階段を上りきり、いくつかの彫刻を鑑賞しながら歩くと入り口にたどりつく
丸いガラスの入り口はホテルの回転ドアのようだった
ごごごごっと、思ったより大きな音がしてガラスの曲面が左右に開く
ドアは二重になっていて冷暖房の効果を上げている
歩いて5-6歩内側のそれは丸い曲面ではなく、店舗によくある普通の自動ドアだ
辰雄はつないでいた留美子の手を放し、ドアに進む
外側の曲面ドアと違い、それはウィーッと軽い作動音でスムーズに開いた
「まったく辰雄はいつもそれなんだから」と留美子があきれ顔でつぶやく
「だってSFっぽくて好きなんだもん」
「またこないだみたいにぶつかるよ」
「そうそう、こないだのドアはやたら開くの遅かったよね」
「いてっとか大声出すからみんなに見られちゃって私まで恥ずかしかったわ」
「あれはドアが悪い」
「もう止めなよそれ」
辰雄は自動ドアを見つけるといつもそうする
SF映画の宇宙船のドアが開くときはそうだからだと主張する
映画の中で人はドアのことをまるで意識していない
ドアは人が歩いてくる速度を計算して
決してぶつからない距離で素早く開閉するんだ、と解説する
「センサーで感知して人が来たからハイ開けましょう、なんてダメだね」
「また始まった」
「ドアっていうのは入り口なんだ、当たり前だけど昔のホテルにはドアマンって職業があったくらいだよ」
「そうね、お も て な し はそこから始まるんだものね」
「よく知ってるじゃん」
「もう5回くらい聞いたかも」
留美子は手をつなぎ直し前方を指さした
「少なくない?」
「え~っ多いだろ!」
つづく