MARU にひかれて ~ ある Violin 弾きの雑感

“まる” は、思い出をたくさん残してくれた駄犬の名です。

深夜の到着

2009-03-12 00:00:25 | 私のオケ仲間たち

03/12  私の音楽仲間 (25) ~



  私のオーケストラ仲間たち (2)  深夜の到着




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 今を去る20数年前。 あと数週間で、関越自動車道が
やっと全線開通を迎えようとする頃のことです。

 私はひとりで車を飛ばしていました。 九月の夜更け、
目的地は奥志賀高原です。



 「ある学生オーケストラの合宿があるのだが、あいにく
指揮者も、弦楽器を教えるトレーナーの先生も、今回は
誰も来ない。 よかったら…。」

 当時自分が在籍していたオーケストラの同僚から、その
ような話がありました。 私がまだお邪魔したことのない
団体です。



 東京を発ったのは、夜の九時過ぎ。 自分のスケジュール
の関係で、どうしてもこの時間になってしまったのです。

 翌朝あらためて出直してもいいのですが、同じ日の夜には
再び東京に向かわねばならず、却ってきついので、そのために
このような形になってしまいました。

 今夜のうちに到着すれば、明くる日は朝から練習にご一緒
出来ます。




 渋川で関越を降り、一般道を西へ。

 運転しながら、私は不安でした。

 「こんな夜中に着いても、目的地のホテルが判るだろうか?」

 もちろん、ホテル名は聞いています。 しかし場所は山の中。
直前になって決まった話なので、学生さんたちとは、連絡を
直接取る時間がありませんでした。



 そろそろ急な山道に差し掛かります。 長野原から北へ。
草津温泉を抜けます。

 心配は尽きません。

 明るい昼間なら、現地の案内地図も道端で見られるし、
遠くからホテルの看板も探せるでしょう。 しかし、今は
深夜です。

 直接連絡を取ろうにも、携帯電話の無い時代です。
とにかく、行くよりほかありません。



 白根山です。 窓を閉め切っているのに、何と強烈な硫黄
の臭いでしょう。 このあたりは確か "危険、駐停車禁止" の
標識があるはずです。

 「今ここで事故っても、明日の朝まで誰も通らないな。
まずいぞ…。 硫化水素中毒死体で発見か。」

 だんだん心細くなってきました。 それに、折からのひどい
霧。 ライトを照らしているのに、場所によっては数メートル
先も見えません。 白い塊がふわふわと、魔物のように、
目の前に襲い掛かります。 スピードを落とせ、落とせと
言わんばかりに。

 険しい上り坂。 目の前に押し寄せる急カーブの連続。

 それ以上に怖かったのは、視界が悪くて気付かぬうちに、
勾配が急に下りになり、あっという間にスピードが上がって
しまった瞬間でした。 ちょうどジェット・コースターの頂点で
投げ出される、あの感じです。 直線だからまだよかった
ものの、これにはぞっとしました。

 今度は下り坂の連続。 こちらも怖い。スピードが落ちず、
カーブを曲がり切れなければ、今度はガード・レールを突き
破って転落です。 とにかく見通しが悪くて。



 何とか無事に危険地帯を通り抜けました。 やがて視界が
開け、道も平らに。 再び順調です。

 渋峠丸池発哺と、道はまた登りに。

 そして山ノ内町一の瀬。 もう少しです。




 ついに奥志賀に入りました。

 しかし夜更けの一時過ぎのこと。 
目的地は判るでしょうか。



 しばらくゆっくり行くと、道の左に大きな広場のようなものが
あります。 そして中央にはロータリーでしょうか。 その奥
には、どうやら何軒かホテルが並んでいるようです。

 でも真っ暗です。昼間なら見えるはずでも、やはりホテル
名は、まったく見えません。 近寄って、車中から一軒一軒、
探すしかないのでしょうか。

 さすがの私も、だんだん心細くなってきました。 本当に
この周辺でいいのでしょうか。



 そのときです。 周りはみな真っ暗なのに、中で一つ
だけ、玄関先に明かりの点いているホテルが、遠くに
小さく見えました。



 (続く)