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米国の国家プロジェクト 次のジョブズをさがせ 

2014-04-14 | Weblog

 

新しい力を経済の原動力に育て上げるオバマ米国のダイナミズムは、「起業は職業ではなく、生き方の選択肢である」ことを教えてくれる。その証がアップルを起業したジョブズだった。管理人

 

日経:米国 才能争奪、国家レベルで

米ホワイトハウスは2011年1月、起業家支援の国家プロジェクト「スタートアップ・アメリカ」を始動した。「起業家は米国経済の拡張と新規雇用の創造に極めて重要な役割を担う」(オバマ大統領)。08年のリーマン・ブラザーズ破綻に端を発した金融危機、深刻な失業増から米国経済を立ち直らせる成長戦略の柱にスタートアップを位置づけてきた。

政府支援策は包括的で国家予算による投融資から研究開発支援、学校の場での起業家精神の教育にまで及ぶ。成功した起業家で構成する支援組織スタートアップ・アメリカ・パートナーシップの議長にはAOL共同創業者のスティーブ・ケース氏が就任した。大統領諮問機関「雇用・競争力会議」にも同氏を起用するなど起業家を競争力と捉える政策が鮮明だ。

オバマ大統領は昨年には、成功した外国人起業家が米国にとどまれるようにする「スタートアップ査証(ビザ)」の新設も提唱、議会の説得に動いている。欧州連合(EU)も英国を中心にスタートアップビザ政策を積極的に打ち出し始めており、有能な起業家の争奪戦が国家レベルで起きている。

 


スタートアップ事例 : 次のジョブズは誰だ 

米国のスタートアップは今始まったわけではない。1970年代の米アップルやマイクロソフト、90年代のグーグルを経て、世界を変える新興企業「スタートアップ」は第3の波を迎えている。スマートフォンやソーシャルメディアの普及で起業のハードルはぐっと下がり、そこに埋もれていた才能がなだれ込んでいる。

3月初旬、米テキサス州オースティン。スタートアップの登竜門となる全米注目のイベントで、無名だった若者たちが一夜にして喝采とフラッシュを浴びた。

「SXSW(サウス・バイ・サウスウエスト)インタラクティブ」は、ツイッターやフォースクエアなど今を時めく企業が飛躍のきっかけをつかんだイベント。毎年、世界中から投資家が数千人規模で駆けつける。

 
 

 

: ウェイゴーのCEO、ライアン・ロゴウスキー(25)

「投資したい、提携したいとあらゆる誘いが来た。まだ信じられない」。約100倍の難関を突破し大賞の1つを受賞したウェイゴー共同創業者兼最高経営責任者(CEO)のライアン・ロゴウスキー(25)は目を輝かせる。

ウェイゴーが開発したのはスマートフォン(スマホ)を看板やレストランのメニューにかざし、瞬時に翻訳するアプリ。日・英・中国語などに対応。眼鏡型端末「グーグル・グラス」に応用すれば海外で迷子にならずにすむ。アップル元CEOのジョン・スカリーや著名投資家ら約10人の審査員をうならせた。

「目の前に広がる中国語の看板を理解できたらいいのに」。きっかけは3年半前の中国滞在だ。アイデアを実現に移そうと電気工学に強い友人と画像処理専門の知り合いを誘い、3人でアプリの開発を始めた。

資金稼ぎのため、開発作業の後にもアルバイトでひたすらプログラムを打ち続けた。アプリ提供を始めてまだ数カ月。スタートアップを夢見ていた1年前は遠い昔のようだ。

: リープモーションのCEO、マイケル・バックワード(25)

同じ頃、地球の反対側の東京・秋葉原で、「ホリエモン」こと起業家の堀江貴文と対談する青年がいた。昨年のSXSWでウェブ・アワードを受賞したリープモーションのCEO、マイケル・バックワード(25)だ。

パソコンやタブレットへの入力を、キーボードやマウスではなく手の動きで実現する技術を開発。消しゴムほどの大きさの端末に手をかざすと、その動きをミリ単位よりも細かい精度で遅延なく感知し、パソコン画面の地図やCGがまるで触っているように動く。

「デジタル機器はすごいスピードで進化しているのに、人々は従来通りキーボードを使っていた」。哲学者のような風貌のバックワードはとつとつと聴衆に語りかける。ロケット事業を計画しているというホリエモンは「宇宙船をドッキングする作業に応用できるかも」と持ち上げた。

大学の専攻は哲学。「ロースクールに行って法律家になろうと思っていた」が、学生時代に現在CTO(最高技術責任者)のデビット・ホルツから起業を誘われた。

昨年、米大手ベンチャーキャピタルから3000万ドルの投資も獲得した。今年6月にはソフトバンクグループから日本初の製品が発売される。

 

: マテリアル・ワールドの日中女性コンビ

オースティンから北東へ2500キロメートル。ニューヨークの芸術家やデザイナーが集まるソーホー地区。中古ブランド品の買い取り・販売サイト「マテリアル・ワールド」を創業したのは矢野莉恵(32、写真右)と中国系米国人のジエ・ジャング(31)の日中女性コンビだ。創業は12年。「クローゼットのブランド品を処分する手間や罪悪感から女性たちを解放したい」(矢野)と、女性心をくすぐるコンセプトが人気だ。 

矢野は三菱商事広報部を経て、ニューヨークに駐在。競争の激しい世界を目の当たりにし「『商事』の外に出たら、自分は活躍できる人間なのかとつくづく自問した」。入社4年で退社し、米ハーバード大ビジネススクールでジャングと出会う。本サービスを始めてまだ1年だが、米東部の日本人起業家といえば「リエ」と名前が挙がるようになった。

 

: ルククのデニス・ザフ(36)

転勤先から娘の勉強を見てやるために――。家族への思いを起業につなげたのは遠隔教育アプリで急成長するルクク(サンノゼ)のデニス・ザフ(36)。

コンセプトは「誰でも生徒に、誰でも先生に」。専用のアプリをダウンロードすれば、ピアノの弾き方や東京の地下鉄の乗り方といった学習コースを無料で利用したり、またユーザー自らが自分の得意分野の教育コースを開設したりできる。

数年前まで、光通信関連メーカーでマーケティングを担当していたが転勤が多く単身赴任も強いられた。

カナダのトロントに住む娘のレジーナちゃん(9)が中国語やロシア語に興味を持ちはじめたので、遠隔で勉強を見てやろうとIP電話スカイプなどを試した。だが娘の好奇心を満たすには物足りない。

「それなら自分で作ろう」。出来たのは、一つのキャンバスに、お互い絵を描き合ったり、字を教えたり動画を見ながら勉強できるツールだ。チャットで質問や回答もできる。

ソフトは思わぬ反響を得た。トロントは大雪による臨時休校が多い。使いやすい遠隔教育は学校の先生の間で評判となった。

ザフは知人の協力や自己資金をあわせ、約1億円でスタートアップ。8人のエンジニアを確保し、アップルのiPadなどに向けたアプリとして提供できるところまでこぎ着けた。「今年はベンチャーキャピタルからの資金調達をめざす。利用者を世界中に広げたいからね」とほほ笑む。

 デニス・ザフ氏

 

: 出版社アタビストのCEO、エバン・ラトリフ(39)

「起業しよう、などと意気込んで始めたわけではない」。電子書籍専門の出版社アタビスト(ニューヨーク市)創業者のエバン・ラトリフ(39)のもう一つの肩書はフリージャーナリストだ。

「帯に短しタスキに長し」という理由で日の目を見ない書き物が大量に眠っていることに気づいた。雑誌や新聞の記事にするには長いが、本にするには厚みが足りない。だが電子書籍という新媒体なら、長さや厚さにこだわらない新しい読者を開拓できる。ラトリフはそれを証明してみせた。

今ではフルタイム従業員12人を抱える会社のCEOだが、ジャーナリストという肩書も捨ててはいない。電子書籍の出版ソフトは後に共同創業者となる友人がプログラミングを担当したので、まとまった初期投資も要らなかった。

1つのネタに集中して書くのが信条だったから「財務や人材管理、投資話からサイトのデザインまで一度に複数の課題を抱えるのは苦手なんだ」と屈託なく笑う。

エバン・ラトリフ氏

 

 


アップル スティーブ・ジョブズ IV 

2014-04-14 | Weblog

:その日私はいつになくその店で買物をした。というのはその店には珍しい檸檬が出ていたのだ。(略)結局、私はそれを一つだけ買うことにした。(略)

その檸檬の冷たさはたとえようもなくよかった。その頃私は肺尖を悪くしていていつも身体に熱が出た。(略)

その熱い故だったのだろう、握っている掌から身内に浸み透ってゆくようなその冷たさは快いものだった。私は何度も何度もその果実を鼻に持っていっては嗅いでみた。

それの産地だというカリフォルニヤが想像に上って来る。漢文で習った「売柑者之言」の中に書いてあった「鼻を撲つ」という言葉が断れぎれに浮かんで来る。  

そしてふかぶかと胸一杯に匂やかな空気を吸い込めば、ついぞ胸一杯に呼吸したことのなかった私の身体や顔には温い血のほとぼりが昇って来てなんだか身内に元気が目覚めて来たのだった。

これは、31歳の若さで亡くなった小説家梶井基次郎の短編「檸檬(レモン)」からの抜粋である。

:レモンの香りがする米国カリフォルニア。この自由な大地がスティブ・ジョブズを育んだ。

 米アップル株は9月6日終値で676・27ドル、時価総額はマイクロソフトがドットコムバブルの絶頂だった1999年12月に記録した6189億ドルを上回り、史上最高となった。

 昨年の統計だが、国連加盟国数193か国として、アップル社の時価総額は165か国の国内総生産(GDP)の合計を上回った。

手持ちの現金が増えるばかりのアップル社、今年3月には17年ぶりに配当再開や自社株買いを打ち出した。この株主還元策を好感して株価を押し上げてきた。先月、韓国サムスン電子との米国での特許訴訟に決着がつき、さらに勢いづいている。

:ジョブズは2007年1月9日、社名「apple computer,Inc」から、computerの文字をとり、「apple incorporated」に変更した。1976年、自宅のガレージで開発し一時代を定義したパソコンの時代を自らが終焉させた。そしてプラットフォーマーとしての新しいアップル時代の構築に向けスタートさせた。

米調査会社によると、アップルの携帯電話台数シェアは世界の9%にすぎないが、世界の携帯市場で得られる収益の73%を握っているという。劣勢にあるグーグルやアマゾンといった他のプラットフォーマーもアップルを追従している。

生前のジョブズは限られた余命のなかで、人材の育成に一生懸命だった。2009年「アップル大学」を立ち上げた。中間管理職社員に自らがおかした経営の過ちをケーススタディさせるためだ。そのために、統括責任者兼学部長にはジョエル・ポドルニー(Joel Podolny)をスカウトした。彼は米国東部のエール大学大学院ビジネススクールで学部長を務めた組織行動学の専門だ。スタンフォード大学で10年近く、その前はハーバード大学でも教えていた人物だ。

また、2010年には、新社屋の建設にも着手した。米ヒューレットパッカードがクパティーノ市に所有する土地を買い上げた。そして死の僅か5ヶ月前、自らが市議会の公聴会に臨んで、建設計画を披露して質疑に応じている。これが公の場に出る最後の機会の一つとなった。

計画では、現状の緑濃いアンズ果樹林の森をほぼ残したうえで、太陽光パネルで覆われた自家発電施設を完備したドーナツ型4階建てのオフィス棟をたて、最大1万3000人の社員を収容させる。2015年の完成だ。

:カリフォルニア大地、中でもジョブズがこよなく愛した人に優しいサンフランシスコは澄み切った大空、燦燦と降り注ぐ太陽の光、乾燥した空気、それに朝方に立ち込める霧の街だ。その街を象徴する吊橋、ゴールデンゲートブリッジ(金門橋)を渡り、さらに北にのびる国道101号線をさかのぼると、東西に走る州道128号線と交差する。この州道沿いはナパ・バリーやソノマと呼ばれるブドウ畑が広がるワイン街道だ。その州道を西にとり太平洋に向かってドライブしていくと、ジョブズが生前好んで訪れた安らぎの場所、レッドウッド国立&州立公園だ。

そこには1億6千万年前の恐竜の時代に出現したというジャイアント・セコイアメスギ(Sequoia sempervirens)と呼ばれる針葉樹の原生林が、太平洋沿岸の細長い地域に広がっている。

高さは110メートル以上、ビルの35階にも匹敵する世界で最も高い針葉樹の原生林だ。樹齢は2200年のものが現在知られる最高齢である。現地のチェロキー族インディアンは「神の木」と崇め、昔から神霊が宿ると信じられている。ジョブズは迫りくる死を前に、神の木に余命への救いの祈りをささげたに違いない。

:昨年10月30日、ニューヨークタイムズ紙に掲載された実妹、モナ・シンプソンの「兄への追悼頌徳文(A sister's eulogy for Steve Jobs)」。その中に述べられていた文章が思い出される。

私が兄の死から学んだこと、それは人格とはあらゆるものの根幹にあるものだ、ということです。兄の死に様はまさに兄の生き様そのものでありました。 What I learned from my brother’s death was that character is essential: What he was, was how he died.

そのとき悟りました。兄は死さえも主体的に取り組んでいたんだと。死は兄に起こった出来事ではなく、死は成し遂げるためでした。 This is what I learned: he was working at this, too. Death didn’t happen to Steve, he achieved it.

だから、ジョブズは身をもって自分の「生き様(成功の哲学)」を世にしめしてくれたばかりか、また「死に様(死の哲学)」すらもしめしてくれている。そしてスタンフォード大学の卒業式でのスピーチ(遺言)のなかで語った「ドット(人生の節目)」のすべてが、死を成し遂げたことで繋がったことになる。

ジョブズにとっては、「死ぬ」という行為は「人生をつくる」ための最後の仕上げ作業だった。そしてそれを仕上げたわけである。だから妹は「achieved(成し遂げた)」と表現している。

2012年9月夏の終わり、シリアの情勢が日々、深刻化する中で、ふと、ジョブズを想い出した次第である。 父母の顔も知らず赤子で里親にだされたシリア系米国人ジョブズ。当時、米国留学生だった実父が、赤子のジョブズを祖国シリアに連れ帰っていたら、現代社会はどうなっていただろうか。そう考えると、とても運命的な人物だ。

(2012/9/8 続く)

 

参考:

✩ カリフォルニア、レッドウッド国立&州立公園

 

  

✩ 曲「花のサンフランシスコ/ゴールデンゲートブリッジ」