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[対談] 3.11未曾有の大惨事、それでも変わらぬ政治システム (日本にはより大きな試練が必要だ)

2013-02-26 | Weblog

経済ではアベノミクス、外交では強気の対中姿勢で高い支持率を維持している安倍政権は、果たして世界にはどのように映っているのか。

日本研究の第一人者であるK.V.ウォルフレン(Wolferen)氏と、ニューヨーク・タイムズ東京支局長のM.ファクラー(Fackler)氏が初対談。「世界から見た安倍政権」の実態を語り合った。

Facklerファクラー:自民党がもし、旧態依然のままなら、いつの選挙かわかりませんが、新たな政権に取って代わられることでしょう。国民は官僚システムを打破し、国民の中にある閉塞感を打ち破るものを望んでいる。

Wolferenウォルフレン:この前の選挙結果における投票数を見れば、自民党は第一党を占める議席数を獲得したが、実際の得票数は2009年選挙よりも少ない。これはつまり、2009年に民主党に投票した人々は、この前の選挙では自宅にいて投票しなかったということ。

 彼らは裏切られたと感じ、マニフェストで約束したことを履行しなかったと憤りを感じたんです。もちろん、自民党の圧勝を演出した新聞が、そうした事実を指摘することはなかった。反民主党の新聞にとっては願ってもないことですからね。

 それでも、自民党に入れたくもないし、投票したくもなかったため自宅にいた人が大勢存在するのは間違いありません。もし安倍政権が、日本の進むべき方向性について国民が納得できる形で示すことができなければ、この先、予測しがたいタイプの新たな政治家、政治グループが登場していくことになるでしょう。

Facklerファクラー:維新の会がそれを担うのかもしれないし、そうでないかもしれない。ただ私は、日本は今後、この国の制度・システムに対する本当の危機が起こり、それに対処する形で変革せざるを得なくなるだろうと考えています。外的要因としては領土問題などを抱える中国、内部要因としては日本の財政危機でしょうか。

 その意味では、3.11の東日本大震災、福島原発事故でさえ日本にとって真の危機にはならなかったわけです。なぜなら、あれほどの災害でも東京電力はまだそこにあり、旧態依然とした“原子力ムラ”の体制、やり方に戻っていってしまっているのですから。

 官僚は原子力関係への天下りを温存し、学者は原子力業界からの研究資金を得続けて、メディアは原子力を推進する企業の広告をいまだに数多く扱っている。これでは変わりようがありません。本のシステムを変革するには、ある意味で3.11より大きな危機に直面する必要があるのかもしれません。

Wolferenウォルフレン:官僚を中心とした権力構造が改革を妨げる。まさに私が指摘してきた「人間を幸福にしない日本というシステム」ですね。安倍氏も「戦後レジームからの脱却」を唱えながら、全くその思考から逃れられていません。WEEKLY POST

 

参考:プロファィル

カレル・ヴァン・ウォルフレン(Karel van Wolferen)

1941年4月生、オランダ出身。ジャーナリスト、政治学者、アムステルダム大学比較政治・比較経済担当教授。

日本における官僚を始めとする権力行使のあり方を分析し、責任中枢の欠如を指摘した初の著書『日本/権力構造の謎』を、1989年に発表。

1994年に上梓した『人間を幸福にしない日本というシステム』は、33万部のベストセラー。管理されたリアリティの壁に隠された「システム」(物事のなされ方)の支配から日本人が脱すべきことを説き、論議を巻き起こした。

特に「説明責任」という言葉は広く知られる事となる。同書は、薬害エイズ事件を起こした厚生省(現、厚生労働省)を批判する市民運動の若者達の間では、半ば聖典とも化した。

薬害エイズ事件における厚生省の責任を認めて謝罪した厚生大臣・菅直人を、「偉大な政治家」と賞賛した。

一方、官僚独裁主義を打破する改革者として小沢一郎を高く評価し、この時すでに官僚側の抵抗によりいずれその手先である検察に彼は狙われると予言していた。またマスコミの小沢たたきを批判し、官僚支配から脱却した政治主導への改革を小沢以外の誰が成し遂げられるのかとも主張していた。

米国の覇権主義を非難しており、2004年のジョージ・ウォーカー・ブッシュの大統領再選を嘆いた。日本は対米従属路線を脱せよと訴える。

 

マーティン・ファクラー(Martin Fackler)

1966年生、米国アイオワ州出身、米国ダートマス大学、東京大学(経済学修士)、イリノイ大学(ジャーナリズム修士)、カリフォルニア大学バークレー校(東洋史研究博士号)で学ぶ。ジャーナリスト。ニューヨーク・タイムズ東京支局長

東日本大震災に際しては精力的な取材と報道を行い、2012年のピューリッツァー賞にノミネートされるなど高く評価された。

小沢一郎に対する検察捜査のあり方と当局の発表を無批判に報道する日本の記者クラブのあり方を批判し、2009年3月から2010年1月にかけて、西松建設事件を巡る問題を報道。

2012年8月2日には「強い円は日本の世代を分断する」と題する報道を行い、円高によるデフレーションは金融資産を保有する高齢者に有利に働き、政治的影響力の強い高齢者の多い日本ではこの傾向を反転させるのは難しいだろうと述べた。

2012年8月19日に、日本の議員らが尖閣諸島に上陸したことについて、彼らをNationalist(民族主義者)と表現。

2011年3月11日の東日本大震災の翌日には被災地に入り、東北各地から被害の様子を伝えた。とくに、原発事故直後の南相馬市からは、日本人記者もいなくなり取り残される不安を抱えた桜井勝延市長の訴えを報じ、後に市長は、TIME誌の世界に影響力のある100人に選ばれた。

また、原子力発電所事故に関連して、日本の原発を巡る政官財の利権構造および地方の原発依存と疲弊、緊急時SPEEDIによる放射線測定結果の政府の発表の遅れ、原発事故の情報開示を巡る日米政府間の当初のぎくしゃくした関係、東電の政治的な力やいわゆる発送電分離などを含む改革への抵抗などの調査報道記事を書いている。

また、福島第一発電所内部からレポートをした。これらに関連し2012年7月、双葉社からベストセラーになった「「本当のこと」を伝えない日本の新聞」を上梓、3.11などの報道を通して、日本の新聞が抱える問題点や記者クラブ制度の問題点を指摘した。