MARU にひかれて ~ ある Violin 弾きの雑感

“まる” は、思い出をたくさん残してくれた駄犬の名です。

呼び交わすモティーフたち

2010-07-07 00:00:01 | 星と音楽・科学一般

07/07 私の音楽仲間 (181) ~ 私の室内楽仲間たち (161)




      Beethoven『ラズモーフスキィ』第2番




   この集いは、すでに何度かお読みいただいているグループです。

         これまでの 『私の室内楽仲間たち』




    [譜例





 この第Ⅱ楽章は、冒頭に "Molto Adagio. Si tratta questo pezzo
con molto di sentimento." と記されています。

 "Molto Adagio" 以下は、「この楽章は深い感情を抱いて演奏
される (するように!)」の意味になります。

 確かに瞑想的で、捉えどころの無い楽章ですね。



 作曲者は、「この楽章のアイディアが生まれたのは、星を
見つめながら、天体のハーモニーを思い浮かべていたとき
だった」と語ったのだそうです。 弟子のチェルニ―が伝えて
いるのですが、真偽のほどは明らかではありません。

 もしこれが本当なら、「茫洋としているのは、視野が宇宙的だ
から」ということになり、瞑想するには打ってつけの条件ですね。




 では、演奏する側はどうすればいいのでしょうか? やはり
瞑想しながら、茫洋と弾きさえすれば、作曲者の心境が伝わる
ものなのでしょうか?



 確かに、「譜面ヅラどおり音を出せば、ちゃんと伝わる」場合
だって、もちろんあります。 でもこの楽章は、むしろその対極
にある音楽でしょう。 聞く者を、表面的な効果で虜にするよう
な響きでもありませんし…。



 演奏者として大事な姿勢は、やはり、「作曲者を理解する」
こと、もっと正確に言えば、「作曲者が何をしているのか?
を知ることでしょう。

 「心情を理解する」、「作曲当時の周辺の状況を知る」ことも、
もちろん大事でしょうが…。



 そんなとき私たちは、楽譜を何度も見なければなりません。
もちろん理解するためにです。

 「この人は一体、何をやっているんだろうな…?」




 以下も、前回ご覧いただいた譜例です。 3つの音からなる
音階の、が目立ちます。

 しかし "主旋律" とされている ViolinⅠには、これはほとんど
見られません。 むしろ重要なのは、最初の4つの音符です。
これまでには無かった形ですね。



    [譜例






 それに、私にとっては大事な宿題が残っていました。



  (3つの音符) も、また (4、5度音程) も、この譜例には
それぞれ箇所ずつしか見られないというのに、
 
 「箇所、回現われている…!」

…などと申し上げてしまったからです。 何とかしないと
いけません。




 以下は、さらに手を加えた譜例です。 修正され、消えて
しまった部分もあります。



 Vn.Ⅰの最初の4つの音符は、"下降2度" が2回並んだ形
から出来ています。 動きは極めて単純です。

 これがもし "Mi - Re♯ - Fa♯ - Mi" ならば、"Si♭- La - Do -Si?"
と同じ形で、名高い『BACH主題』になるのですが。




 3小節目は、最初の2小節間が凝縮された形です。

 また同時に、Viola の3つの音符と、同じ方向に動こうとして
いるように見えます。 それとは逆方向に動きたいのが Vn.Ⅱ
です。 ハーモニー的な制約もあるので、ともに完全には実現
していませんが。



 ところで Vn.Ⅰ以外の三つのパートは、どんな様子
でしょうか?

 最初は散発的に、3つの音で答えていただけです。
しかし後半では、この "2つの音符" を、自分たちも
模倣するようになります。



    [譜例





 それにしても、最初の2小節間に書かれた青い線は、
一体何なのでしょうか? 赤いのまでありますね。



 青線は、各パートの最初の音符をつないだものです。
それらは順に、"Mi"、"Si"、"Fa♯"、"Do♯" の音ですが、
これはどういう意味なのでしょうか?

 各音符の間の音程は、すべて完全なのです。 音符
は4つもあり、同じ音に帰ることはありませんが。



 また赤い線は、"Si"、"La?" (Viola)、"Si" (チェロ) と降りて
行きます。 それぞれの間隔は、ほぼ1オクターヴもある、
広いものです。

 でも音名としては隣り合わせですね。




    [譜例





 もうお解りのとおり、それぞれは、

度や度の跳躍]、

音階で上下し、元に戻るつの音]

と密接な関連があるように思われます。




  (続く)




 音源はこれまでと同じものです。



ブダペスト弦楽四重奏団:1951年5月録音

バリリ四重奏団      :1956年録音

音源ページ




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