
■放送:1978年、NHK
■演出:和田勉
■出演:大谷直子、鶴見辰吾、佐藤慶、中村翫右衛門、宇野重吉
松本清張の小説を映像化したもので田中裕子が主演した映画「天城越え」があります。情感たっぷりに描かれた作品で、映画として評価も高く、菩薩のような田中裕子の名演は特には深い印象を残します。その名高い映画よりも5年前、この清張の「天城越え」がNHKのテレビドラマとして和田勉の演出で映像化されていました。
まず娼婦役を演じているのは大谷直子。全身から醸し出しす女の色気は天性のものか?色っぽさは先の田中裕子と比べダントツに上回っています。着物も似合っています。演じた当時は、まだまだ若かったでしょが色気はすでに熟女の域ですね。ボクがこのドラマの少年と同じ年頃、こんな色っぽい女性と親密であった一時があったとしたら?それは甘酸っぱい思い出ができただろうなと、見ていて羨ましい限りでした。やっぱり男の子は、若い一時期お姉さんに憧れるものだし…。ドラマでは女に貧しいさ故にに子供を死なせてしまった悲しい過去をオリジナルに付け加えていました。
そして土工を演じた佐藤慶、こちらも父親に崖の上から突き落とされたことがある深い心の傷を負った男として設定されています。つまり天城で出会った男と女に小説では書かれなかったドラマならではの設定をくむことで少年の仄かな恋の話とは別の大人のエピソードを付け加えることで厚みを持たせようとしたんでしょう。少年を演じたのは鶴見辰吾、こんな子供の頃から俳優として活躍していたとはびっくりしました。かわいい坊やなんですよね。その彼が嫉妬にかられた怒りにより土工を殺害することになるのですが、それにはあまりにも小さすぎるというか、かわいすぎるというかちょっと無理があったような気がしました。
でもそれよりも、それはおかしいんじゃないのと思ってしまうのは、事件から年月が経たときの俳優のキャスティングです。その少年が大人になり印刷所を経営するようになった時、当時事件を担当した刑事が彼のもとを訪ねてくる場面があるのですが、少年を宇野重吉、刑事を中村翫右衛門が演じています。しかし、どう見ても翫右衛門よりも宇野の方が老けている。事件当時は宇野は子供であり、翫右衛門は刑事なのだから大人であったはずなのに、宇野の方が老けてしまっており見た目の印象の逆転現象が起きています。これだと辻褄があわず、どう考えてもミスキャストではないかなと思えてしまうのです。
話があら探しのようになってしまったのですが、このドラマで見逃せない部分がありました。それは警察が、土工殺しの犯人として大谷直子演じる大塚ハナを不眠不休の状態に追い込んでそれを吐かせようとします。彼女は否定します。なぜなら本人がやったわけではないですから。しかし、警察の思い込みと結果を出したいが故の非人間的な取り調べによって「わかりました。どうしても私がやったことにしたいんでしょ。もう寝かせて…」と彼女に言わせ嘘の証言をさせてしまうのです。最近話題となっている冤罪が始まる瞬間ではないでしょうか。
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私は、この大谷直子版の「天城越え」がすごく好きです。
映画の田中裕子版はいまだに観ていませんけど。
観なかった理由は、こちらが好きだったからだと思います。
それほど印象深かったんですよねえ・・・
田中裕子の菩薩のような演技も
いいですよ。
ぜひ、見てみてください。
おススメです!