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飾釦

飾釦(かざりぼたん)とは意匠を施されたお洒落な釦。生活に飾釦をと、もがきつつも綴るブログです。

上田秋成#8・・・「雨月物語/青頭巾」(上田秋成)を読む

2012-04-02 | 上田秋成

さてさて、私は今、上田秋成の「雨月物語」の一部分を読んでいます。全く古典など日常的には触れることなどなく、前に進むのも悪戦苦闘?でも、この時期、この時間「雨月物語」を読むモチベーションがあるわけで、理由は後日に…。

その上田秋成の「雨月物語」の「青頭巾」の章は、本来仏の道に生きるはずの仏僧がエロスの果てに鬼にまで身を落としてしまい、その魂を同じく仏の道に生きる高僧が救おうという話です。とある村の真面目な仏僧が、あるときからお付きの少年を寵愛するという男色のエロスから始まる話。その少年が病で死んでしまうと、可愛さのあまりその肉を喰らってしまうという恐ろしき凄まじさ。貪欲な性の欲望をとことん突き詰めれば鬼畜の道に陥ってしまう?という人の恐ろしい性。食べてしまいたいくらい可愛いいという言葉があるように<食>と<性>は、実は密接な関係があるのだという裏の側面の関係性の真実。実際、女性とセックスする行為を他に表現するときに、いただきますとか食ったとかいうことが無意識に会話などで言われているという事実。「青頭巾」には、男色のエロスと食人肉(カニバリズム)のテーマが流れているのです。「雨月物語」におけるその描写は、以下の引用のようで馴染みのない古典を読んでいてもハッとする。本来、人を救うはずの聖職者であるはずの僧は、愛欲の業欲に落ちたことにより真逆のベクトルの存在となってしまい、村へ来ては死肉を喰らうような鬼になってしまうのです。

“さるに茲年(ことし)四月(うづき)の比(ころ)、かの童児かりそめの病に臥けるが、日を経ておもくなやみけるを痛みかなしませ給うて、国府(こうふ)の典薬のおもだたしきまで迎へ給へども、其のしるしもなく終(つひ)にむなしくなりぬ。ふところの璧(たま)をうばはれ、挿頭(かざし)の花を嵐にさそはれしおもひ、泣に涙なく、叫ぶに声なく、あまりに嘆かせたまふままに、火に焼き、土に葬(はうむ)る事をもせで、臉(かほ)に臉をもたせ、手に手をとりくみて日を経給ふが、終(つひ)に心(こころ)みだれ、生きてありし日に違(たが)はず戯(たはぶ)れつつも、其の肉の腐り爛(ただ)るるを吝(をし)みて、肉を吸ひ骨を嘗(な)めて、はた喫(くら)ひつくしぬ。寺中の人々、院主こそ鬼になり給ひつれと、連忙(あはただ)しく逃げさりぬるのちは、夜々里に下りて人を驚殺(おど)し、或は墓をあばきて腥々(なまなま)しき屍(かばね)を喫(くら)ふありさま、実(まこと)に鬼といふものは昔物がたりには聞きもしつれど、現(うつつ)にかくなり給ふを見て侍れ。”

この鬼が住まう村の村人の一夜の恩を感じ入った高僧が、“この鬼を教化(けうげ)して本源の(もと)こころにかへらしめなば”と鬼に変化した仏僧の元へいきます。その鬼、夜になると高僧を喰らおうとするもその姿見えず、ついに観念してしまいます。その時に高僧が説いたのは、

“江月照松風吹(かうげつてらしょうふうふく)
 永夜宵何所爲(えいやせいせうなんのしよゐぞ)”

という句を唱えその真意を探れ、そしてその真意がわかったとき、仏心に出会うことができるであろうと青頭巾を頭に被せたのです。上記の句は、唐の禅宗、玄覚の作った証道歌に収められた句の一部で禅の本義を説いたものということ。その意味は、月は入江の水を照らし明るく、松を吹く風はさわやかである。この秋の夜長、清らかな宵の景色は、一体何のためにあるのだろうか?それは自然のままの姿でなのである、といった風。しかし、しかしです。この鬼と化した仏僧は、高僧が “一たび愛慾の迷路(めいろ)に入りて、無明(むみょう)の業火(ごふくわ)の熾(さかん)なるより鬼と化したるも、ひとへに直(なほ)くたくましき性(さが)のなす所なるぞかし”と言うように、情念としての想いが強すぎたのです。あまりに人間的すぎた。人としての想いが強すぎた故に寵愛した少年の肉を喰らってしまう、想いが強すぎた故に、後の展開にわかるように白骨化するまで、その情念は上記の句を唱え続けたという凄まじさ・・・。“心放せば妖魔となり、収むる則は仏果を得る”という上田秋成の言葉。ちなみに、鬼と化した僧は真言宗、それを諭した高僧は曹洞宗という構図が気にならなくもないのですが・・・ネ。 

“”部分、「雨月物語」(上田秋成)角川ソフィア文庫より引用

改訂版 雨月物語―現代語訳付き (角川ソフィア文庫)
鵜月 洋
角川学芸出版
雨月物語 (ちくま学芸文庫)
上田 秋成,高田 衛,稲田 篤信
筑摩書房
雨月物語 [DVD]
京マチ子.水戸光子.田中絹代.森雅之.小沢栄太郎.青山杉作.羅門光三郎.香川良介.上田吉二郎.毛利菊枝
Cosmo Contents

ユーチューブでこんな朗読の画像を見つけました。

 

 

 

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