MARU にひかれて ~ ある Violin 弾きの雑感

“まる” は、思い出をたくさん残してくれた駄犬の名です。

テンポ設定の失敗

2009-03-09 00:00:34 | 私の室内楽仲間たち

03/09  私の音楽仲間 (23) ~



   Mozart の弦楽四重奏曲第22番変ロ長調 K.589

             テンポ設定の失敗


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 ハイドン『皇帝』の話が長くなり、中断してしまいました。



 この曲は (17) と同じ日の後半に演奏されたものです。



メンバーは、私とSa.さんが ViolinViola はS.さん、そして

チェロがN.さんでした。



 お茶とお菓子を囲んでの休憩。 話が弾みます。 初対面
同士のS.さん、N.さんの間にも、共通の知人が何人か
おられることが判りました。

 私自身、この場だけを取ってみても、何度も同じことを経験
してきました。 本当に音楽の世界は狭いものです。




 さて、この曲が、チェロの名手でもあったプロイセン王、
フリードリヒ・ヴィルヘルムⅡ世に献呈されるために
作られたことは、よく知られています。

 事実、チェロには Vn.Ⅰと同等あるいはそれ以上の
活躍の機会が与えられます。 細かい動きだけでなく、
特に、高い音域で歌うように要求される箇所が大変多く、
チェロの難曲としても知られています。



 これを選曲の候補に最初に挙げたのは、S.さんでした。
もちろん、チェロの難しさは気遣っておられましたが。

 あるいは、N.さんが「どうしようか」と迷われているうちに、
他の三人が、何となくけしかけてしまうことになったのかも
しれません。

 N.さん、ごめんなさい。



 でも、当日のN.さんの出来は見事でした! 私だけでは
なく、全員が称賛しました。 それも、難所だけではなく、
アンサンブルや勘定においても。

 数える難しさ、重要性については、やはり前回の(17)
触れました。



 「こんな高い音域で弾いたことはない」と言っておられた
N.さん、余裕綽々 (しゃくしゃく) に聞こえました。

 でも、もし、おっしゃるとおり「猛練習して…」というのが
本当なら、これは大変なことになります。 これに懲りずに、
今後も難曲に挑戦していただければいいのですが…。




 曲は四つの楽章から成っています。



 第Ⅰ楽章 Allegro 変ロ長調 3/4拍子。

 優美なこの調、そして流れるような三拍子に乗って、Vn.Ⅰが
いきなり歌いだします。 どのパートも対等に動き回り、チェロ
には例の高音域で歌が…。



 第Ⅱ楽章 Larghetto 変ホ長調 2/2拍子。

 主導権は終始チェロに。 Vn.Ⅰがこれに応える、美しい緩徐
楽章です。



 第Ⅲ楽章 MENUETTO Moderato 変ロ長調 3/4拍子。

 「メヌエットって、普通はもう少し楽なはず。」 そうS.さんが
言われるとおり、これは、内声の Vn.Ⅱ、Viola にも、気の
抜けないパッセジが多い楽章です。

 私のパートも、TRIO に入るとややっこしい一節が…。
こういう箇所は、たださらうだけでは能率が悪いようです。
パート譜の9小節間全体をよく見て、全体の勘どころを
押さえ、楽器を手にしていないときでも、譜面の音が頭に
浮かんでくるようにしないと、いけないようです。

 「何とか無事に乗り切った」…ように、誤魔化して聞かせる
のも、"技術" のうちでしょうか。 "最短距離"、"最小運動"…
などと言っているくせに、自分では出来ない後ろめたさを感じ
ながらですが…。



 第Ⅳ楽章 Allegro assai 変ロ長調 6/8拍子。

 とにかく軽やかに動かなければいけません。 もちろん
f と言えども。 力で向かっていったら、間違いなく跳ね返され
てしまう典型のような楽章です。




 全体を通じて、曲をよくご存じのSa.さんS.さんに助け
られながらの演奏でした。 Vn.Ⅰを弾かせてもらったとは
言うものの、この曲は譜面をじっくり見たことも、また実は
聴いたこともなかったのです。 まことにお恥ずかしい話
ですが。




 ところで、特にN.さんには大変申しわけないことをして
しまいました。 第Ⅱ楽章のテンポのことで。




 最初に通す前に、N.さんがみんなに尋ねました。
「どのぐらいのテンポですか?」 まずチェロが歌いだす
からです。

 それに対して私が答えました。 「これぐらいかな…?」
と弾きながら。 するとN.さんは、「もう少しゆっくりで…」
と言われ、若干遅めのテンポで始められました。



 そして、一通り全体が終わって、もう一度この楽章に
差し掛かったときです。

 「もっとずっと遅く、ひとりで練習していたのですが、
馬鹿みたいに遅く一度やってもいいですか?」

 そして、美しい音で始められました。 最初の音符が、
白玉の、二分音符で始まるゆったりとした歌です。



 それは、本当に素晴らしいテンポでした。 他の全員も
伸び伸び弾けていたように、私も感じたのです。




 実は私のパートには、ニ箇所だけ、速いパッセジが出て
きます。 どちらも音階をレガートで上がり降りする、同じ
ような一小節ですが、それはヒゲ三本の、三十二分音符
書かれているのです。

 その部分が、いとも自然に、余裕ありげに響いたのです。
単に私の技術が拙いからでなく。 その方が、曲の雰囲気に
ピッタリ合うのです。




 よく言われる金言に、「テンポの設定は、一番細かい、
短い音符を基準にしなさい」というのがあります。

 最初が二分音符で始まっても、後でどんどん短い、細かい
音符が出てくる場合、最初が速いと、後で「自分の首を絞める」
ことになりかねないからですね。

 これを、まさに自分でやっていたことに、この日、初めて私は
気付いたのでした。 偉そうに、いつも他人 (ひと) に言っている、
同じ内容のことを…。 それに気付かせてくれたN.さんに
感謝し、また申しわけなかったと思うのです。



 なぜ自分でこれに気が付かなかったか? その理由も、
この日の自分の弾き方を思い返してみると、そこにいくつか
原因があったような気がします。

 まだまだ全然ダメ。 一生勉強です。




 音源です。



アマデウス弦楽四重奏団 1955年6月5~7日録音 全楽章



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