演劇では多くの場合「雨」は「孤独」や「恐怖」を代弁しています.視覚でこうした効果が出せれば良いのですが、今まで見た舞台ではセリフの力をマイナスにする形でしか働いていないことが多いのです.

②暗転を少なくする.出来れば暗転を入れない.
ホールには非常口があります.この緑色の照明は案外明るくて、暗転になっても舞台の上の人間がうろうろしているのは丸見えです.かといって、防災上の制約でこの非常口の明かりを消してもらうことができないことがほとんどなので、暗転は効果を生まないことが多いのです.
もうひとつには、暗転の長さです.暗転は観客の意識を中断する時間です.ましてや、暗い中での転換には時間がかかります.「暗転3秒」とよく言われますが、3分かかっている劇団を見たことがあります.最初から演出上の処理で暗転を少なくすると、芝居がスマートに見えます.

③セットを作らない時は出来るだけ、ホリゾントを使わない.
「セットを作れないから、セットを作りたくないからホリゾントなのに」という声が聞こえてきそうですが、実はセットがない時はホリゾントというのは効果が半減します.それはフロントスポットライト(観客席の上の右や左についているライト)やシーリングライト(客席の天井についているライト)の光が舞台の床に反射してホリゾントに映るからです.これを避けるには、ステージスポット(舞台の袖のライト)の数を山のように使うという手がありますが、面倒なのと回路を取っていないことが多いため日本では申し訳程度のステージスポットしか使いません.
ただ、なにがなんでも使うなとは言いません.使っても思ったほどの効果は得られないことを承知の上効果的に使って欲しいのです.

④見せ場をはっきり決める.
そんなの分かってるといわれそうですが、これって意外にプロでも(セミプロ?)分かっていないことです.某劇団(セミプロが参加していました)の手伝いをした時、最初から最後まで意表をつく照明をやってくださいと言われましたが、これって感覚が麻痺するから結局ただの照明と変わらないってことになります.
舞台照明は変わったことをやってすごいのではなく、当たり前のことをさりげなくやるからすごいのです.でも、照明の立場をアピールするためには、1ヶ所ぐらいは見せ場を作りましょう.
いままでやって、すごいといわれた照明は単純な照明ばかりです.列車が通過する照明を表現するために、スポットの前でダンボールを交互に振る、夕日のシーンで窓の外からスポットを落とす.こんな単純な照明も、演出のねらいと一致するとエフェクトを使ったものよりも高い評価を受けます.

⑤ピンスポットを使うことを考えない.
ピンスポットがアークからキセノン、ハロゲンになって手軽に使えるようになりました.でも、使い方を知っている人はほとんどいません.
もともとピンスポットは不自然な照明です.なぜなら、色温度が違うからです.(いきなり難しい話になりました)つまり、他の照明の基本的な色と比較すると青っぽい照明なのです.こういう不自然な要素が加わると、照明全体が不安定になります.不自然なことが許されるシーンで使うと本当は効果的です.今まで観たピンスポットの一番効果的な使い方は東京演劇アンサンブルという劇団の上演した「奇跡の人」でヘレンの手が言葉を求めている時に手だけにスポットがあたっているというシーンです.
フォーロースポットとして役者の顔を見せたい時はディザーでエッジを消して、A3ぐらいのプラステートを入れてみるのも手です.その時には基本的にはバストから上をフォローするようにします.(この行だけ専門的になってしまいました.ピンスポットはシャッターとディザーから構成されています.シャッターは円を大きくしたり小さくします.ディザーはピンスポットの光のふちをはっきりさせたりぼやかしたりします.プラステートには色をつけるためのものと色温度を変換するためのものとがあります.後者は本来テレビカメラ用ですが、演劇にも使われるようになりました.A3はオレンジがかったフイルターです)
最終的には演出とよく打ち合わせをしてください.けんかしてもいいでしょう.照明と演出がけんかをしている劇団をたくさん知っています.商売で引き受けているのでなければ、真剣にやっているのならけんかするのが当たり前ですから.演出は自分のイメージだけで勝手なことを言います.これに負けてはいけません.立場が違うということは重要なことです.(でも、相手の言うことが納得がいくならあっさりゆずりましょうね)


2.1.2 打ち合わせ

ホールの人間と打ち合わせる時に仕込み図を持っていけばいいのでしょうが、何校かの共同公演では仕込み図の通りに吊りこむのは無理があります.図まではいらないはずなので、きちんとアピールしましょう.
説明の順番はこんな感じです.

①大道具の位置と人間が動く範囲をはっきりという.
②どういう地明かりが欲しいのかを説明する.
③特殊な照明の説明をする.
④きっかけを説明する.

これを打ち合わせの口調でやるとこうなります.
「今回の芝居は、舞台のここからここまでを使います.ここは家の中で、ここから先は家の外です.場面としては昼間のシーンがほとんどですが、夜のシーンは雨が降っている設定です.地明かりは2シーン組んでいただければ結構です.独白のシーンが3回あってできればそれぞれにサス(舞台の真上からの照明)を下さい.場面の切り替えは、この脚本に地明かりの指定とサスの指定を書いてあります.きっかけは(以下略)」という具合です.
この時にどう明かりをつけて欲しいのか、どう消して欲しいのかを説明します.これについては次に詳しく説明します.


2.1.3本番中の指示の出し方

照明の点け方消し方はS.I.(スィッチイン=急いで点ける)、S.O.(スィッチアウト=急いで消す)F.I.(フェードイン=ゆっくり点ける)、F.O.(フェードアウト=ゆっくり消す)の4つしかありません.
急いで点けるのはぱっと点けてくれという意味ですから、まああまり問題はないのですが、(消すのも同じ)、ゆっくり点けたり消したりするのはセンスの見せ所です.手振り身振りを入れて指示を出しましょう.それから、サスだけを残してゆっくり消すのも効果的です.こういう時には、音楽のムードに合わせてとか役者のこの動きに合わせてとか、打ち合わせの時には、分かっているだけの情報をホール担当者に出します.当日変更がある場合は早めに指示を出すこと.そして、自分が舞台に立っているかのように、役者が喋りやすいように指示を出します.
時々、インカムで指示を出してくる演出や先生がいますが無視しましょう.(もっと明るくしろなどという指示はもってのほかです)
失敗した時は照明担当の責任です.責任の所在は明確に.気にすることはありません.照明の指示の間違いで舞台の上で死ぬのは芝居だけです.だからこそ、次の日に腰が立たなくなるほど神経を集中して指示を出してください

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