飾釦

飾釦(かざりぼたん)とは意匠を施されたお洒落な釦。生活に飾釦をと、もがきつつも綴るブログです。

昭和の黒い霧・松本清張NO.58・・「危険な斜面」

2010-01-10 | 松本清張
松本清張の小説「危険な斜面」を読みました。この作品は清張の代表作の「点と線」と「けものみち」を少しだけ想起させるような内容となっている短編小説ですが、内容とは別に文章表現が面白くって思わず笑ってしまった部分がありました。そこは西島と呼ばれる企業グループを率いる総師が、愛人の女性とし歌舞伎を見に来ているという設定。描写は二階席から見た二人の様子となっています。

“最前列より六つか七つ目くらいあとの、恰度真ん中あたりに、特徴のある西島卓平の禿頭が半分、後衿の中に嵌め込んだようにうずくまっていた。西島金属工業、西島電機、西島化学工業各株式会社の会長せある西島卓平はひどい猫背である。その横に豊富な髪をした女が、濃い紫色の和服を着て、抜き衿の項(うなじ)を白々と見せていた。上背のありそうなことは、会長の禿頭が女の肩あたり以上に伸びないことでも分かった。女はときどき、横を向き、子供に向かうようにかがみこんでは会長に話しかけていた。”西島という男の外見の特徴をあまりに淡々と書いているので可笑しくってしょうがありませんでした。それは続いてこんなふうにも書かれています。“禿頭の猫背の横に座っていた女”、この女性がある事件に巻き込まれてしまうのですが、やはり西島の描写が淡々としていて面白いばな~、笑えるな~と。

でも彼は外見とは裏腹に無尽蔵のお金を持っているので、その愛人に対して己の欲望をぶつけることがげきる助平なおじいちゃんでもあるのです。“西島卓平は、老いた身体に負担をかけずに、その望むところを執拗な方法で求めているということであった。老人は、青草のような臭いを飲み、柔らかい魚肉のような部分の手触りに時間をかけ、若返りを注入しているというのだ。「それが嫌らしいくらい長い時間なのよ。でも、そのあとは、とてもご機嫌がいいの」ある場合とは、その時のことに違いなかった。”といった具合にです。金も地位もそして老いらくの性的な欲望をも満足させることができている不自由ない恵まれたおじいちゃん。清張はそんな男に対して冷静な目で淡々と描写しているので、話の本筋とは別に、妙に気になってしまいました。

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※「危険な斜面」所収
三面記事の男と女―Matsumoto Seicho Showa 30’s Collection〈2〉 (角川文庫)
松本 清張
角川書店

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