演劇書き込み寺

「貧乏な地方劇団のための演劇講座」とか「高橋くんの照明覚書」など、過去に書いたものと雑記を載せてます。

高橋君の照明覚え書き-3

2012年04月22日 13時21分28秒 | 高橋君の照明覚書

これも、今回で最後です。
これは、これで一応完結しています。

3.教室での上演

スライドボリュームの溝きりに苦労した。
右の二つのつまみは手元灯り用の調光。
100Wまでの使用が可能.

3.1教室を暗くする

教室を使うときに照明担当者が最初に直面する課題は、教室をどうやって暗くするかということです.方法としては6つ挙げられます

①断念する
②夜やる
③暗幕を使う
④黒ラシャ紙を貼る
⑤ダンボールを貼る
⑥黒ビニールを貼る

①断念する
もっとも簡単で照明を使わないということですが、朗読劇やコントならいざ知らず、せめて照明ぐらい使いたいというのが人情でしょう。自分たちで照明なしでやったのは子供向けの、野外劇が一本あるだけです。これはこれで結構難しかったです.
②の夜やる。
現在の教育環境では実施不可能でしょう。40年ほど前には中学校の文化祭を夜中庭でやっているのを観に行った記憶があります.当時は土曜日も休みではなかったし、農家では日曜日も休みを取れなかったりしたからかもしれません.地域の交流ということを含めて、もう一度検討してもいいと思います.

③暗幕、あるいは遮光幕を使う、
設備があれば簡単ですが、もしなくて購入するとしたら、暗幕は高いし、廊下側にカーテンレールがない教室が多いでしょうから設置も大変です.

④黒ラシャ紙を使う.
これが一番確実です.ただ、高い、破れやすい、案外光を通すという欠点があります.あと、ダンボールの所でも触れますが、どうやって貼るのかなどが問題になります.

⑤ダンボールを使う
遮光性が高く、もらってくればタダ、という長所があります。ただ、重いので窓に貼る時にはガムテープなどを使わなくてはなりません.周辺の塗料がはがれたり、冊子に糊が残っても苦情が出ない環境なら、経済的です.もうひとつの欠点は厚みがあるので、窓ぎりぎりに貼ると窓の開閉が出来ません.仕込みやゲネから長時間使うとなると、換気設備のある所でないと辛い場合があります.

⑥黒のビニール
昔だったらごみ袋も使えましたが今黒のごみ袋を使っている自治体は珍しくなってしまいました.農業用のビニールマルチは値段も安く、2枚折りにするとかなり遮蔽度も高く、かつ軽いのでセロテープや両面テープでも簡単に固定できます。残念ながらこれも産業廃棄物の指定を受けているようなので、学校の花壇に使って自然風化を待てる環境でないと使えません.意外なところに環境問題は潜んでいるものです.

③~⑥のどの方法を選択するにしても、換気には注意してください.観ているうちに気持ちが悪くなったらせっかくの芝居が台無しですから.


3.2出入り口も暗くする

意外と忘れるのが出入り口です.誰かが出入りするたびに明るくなっては困ります.ここにはお金をかけて二重に暗幕を張ってください.係りをつけられるなら、ここに誘導係を置きます.


3.3照明機材

教室を使うと会場の電気は15A程度ですから、基本的にはスポットを使うのはあきらめたほうが賢明です.50Wや100W、250Wのスポットライトもありますが、普通はまず持っていません.それと、レンズのある灯体はないものと比較すると暗くなります.
既製品でおすすめはフラットライト(150~200W)ですから、6灯使っても12Aです。ただ、はやらないから今は作ってもいなければ売ってもいないかもしれません.ここ20年ほどは見たことがありません.ホームセンターで売っている奥外灯光機を使うというのも良いのですが、色はかけられません.
となると、自作するのも一案です.

自作するのでしたら、「しぐさんの工作室」(本当はSig's WorkRoomという英語のタイトルです)の中の
「照明わーくす」というページが参考になります.屋外灯光機の改良法まで書いてあります.
http://homepage3.nifty.com/shigsan/lights.htm

このサイトには、調光機の作り方も書いてありましたが、ちょっと使いにくいかもしれません.ついでですからそちらの自作のサイトも紹介します.
かなり年下の友人です、
http://www3.justnet.ne.jp/~ebisui/butai.htm

「劇団創造市場」
http://www.asahi-net.or.jp/~ep2t-kmt/sozo.htm
照明の説明のページは、なんか見たような文章も並んでいますが丁寧です.

今回、この原稿を書くためにいろいろ検索してみましたが自作記事でひっかかるのは「照明ワークス」のしぐさんを除いては知りあいばかりでした.技術立国日本はどうなるのだろうと考えさせられる結果です.


3.4調光卓の自作(付記)

少し専門的な説明を付け加えます。
その前に、調光卓は少ない回路でもその先に回路を切り分ける分電版があると2倍3倍に回路を使えます.最初に1台調光卓を作ったら、1台分電板を作るというのがいいペース配分です.
さて、今まで紹介してきたページの調光卓は、普通のコンセントから電気をとることを前提にして書かれています.でも、もう少しスポットをたくさん使いたいときにはブレーカーから直接電気を取ったり、発電機を使うこともあります.こういう時には、ブレーカーから調光機までを単相3線で配線しないと、位相のバランスが悪くなります。
そこで、単相3線に対応した調光機を作る時にはフェーダーの配置の設計に注意が必要です.つまり6回路だと左側の100Vが左からかぞえて1、3、5、右側の100Vが2、4、6のフェーダーになるように設計します.こうすることで隣り合った2つを地明かりなどで使うとバランスがとりやすくなります.既製品の調光機を使ってブレーカーから電気を引いたことのある人にはなんとなくわかってもらえると思います.
なお、ヒステリシスの軽減、フェーダー開始位置の問題、ノイズ対策(フイルターを入れる必要は必ずしもない)、マスターフェーダーの問題については説明が長くなるので省略します。

1回路は15A、T型のコンセントで出力している
背が高いのはファンの大きさに規制されている.


3.5うまい当て方

教室のもうひとつの欠点は天井が低いということです.あたりまえのことですが、頭の上にサスをつけられません.これで効果が限定されます.このため、脇からか前の上からあてることになります.前からあてるときには本当はなるべく高い位置からあてたいものです.投光角度が低いと光が目に入りますし、顔が光を受けてのっぺりします.(これをハレーションといいます)
脇からあてる時は、観客の目にライトが入らないような工夫が必要です.パンドア(照明用語でライトの前に使う覆いです)があればこれを使います.なければ、アルミフォイルを黒くスプレーしたものを、灯体に貼って目隠しをします.ラシャ紙を使う場合は、火事に注意を.灯体は一般に高熱を発します.貼るのもアルミテープがベストですが、そこまではしなくて良いでしょう.
灯体の数が少ない時は前からの明かりを多く、多い時は脇からを増やします.地明かりはレンズのあるライトを使わないほうが、狭い所では楽かもしれません.焦点距離の短いライトでも教室の狭さでは広がりきらないことがあるからです.最後の手段としてレンズをはずして使います.この手はエッジはきれいに出ませんが、簡単なポチを作りたい時にも使えます.レンズをはずした焦点距離の短いスポットライトに1cm~2cm程度の穴をあけたアルミフォイルをカラーフイルターと同じように差しこみます.あわせがないので、うまくいかないときもあります.試してください.ただし、効果はあまり期待しないように.
いざという時は、懐中電灯を使ってください.光が弱いので客席の一番前に座って使うのも方法です.ストロボも同じです.距離があると効果が出ません.ブラックライトを使うときは、専用の回線を持ってくるのがめんどくさければ教室の蛍光灯を取り替えます.これは客席側に短く切った黒布で目隠しを作って、客に直に光が行かないようにすると蛍光効果が大きく出ます.


3.6どうやって照明機材をつるすか

昔はヒートンを使っていましたが、教室の天井がコンクリートになった今、これは無理な話です.それに照明機材は重いので、缶で作ったような軽い機材以外は吊るのは危険です.というわけで、最近はほとんどの場合単管パイプを使うようになっているようです.単管パイプはホームセンターに行くと売っています。薄肉タイプが出たので値段は驚くほど安くなりました。
組み立て方にはコツがあります.基本はクランプの使い方です.クランプには直交と自在の2種類があります.よく見かけるのは自在だけで組もうとしている場合ですが、これは危険なだけでなく、形よく組めません.直角に交わる所には直交を。斜めに交わる所には自在を使います.それから、コーナーは単管を組み合わせて三角形を作るようにします.早い話が家の柱を組み立てるのと替わりありません.組み立てにはサイズ17のラチェットを使います.スパナでも出来ないことはありませんが、作業効率が悪いのと力を入れないとよく締まりません.
なお、単管を使うときでも本当は落下防止のためのワイヤーを使ってください.プロの舞台では、責任者が最後に落下防止器具がちゃんとかかっているかをチェックしてからバトンを飛ばします.これをやらないと「ガラスの仮面」の月影先生のようになってしまいます.
一番簡単なのはスタンドを使う方法ですが、天井ぎりぎりに取りつけることは出来ません.最近はホームセンターで、工事用のスタンド付照明器具の安いものを売っています.
前述の「照明ワークス」に使用例が載っていました.でも、本当はハイスタンドとトンボを買ってもらうのが一番お勧めです.


3.7配線のおまじない

「にんじん」の作者ルナールの「博物誌」には「へび」「ながすぎる」とありますが、照明のコードには蛇の呪いがかかっていますので、次のおまじないを必ずしてください.
①調光卓につなぐコードは太くて短いものをもちいて、コンセントにはずんぶと根元までしっかり差すこと。
②ドラムリールは締め付けの呪いが強いので、すべてほどいて楽にしてあげるべし.
③スピーカーコードと電気のコードは相性が悪いので、上から見ると$の記号のように、一方ををくねくねとのたうつようにさせること.
④中継の部分は互いに絡ませるように結んでから、コンセントをつなぐこと。
⑤怒りを買うので、机の脚などがコードを踏まぬよう2度見まわること。
⑥コンセントの元にはブレーカーがおわすので、最初にどのブレーカーかを確認しておくこと.

合理的な説明
①調光卓から全ての電気が分かれます.ここで細いコードを使うとコンセント部分やコードの途中で火を吹きます.なお、コンセントは15Aまでとなっていますが、12A程度に押さえたほうが本当は安全です.
②ドラムリールを使うときは、コードを全部ほどいてから使います.まいたままだとコイルになって許容電力よりもかなり低い所でも火をふきます.また、エネルギーが熱に変化されるので、電圧も下がります.
③お互いの干渉を避けるための手段です.必ずしも効果的とはいえませんが、チョークタイプのノイズフイルターが入っていなくてもこうした対応である程度ノイズは防げます.
④はずれないようにするためです.ビニールテープで巻く人もいますが、ばらしが大変です.
⑤10A以上流れると普通のビニールコードはかなり熱を持って柔らかくなります.この時踏むとショートします.ショートすると調光機は一発でその回路がいかれます.保護回路が入っていないと、ブレーカーまで飛ぶことになります.
⑥そのブレーカーが飛んだ時どこにあるのか分からないと会場の電気を回復できません。最初に探しておきましょう。

配線の注意点はコードはなるべくキャブタイヤかポリエチレンのものを使うということです.それとコンセントがいくら15Aつかえても、コードが12Aしか使えないものだとショートしたり燃えたりしますから用心が必要です.
規格については色々なページに載っていると思いますが、前にも紹介したこのページに詳しく載っています.コンセントも本当はT型を使いたいところですがこれは無理でしょうね.

ka-i-ka-n
http://homepage2.nifty.com/ka-i-ka-n/index.htm


3.8仕込んでからのおまじない

①点灯テストは普通のコンセントを使うべし.
②調光機を使う前は、微かに点けて3分の祈りをささげるのがよい.
③キセノン、ハロゲン電球は怒りを買うので素手で触るな.

合理的な説明
①吊りこみも配線も終わったら、点灯テストですがこれは調光機に直接差しこんではいけません.普通のコンセントで試してください.灯体がショートしているような時、調光回路に直結していると回路がとびます.今まで紹介した自作調光機はみんな直結型のようなので、テストは必ずコンセントに直接差してやってください.ショートしているとブレーカーがとびます.
②いったんテストが終わると、大丈夫だと安心しますし、回路の順番が変わったりすると大変だと思うから、普通は次の日からは調光機につないだ状態ですぐ点けようとします.でも、いきなり100%で使用すると電球は切れやすいので、点くか点かないか程度にフェーダーを上げて暖めてから使うと電球も調光機も長持ちします.なぜなら、電球が切れた瞬間にショートしたのと同じ状態になって、回路がとんだのを何回も見ているからです.さらにいうと30%程度の電流では電球は光りませんが、温まります.予備電球を用意しておくのがもちろん重要ですが、切れないようにするのも大事です.
③高熱を発する電球は手の油がつくとそこから膨れてきたりするそうで、昔ある照明屋さんから教えられました.まあ、そんなことがなくても熱かったりするので、フェーダーをいじる時以外は手袋をしたほうがいいでしょう.

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