飾釦

飾釦(かざりぼたん)とは意匠を施されたお洒落な釦。生活に飾釦をと、もがきつつも綴るブログです。

昭和の黒い霧・松本清張NO.54・・・「事故」

2010-01-06 | 松本清張
松本本清張の小説「事故」を読みました。この小説の前半は一見繋がらないような2つの殺人事件の様子を描き出し、実はそこに一本の糸で結ばれていることが後半に差しかかるとわかってくるような構成になっています。読みながら過去へ遡行していくのです。そうすると前半部分の殺人事件で出ていた犯人が、この時点ではその人物が犯人とは読んでいて全くわからないので、ごく当たり前の発言をする没個性的な人物にさえ感じるような描き方をされているわけです。後半、犯人であったとわかってくると、前半部分で見せていたような当たり前のような発言は、実は冷酷で計算されたものなんだということが見えてくるので、この犯人はとんでもない野郎だとなってくる。

そもそも、犯人の殺人のきっかけは、自分の職権を利用したよこしまな欲望であります。この欲望もいろいろあるなかで、探偵社を営む犯人はクライアントの女=夫の素行調査を依頼してきた少しばかり色っぽい女性と寝たいという性的な欲望がきっかけとなっています。夫が浮気している現場で精神的に打ちのめされている夫人を、ここぞとばかりに手込めにしてしまう、如何なもんかと思いますね。ただそこにはちょっとした“虫”のようなもののが作用したのも事実で、犯人は元来そうしようと計画した訳でなく、成り行きの感情からそうなったとも言えます。間が差したということです。本来やってはいけない事ではありますが、そこは男と女のことと理解したとして、まずいのはその後の行動です。つまり探偵として浮気調査のクライアントで精神的に弱っている女性に手をかけてしまった、それがバレそうになると業界で仕事ができなくなる、これでは身の破滅と思い証拠隠滅のため殺人を犯してしまう。それも関係を持った女性を共犯者に仕立て(女性との関係は維持するという都合のよさ)、関係のない第三者を騙して殺ってしまうから、非常に自己都合の酷い男であるわけです。そこにこの犯人が本来的に備わっている心根のようなものが見えてくる。そんな気がしました。やはり自分が仕出かしたことで立場が悪くなったとき、人を殺してまでその立場を守ろうとするか?本人にとって究極と思われる状態に追い込まれた時、原因となった自分自身の行動を省みてどう判断するのか?その選択において自身が持っている飾り気のない心根のようなものが浮上してくるのであり、そこに“事件”へと発展していくかどうかの岐路があるようにこの小説を読んで思いました。

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2 コメント

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Unknown (ノラ)
2010-01-06 15:19:59
明けましておめでとうございます
時々お邪魔しています
今年も宜しくね!飾ボタンさんの影響で
私も松本清張を読み始めました
毎晩 寝る前のひと時が楽しみです
でもこんな感じ
返信する
明けましておめでとうございます (飾釦)
2010-01-06 21:50:52
ノラさま
御無沙汰しております。
松本清張をお読みになっているんですね。昨年に初めて清張作品を読んだのですが、さすが国民的作家と言われただけあって古さを感じさせないパワーがあると思います。
今年もよろしくお願いします。
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