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パンを焼き始めて、間もない頃のことです。アメリカや、イギリスの雑誌に載っている、木でできたパン専用のカッティングボードを欲しいと思いました。パン屑が落ちる溝がついていて、周りは彫りが入っていて、永年使い込まれた、木の艶やかさのあるカッティングボードです。まだ、東京に住んでいた頃です。あちこち探しまわりましたが、見つかりませんでした。
ところが、当時オープンしたばかりのアフタヌーンティーの雑貨売り場に、探していたそのままのパン用のカッティングボードを見つけました。アフタヌーンティー、今年でオープンして30年と聞きます。私のカッティングボードも30歳というわけです。
イギリス製です。30年間、パンきりひとすじに仕事をして来た、このカッティングボード。刃が当たる面は、無数の傷で一杯です。
このカッティングボードと一緒に求めたのが、パン専用のナイフ。 木の柄に、BREADと彫られています。私、こういうのに弱いのです。ところが、ちっとも切れません。私の、失敗した買い物の一つです。それでも、度重なる引っ越しにも、手放すことができないでいます。
木のカッティングボード、年月とともにいい飴色になることを願って使ってきました。ところが、あまり色が変わりません。30年も使っているのに。私の、手入れの仕方に問題があったのです。パンを切って、汚れもしないのに、食べ物を扱うものだからと、使う度に洗っていました。数年前、木工作家の三谷龍二さんが、書いていらっしゃるものを読んで、納得。度々洗わないこと、オイルで拭いてやること。できたら、同じ木でとれたオイルを、ということでした。
それ以来、洗う頻度も少なくして、オリーブオイルを塗っています。立てかけておいているので、くるくると床に落ちたこともしばしば。亀裂が少し入ってしまいました。木でできたものは、温かな優しさがあるだけでなく、一緒に年をとってくれます。私の焼くパンにとって、いい伴侶です。