MARU にひかれて ~ ある Violin 弾きの雑感

“まる” は、思い出をたくさん残してくれた駄犬の名です。

意地っ張りの私

2013-07-27 00:00:00 | 私の室内楽仲間たち

07/27 私の音楽仲間 (520) ~ 私の室内楽仲間たち (493)



              意地っ張りの私


         これまでの 『私の室内楽仲間たち』



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                 バッサリお手打ち
                 意地っ張りの私
                  自業自得の私
                  鍛えられる私




 「ハイドンの四重奏曲では、メヌエットの速度は “3種類”
出てくるんだな。 AllegrettoAllegro、それに Presto。」

 そういうことになるね。

 「じゃ、Mozart は?」

 四重奏曲に限れば、やはり “3種類” だよ。
ただし “Presto” は見当たらないんだ。

 「?? もう一つは、なんなの?」

 “Moderato” なの。 そのうち、この場にも
出てくるかもしれないよ。




 以上は、友人のPCソフト君と私の対話。 “メヌエットの
テンポ” についてのやり取りでした。

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 Mozart の『プロシャ王』 四重奏曲 変ロ長調には、この
Moderato のメヌエット” があります。 [譜例]は、最初の
8小節です。

 このテーマ部分を継ぎはぎしたのが、演奏例の音源]
同じ部分が何度も繰り返されるので、おそらく退屈される
ことでしょう。







 冒頭で聞えるのは、私の声。 「こんなもんで…」と、仲間に
テンポを示しています。

 内は四分休符。 他の三人には、音が無いはずの箇所
です。

 ところが、何度やっても、なかなか足並みが揃いませんね。
それはなぜでしょうか?



 やればやるほどズレていく…。 反対に私は、折を見て
テンポを “是正” しようと努めるのですが…。 少なくとも
“向上” は見られないようです。

 原因は? 色々あるでしょうが、やはり “Moderato” の
メヌエットは珍しいからでしょう。




 メヌエットといえば、Allegro か Allegretto が普通ですね。

 元の意味は、“快適に”、ないし “やや快適に”。 これが
“快速に” を表わすようになったわけです。



 音楽をよく聴き、また自ら演奏するかたであれば、それ
をよくご存じでしょう。 言い方を変えれば、「メヌエットは
快適なテンポだ」…という先入観を抱きかねないのです。

 かく言う私も、この “Moderato” の活字には、なかなか
目が行かなかった。 この曲のパート譜を初めて見てから、
もう四年以上になるというのに。




 Mozart の別の曲には、“Allegro moderato” の指示
も見られます。

 “moderato” は “中庸に” ですね。 “ほどほどに”、
“やりすぎず”…と言ってもいい。 むしろ、否定的な
言葉です。 “中庸” という、その意味とは裏腹に。



 今回のメヌエットが、もし “Allegro moderato” であれば、
まだ “快適に” というニュアンスが感じられます。

 しかし違う。 ただの “Moderato” で、一語だけ独立して
用いられています。



 テンポは、もちろん “Allegretto” より遅いことになりますね。

 むしろ Mozart は、“Andante” と書きたかったのではないか?
…そんな想像さえ可能です。

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 “どっち付かずのメヌエット”、“中途半端なメヌエット”…。

 中途半端に聞える。 …ということは演奏者にとっても、
中途半端で難しいテンポなのです。



 こうなると “快速” でも “快適” でもない。 むしろ「“快適
ないテンポ” で、のんびりと演奏しろ!」でしょう。

 少なくとも気分的には、軽快でない。 不自然と言っても
いいほどに。 私の好みの “チンタラ メヌエット” です!




 「そんなに問題があるメヌエットなら、予め仲間に説明
しておけばよかったのに。」

 そうですね、私もそう思います…。 でも、それは一切
しなかった。 上のような説明はもちろん、“Moderato”
という言葉さえ口にしませんでした。




 それは、きっと私が意地っ張りだからでしょう。 もし、
もう一度この楽章を通していたら、おそらく私も説明を
したに違いありませんが。

 現に私は、冒頭で一度テンポを示しています。 それ
でもアンサンブルが合わないなら、しょうがない。



 この日は、音楽の流れを止めてまで、説明や訓練などは
したくなかった。 私にとっては、いい訓練の場なのですが。

 なぜなら、一旦それを始めると、かなり長時間を要する。
…そう判断したからです。 演奏を “中途半端に” 何度も
止めるのは、良くない。

 (何度か繰り返して慣れるうちに、うまく行ってくれない
かな…。 仲間同士だし。)




 しかし、「メヌエットは速いものだ」…なる
先入観が、もしメンバーにあったら…。

 いくら仲間意識が強くても無理でしょう。



 そういう演奏を、全員が頻繁に耳にしているはずです。

 そして、そのテンポを基に練習してくるのですから!




 たった一語の “Moderato” が、こんなに大きな
悩みの種になるなんて…。



 いずれにせよ、私はこの後、手痛い
しっぺ返しを受けることになります。

 自分の意地っ張りの、代償として。



 もちろん、他のメンバーが、私に
意地悪をしたのではありませんよ。

 …念のため…。 ご安心ください。




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