MARU にひかれて ~ ある Violin 弾きの雑感

“まる” は、思い出をたくさん残してくれた駄犬の名です。

チャィ5 第Ⅱ楽章

2009-03-17 00:00:38 | 私のオケ仲間たち

03/17  私の音楽仲間 (30) ~



  私のオーケストラ仲間たち (7)

   チ(ャ)ィコーフスキィ 交響曲第5番 第Ⅱ楽章







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 神奈川大学管弦楽団の、初対面の合宿での光景、

その続きです。




 食事を前にしての、一瞬の恐怖。 しかしそれは、

「お帰りになる前に、一言コメントを」という依頼でした。




 そこで私は、深夜の到着の際の出迎えに対して、心からの
感謝を伝えました。

 さらに、すれ違う際の礼儀正しい挨拶、仲間同士の意思
疎通を確認する、はっきり大きな声での返事、そして、練習の
途中で休憩のたびごとに出される、コーヒーや紅茶に対しても、
称賛や感謝を。

 自分たちは口にせず、指導者にだけ出してくれる、その
心遣いに対しても。

 その後20数年間、これらの良い伝統に、基本的な変化は
ありません。




 実は食事前のこのとき、もう一つ頼まれごとがありました。

それは、自分たちは久しく合奏をやっていないので、
「今度は棒を持ってもらえないだろうか」というものでした。



 チ(ャ)ィコフースキィの交響曲第5番、第Ⅱ楽章の練習を
見てほしいということなので、私は即座に答えました。

 「棒は持たないけど、いい?」と。



 実は私の場合、指揮をする際に、すでにこの頃は棒を使わ
ないようにしていたので、上のような返事になったわけです。

 必要無いのです。 弓と違って。

 インスペクターさん、私の返事を聞いて一瞬びっくりしたよう
でしたが。




 この交響曲には、個人的に幾つも思い出がありますが、
私の場合、その最初の体験は幼少時に遡ります。

 おそらく小学年低学年の頃だったでしょう。 この曲の一節を
耳にした折に、「何て綺麗な曲なんだろう!」と感激し、その後
いつまでも印象に残っていた覚えがあります。

 もちろん、曲名などは長い間わからずじまいでしたが。



 それがこの交響曲第5番のどの部分かと言うと、第Ⅱ楽章
冒頭の、有名なホルンのソロが終わった後の、オーボエの
ソロ
が初めて奏でるメロディーです。

 始まってから2分ほどして登場する。 そしてその後、弦楽器
にも幾度となく、ニ長調で出てくる、あのふしです。

 コントラバスを除いて…。



 最初に現れるときは、嬰へ長調という遠隔調で。 "Con moto"
(停滞せずに) と記された、この上なく優美なメロディーです。
まさにオーボエの音色にピッタリの。

 この部分を耳にするとき、私は "貴婦人" が滑るように足を
運ぶような姿を思い浮かべずにはいられません。




 毎日夕方になると、作曲者は好物のヴォトカ (ウォッカ) 片手に
物思いに耽ったと言われます。

 夢、慰め、憂鬱、そして突如襲いかかる恐怖。 それらが
この楽章にも、とりとめもなく去来します。




 またまたそれてしまいました。

 私の幼ない頃から大好きな、この第Ⅱ楽章。 ここでまた
接することの出来る嬉しさを思うと、ただ単純に喜びを感じ
ざるを得ないのです。

 演奏を共にする仲間がだれであれ。 また、自分がそこで
何を担当するのかにかかわらず。




 その後の合奏の2時間は、あっと言う間に過ぎ去りました。
細かい記憶もありません。

 ただ一つだけ覚えているのは、トランペットを手にした
インスペクター君が、うっとりしながら、仲間の演奏に
聴き入っていた姿です。

 いともにこやかな表情で。 斜めに傾きながら、半身に
なって。

 この楽章は休みが多いので、彼らとしては、普通は退屈
してしまいがちなのですが。



 私はそれを見て、また別の幸せを実感したのです。

 「ああ、多少ともお役に立てたようだ。
 はるばる来た甲斐があった」と。




 この楽章の雰囲気に引かれたのか、窓の外はすでに暗く
なっていました。 部屋の中では練習が終わりに近づき、
(ほの) かな灯を思わせるような二本のクラリネットの音が、
消え入るように遠ざかっていきます。



 まもなく私は奥志賀を後にしました。




 第Ⅱ楽章の音源です。



 [Leningrad Phil / Evgeny Mravinsky /1960] 中途まで



 [全曲盤はこちらにたくさんあります




 (続く)