ラミ・デュ・ヴァン・エフ シェフのブログ ~言葉の錬金術~

フランス料理に限らず、色んな話のブログ内容です。

意地っ張りと負けず嫌いの境界線はどこか

2008-09-13 13:56:43 | Weblog
 
 いじ[意地]①気持ち(の持ち方)~がわるい、②やりとおそうとする気持ち、~を張る、③欲、~が汚い、欲張りだ(デイリーコンサイス国語辞典より抜粋)

 「意地っ張り」というとイメージが悪いのですが、こと仕事に関して言えばこの気持ちが必要な時もあるように思います。
 しかし、この「意地っ張り」を無関係な時に乱発する者もいるわけでして、私の友人には「意地っ張り」というのを通り越して「負けず嫌い」というものに昇華しているヤツもいます。
 この気持ちは飲んでいる時によく出るらしく、一歩も引こうとしないのでイライラもしますが、それ以上に笑わせてくれたりするわけです。
 昔、友人と飲んでいる時、なぜその話に行き着いたのかは失念しましたが、かぐや姫の名曲「神田川」の話になりました。
 酔いも廻ったのか「俺は歌詞を全て暗記している!」と豪語し始めた彼に「じゃあ、歌ってみろよ。」と煽ったのが始まりでした。

「藤原、あの曲はな、切ない歌なんだよ!分かるかお前?」

「分かったから歌ってみろよ。」

 すると彼は、目を閉じて頭の中から歌詞を捻り出すようにこう歌い出しました。

「あなたが編んだ赤いマフラー・・・」

「ちょっと!ちょっと!ストップ!最初からつまづいてんじゃねーかよ!」

 そう、歌を制止すると、彼はジョッキのビールを飲み干してこう言いました。

「ウルセーな、ちゃんと聞け!行くぞ! あなたが編んだ赤いマフラー・・・手ぬぐいにして・・・」

「ちょっと!ストップ!ストップ!お前、彼女が編んだマフラー、手ぬぐいにすんのかよ、赤いマフラーで大事なところ隠して銭湯に入るんじゃねーだろーな!」

「藤原、ちゃんと聞け!行くぞ! あなたが編んだ赤いマフラー・・・手ぬぐいにして・・・風呂屋へ行ったっけ・・・窓の外には神田川・・・」

「もういいよ、笑いすぎたよ。どんな銭湯だよ。歌詞、意味不明だよ。」

 そんな事がありました。最後まで彼はこの歌詞を否定する事はありませんでしたが、私はそれからも彼と飲む時、必ず「神田川」の歌詞を聞いてみるのですが、毎回、微妙に歌詞が変わっているのが気になります。
 因みに、正しい歌詞は「あなたはもう忘れたかしら、赤い手ぬぐい、マフラーにして、二人で行った横町の風呂屋、「一緒に出ようね」って言ったのに、いつも私が待たされた・・・」です。「窓の外には神田川」は2番に登場します。

 このように意地が引き起こす混乱もありますが、意地を持ってやり通さなければならない事もあるわけです。
 それは冒頭にも書いたように仕事の事だったりするわけですが、例えば、私事で恐縮ですが、「フォン関係は缶詰を使用しない」「仕込みをし過ぎない」「お客様からすすめられたワインは断らない」など様々です。(3番目はあまり関係有りません)
 「フォン関係は缶詰を使用しない」というのは、厨房を一人で回しておりますから、「一人で大変なので缶詰を使うしかありません」と言ってしまえば済む事だと思うのですが、それでは料理理念が伝わりませんし、「一人で大変」なのは、お客様には何の関係もありません。
 ですから、意地でもフォンを取らなければならないでしょう。
 昨日、「ソース・アメリケーヌ」のベースを取ったのですが、とあるお店で食事した際、ポワソン(魚料理)のソースのアメリケーヌは一口食べて缶詰だと確信しました。
 悪い事だとは思いませんが、厨房には結構な人数の方いらっしゃいましたからアメリケーヌくらい取れるのではないのか?と単純に思ってしまった次第です。

 ソース・アメリケーヌの作り方はこのようになります。

①鍋に潰したにんにくをオリーブオイルを入れ火に掛け、香りが出たらスライスしたミルポワ(タマネギ、人参、セロリ)を炒める。

②半割して砂袋を取った海老の頭(ラングースト、伊勢海老の頭が理想的)を5センチ角くらいにカットし①の鍋に入れ炒める。

③水分がなくなり、ジュ(エキス、ジュースの事)がカラメル化してきたら、ブランデーでフランベ、煮詰めて白ワインを入れ、水を入れる。

④ホールトマト、トマトペースト、ローリエ、エストラゴン(なければいらない)タイムを入れ1時間くらい中火で煮込む。

⑤シノワで力強く濾す。さらに茶漉しでも濾す。(フォン・ド・ヴォーと同じ理由、目が粗いと雑味が残るから)

 と、このような行程です。
 特に難しい作業があるわけでもないですから、材料費を気にしなければ取れるものだと思います。
 伊勢海老の頭、というところで引いてしまうのかも知れませんが、現在、伊勢海老の頭だけ、というのも流通しておりますから(意外に安い)是非、自家製を使用していただきたいと思います。

 シノワで力強く濾している様は、まさに意地を張っているように見える筈です。いや、フォンを取っていること自体、意地を張っているのかも知れません。

 いいんです。意地っ張りで。いや、ただの負けず嫌いなのかも。

 でも、そういう人間ですからご勘弁を。



 
 
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