◎2008年5月4日(日)-3人
今年に入ってから、やけに富士山にこだわった時期があり、仕事を終ってからの飲み会で、つい、富士山のウンチクをたれてしまった。飲み仲間の1人にサーファーがいて、まったく、山のことは興味がないと思っていたら、本格的な山歩きはしたことはないが、彼女を連れて、夏に富士山に登る予定でいるという。酒の入った調子の良さで、「じゃ、せめて、下準備で、富士山がでかく見える、三ツ峠に連れて行ってやろうか」と言ってしまった。この余計な一言がずっと尾をひく。会う度に「いつ、行きますか?」と問われる。ずるずるとごまかしているわけにもいかず、この連休の4日に行くことにした。連休に三ツ峠だけでは、あまりにも寂しいと、先日、景鶴山に行ったのにも、こういった背景にはある。
サーファーのI男以外に同行したのはK女。当初、S男も参加の予定でいたが、カミさんとの弘前花見ツァーがだぶってしまい、カミさん優先でドタキャン。3人ともに、同じ職場ではないが、仕事関係者。いつもの飲み仲間。つい先日も、上野で花見をして、山の詰めの打ち合わせをしたばかり。問題は、I男は千葉、S男は千葉寄りの埼玉、K女は埼玉西部、そしてオレは群馬と散らばっているため、どこで合流するか。三ツ峠へのアクセスを考えれば、K女邸の周辺で合流し、圏央道で中央高速ということがいいだろう。I男は途中でS男をピックアップ。5時に家を出て、K女邸に向かう。一応、6時半出発ということにしてあったが、6時前に着いてしまった。S男はもっと早く5時15分には着いていたとのこと。かなり、気合いが入っているのだろう。気が高ぶって、ほとんど寝ていないとこぼしていた。ここで、S男の弘前優先キャンセルを知る。残念。後でS男にはバツゲーム。
オレの車をK女指定の駐車場に入れ、I男のデリカでゴー。6時15分発。入間ICから圏央道に入る。どんよりした天気。八王子に近づいたら、霧が立ち込めている。中央高速は車が多いが、速度60~80kmはキープできる状況。7時半に河口湖ICを下りる。途中、富士山は見えなかったが、天気は崩れる気配はないので、今のところ心配はあるまい。ただ、富士山を見るのが目的だから、不安が少しはある。河口湖大橋を渡り、三ツ峠登山口に着いたのは8時。やはり連休、車が多い。車を置くスペースがなく、路肩に乗り入れて駐める。まずはK女がトイレに直行。もう下山する人も数人いる。随分、朝早くから登ったのだろう。下山者の駐車スペースが空くのではないかと期待したが、グズグズしていて、なかなか出て行かない。K女がすっきりした顔で戻った。どこでも可能なタイプらしい。今度はI男とトイレに行く。あまりすっきりしない気分で車に戻ったら、K女が赤い顔をして手を振っている。駐車場が空いたという。そのスペースには、我々の荷物が置かれている。聞けば、空いたので、慌てて、荷物を運んで待機していたと言う。その間、2台の車が来て、追い払ったそうだ。さすが中年女性の図々しさを持ち合わせている。感心した。車を移動して、では出発。8時30分。
2人ともに、山歩きの経験は皆無なようなもの。楽して富士山を見るなら、このルートしかないだろう。ハイキングするグループが何人もいる。この時間に下山する方々は、ほとんどが単独。冴えない顔をしたジイさんに、どうだったか聞いてみる。話が長い。つまりは、道は悪いし、富士山も見えなかったそうだ。確かに曇り空だし、今日は無理かな。I男が心持ち早く歩き出してしまい諌める。K女のスピードにダウン。それでも、2人は間もなくぜいぜいしはじめ、口数が少なくなる。前に同じ道を来た時は、えらく時間がかかった気がしたが、今回は、知っているゆえに、これでも早いかなといった感じ。富士山が見えなきゃ、この山の存在意味も薄れる。ゆっくり歩いて、雲が消えるのを時間稼ぎするのが賢明かも。
K女を先頭にしながらも、つい、オレが自然に先になってしまう。複数で歩くクセがないから、独りよがりで歩いてしまう。考えてみれば、それが2人に負担になったようだ。登山道は悪路。拍車をかけるように、山頂の小屋用ジープがトラクターの跡のようにしまう。靴が泥だらけ。休みなく歩き、1時間で展望地に着いてしまう。オレは、景鶴山で足を痛めながらも、翌々日には消えているから、リハビリがてらの歩きのつもりだった。せめて、途中で2回は休憩を入れるべきだったろう。また、ここで、展望地に着いた時点で、晴れ渡った富士山が見えていたら、1時間の疲れも飛んでいたろう。ところが、ガスが立ち込め、視界も20mの世界。I男もK女も、立場上、「残念ですね」なんて言っているが、オレは申し訳なく思っている。飲み屋で、期待を持たせるような余計なことを言い過ぎたかな。I男なんか、彼女との富士山詣での下見にすらならなかったにも関わらず、「いい汗かきましたよ」なんて、何気ない一言がオレにはグサッとくる。
霧の中を開運山に向かう。途中のベンチで休憩。ここで、オレは持参の菓子パンを食べたが、2人は食欲がないようだ。休むと寒い。隣でアンパンを食べているオッサン4人組も着込みはじめる。開運山そのものはまったく見えない。表示と感だけで歩く。10時ちょうど着。どうしようか。このまま下山して、汗を流して帰るにはあっけない。オレとしても、何とか、富士山は見せたい。今のところ、2人ともに、疲れは消えたようだ。さらに時間稼ぎをしながら先を歩けば、何とか晴れるかもしれない。清八山に行ってみよう。ガスは幾分、薄くなりだした。家族連れが来たのを潮どきに、歩き始める。
御巣鷹山からは延々と下りが続く。こっち方面には、ほとんどの人は来ないようで、登山道も山道に近くなる。ジクザグ下り。脇を通り過ぎた中高年グループが、その中のオバサンのストックを伸ばしながら、「下りではストックを長くするもんだ」と言っているのを聞き、そういうものかと感心し、K女のおろしたてのモンベルの杖を伸ばしてやった。I男は、登り途中で拾った、手頃な木を杖代わりにしている。まず、K女がこの下りで足を痛める。おぼつかない足取りで下りて行く。ここで戻ると上りになるから、とりあえず、鞍部まで行って、様子をみることにしよう。地図にない分岐で、上りの青年に会う。一応、「こっちが清八山ですよね?」と聞いたら、「えぇ、笹子の方です」と言うから、もしかして、笹子から来たのだろうか。分岐の反対側に下りて行った人たちがいたとのことだが、先ほどの中高年グループだろうか。地図を広げても分からないが、林道に至る道だろう。
ようやく鞍部に到着するが、なかなか、手頃な大休止ポイントが見つからない。アップダウンがはじまり、ピークを3つ程越える。昭文社版地図記載の茶臼山、大幡山なのだろうが、表示板がないので、山名を特定できない。このアップダウンで、K女がさらに足を悪くする。I男はまた寡黙に。先で2人を待っていることが多くなる。鉄塔が立つ、広い草刈り跡に出た。風が涼しい。ようやく視界が広がり、風が心地よい。都留の町が見える。時間も11時半だから、昼食にする。K女が作った、おにぎりとオカズをいただく。なかなかおいしい。2人ともに、食欲が出てきたのでほっとした。I男はおにぎり2個では足りないらしく、菓子パンまで平らげた。I男「山で食べると、本当においしいっすね」。山で、コンビニ以外のおにぎりを食べたのは久しぶりのこと。K女の足も何となく回復したようだから、このまま、清八山に行ってみよう。もしかすると、富士山も見えるかもしれない。この先に、林道との出会いがあるはずだし、最悪の場合、この林道を下ればいい。単独が通り過ぎる。
清八山への上りはさほどのものではないが、その間にピークが1つあり、その下ったところで林道が合流する。というよりも、林道の起点になっている。K女も遅れがちだが、何とか大丈夫のようだ。右手に本社ヶ丸。I男は腹を満たしてエネルギー補給になったのか快調に歩いて来る。清八山に到着。12時50分。富士山がようやく見えた。かなり雲が流れていて、全容は見えない。裾野は雲。山頂部分が見え隠れ。それでも見えたから良かった。ほっとした。大声で「富士山が見えるよ~」と声をかけたら、2人ともすっ飛んで来た。足を引きずっていたはずのK女もダッシュ。ハァーハァーしながらも、2人ともにうっとりと感動している。街から見る富士山よりも、山から見る富士山は迫っていて、すごくいいと言う。三ツ峠山の方は曇っているから、あそこからは、やはり富士山は見えないだろう。しばらく休憩。ここに、清八峠側から登って来たオッサン3人。1人がいきなり、オレに話しかけてきた。「高尾・陣馬の地図持っていませんか?」。何を考えているのか知らないが、昭文社の「山と高原地図」のことを言っているのだろうが、そんなもの、持ち合わせているわけがない。高尾山までの大縦走を考えているのだろうか。あまり、接触したくないタイプだから、手前ピークに戻る。
ここから、登山道は一気に山道になる。天下茶屋まで歩く人は少ないのだろうか。枯葉もクッションになって堆積している。左手に富士山を眺めながら歩く。ここで、今日のリーダーとしての失敗に気づく。地図は八丁山、八丁峠と続くのだが、「山と高原地図」では比較的になだらかな尾根道になっているのだが、意外とアップダウンが続く。当然、K女の足に響くし、I男の顔も険しくなる。後で、1/25,000地形図で確認すると、7つ以上の小ピークがあった。標高差20m以内の範囲内ではあるから、自分には許容範囲ながらも、2人にはきつい上りになる。地形図を持参していたら、あの林道に戻って下った方が無難と判断したろう。昼を過ぎ、気温もグングン上がる。2人ともに、歩き方がだらけ始めた。上り小ピークを見るたびにウンザリした顔。先導して行くが、歩いている時間よりも、彼らを待っている時間が長くなる。昔を思い出す。山岳同志会あがりの友人に誘われて、奥穂と雲取に行った。いずれの時も、天狗のような歩き方をする彼について行けなかったが、要所要所で彼は待っていた。その時の彼の心境が、まさに今のオレの心境だろう。
変な山道である。方向板があって、「八丁山→」と記されていても、八丁山らしきところには表示板がない。肝心の分岐のところには、何も表示がない。どの道を行っても、天下茶屋に出るのだろうか。整備はされていて、木の階段もある。ヤシオツツジ、山桜が満開。I男が「ヤシロツツジはきれいっすね。」と言うから、「ヤシオ」と訂正してやった。ようやく、河口湖を望む、最後らしきピーク。車の音が聞こえる。K女は完全に足のスジを痛めてしまった。そして、靴が合わないようだ。I男は余力がありそうながらも、目がうつろ。初めての山にしては、選択がきつかったかなぁ。とりあえずは高尾山だったな。ここからは、本当に下りだけ。上りはないことを確証。さっきは2人にウソを言ってしまった。「最後の上り」と言っておきながら、実際はまだ2つもあった。
K女の歩きがかなり鈍くなり、失礼ながら、「オブってやるか」と言ったら、素直に応じた。まさか簡単に承諾するとは思っていなかったから、少々、驚いた。オレのザックはI男に持たせ、木の階段に腰掛けて、おんぶする。少しよろめいた。重いのなんのって。20歩も歩いたろうか、自分の腰を痛めそうなので、やはりこのアイデアはやめにした。お尻の下でしっかり手を組めば安定して楽なのだろうが、他人の奥さん相手に、そんな無邪気なことも出来まい。我慢して歩いてもらうことにする。I男も助かったみたい。オレのザックは重いから、下りとはいえ、持たせられたら、嫌だろう。天下茶屋の屋根が真下に見える。そして、人の声。清八山から、ここまでだれにも会わなかった。天下茶屋到着15時45分。I男とK女が着いたのは、その5分後。I男も足を痛めたらしく、ふくらはぎをやたらにもんでいる。
もう、富士山も裾野から遠望できるが、確かに、山から見る富士山とはちょっと違うな。この天下茶屋の近くに太宰治文学碑があるようだが、そっちのルートを下らなかったので、見ることはできなかった。たいしたものではないだろうが。大方、「富士には月見草がよく似合ふ」の歌碑か。天下茶屋の周囲は混んでいる。名物の桜見物だろうか。ほうとうを食べに来ている人達だろうか。ここのHPに、逗留中の太宰に名物のほうとうを出したら、太宰が怒った逸話が書かれていた。「ほうとう」と「放蕩」をかけて皮肉られてのこととあるが、本当だろうか?(ほうとうだろうか?)。いやしくも、津軽の大地主・名家のせがれ、ほうとうなんか喰えるか、といった、太宰の我儘から出た言葉ではないだろうか。さて、これ以上、2人を歩かすのも酷だから、2人を残して、車を取りに行く。往復に40分はかかるだろう。その間、何か食べるなり、今晩の宿をネットで探してもらうことにする。当初から、到着時間によっては、泊まる計画にしてあるが、いくらゴールデンウィークでも、どこか空いているだろうと、安易な考えで来ている。
舗装道路をテクテク下る。暑い。林道に入り、駐車場に到着。15分くらいで着いてしまった。どうせ泊まりだからと、ここでは着替えもしない。そそくさと車で天下茶屋まで戻る。その間、わずか25分。茶屋の中で2人は携帯片手に茶を飲んでいる。「さっ、行くよ」と声をかけ、車に戻る。しかし、中々、2人は出てこない。ようやく、出て来たと思ったら、味噌おでんだか、田楽を持っている。店のバアサンがグズグズしていて、頼んだものも持って来ないので、テイクアウトにしてもらったとのこと。3本550円とかで、随分、高い買い物。1串に1個の小ぶりコンニャクでは、どう考えてもぼったくり。「富士では味噌おでんが高くつく」か。宿はどのサイトでも見つからなかった。どうせ石和に抜けるから、石和の宿案内に寄ってみようということにした。
行楽帰りの車が多い。旧道からの合流に手間取る。I男が運転しながら、「ガーッと、ギンギンに冷えたビール、飲みったいすね。まずは温泉っすね」と言う。こっちもノドが鳴る。道路沿いにあるプレハブの事務所・㈲木観光。どこかで聞いたことのありそうな名前。「本日の宿ご案内」。ここに飛び込み、オッサンに宿の依頼をする。10軒も電話してもらったろうか、どこも満室。残念でした。木のオッサンも、電話代損。3人分の宿泊マージンがフイになった。このまま帰るしかないか。20号線を大月方面に向かう。不気味な電光掲示板。「中央高速、渋滞、25km、100分」。やはりか。電柱広告で見かけた、ビジネスホテル。ちょうど、初狩駅前。ここいらだったら、飛び込みでも空いているじゃないのと、車を向けてみるが、こんなところでも満室。もうあきらめ。汗をかいたままで、帰路につく。20号線も渋滞になっている。大月ICから入る。しばらくは問題なく進んだが、やがてピタリ。車の中での会話も同時にピタリと無言。八王子の手前まで2時間近くかかってしまった。K女邸に着いたのは21時ちょい過ぎ。打ち上げもなく、あっさりとお開きになってしまった。K女邸で乾杯したいところだが、そういうわけにもいくまい。それ以前に誘われもしなかった。女は極めて現実的。
翌日、I男とK女からメールが届く。I男はさすが若いだけあって、サーフィンに出かけたそうだが、筋肉痛の影響か、足がつってしまったそうだ。K女は寝たきり老人になってしまっているとのこと。しかし、今回の様子を見るからに、オレがあと2回ほど調教登山をすれば、もしかすると、2人とも、木会長認印の「あさひ山の会」の会員になれるんじゃねぇかなと思ったりして。それとも、こっちはこっちで山の会をつくろうかな。複数歩きも、場所によっては楽しいもんだ。
今年に入ってから、やけに富士山にこだわった時期があり、仕事を終ってからの飲み会で、つい、富士山のウンチクをたれてしまった。飲み仲間の1人にサーファーがいて、まったく、山のことは興味がないと思っていたら、本格的な山歩きはしたことはないが、彼女を連れて、夏に富士山に登る予定でいるという。酒の入った調子の良さで、「じゃ、せめて、下準備で、富士山がでかく見える、三ツ峠に連れて行ってやろうか」と言ってしまった。この余計な一言がずっと尾をひく。会う度に「いつ、行きますか?」と問われる。ずるずるとごまかしているわけにもいかず、この連休の4日に行くことにした。連休に三ツ峠だけでは、あまりにも寂しいと、先日、景鶴山に行ったのにも、こういった背景にはある。
サーファーのI男以外に同行したのはK女。当初、S男も参加の予定でいたが、カミさんとの弘前花見ツァーがだぶってしまい、カミさん優先でドタキャン。3人ともに、同じ職場ではないが、仕事関係者。いつもの飲み仲間。つい先日も、上野で花見をして、山の詰めの打ち合わせをしたばかり。問題は、I男は千葉、S男は千葉寄りの埼玉、K女は埼玉西部、そしてオレは群馬と散らばっているため、どこで合流するか。三ツ峠へのアクセスを考えれば、K女邸の周辺で合流し、圏央道で中央高速ということがいいだろう。I男は途中でS男をピックアップ。5時に家を出て、K女邸に向かう。一応、6時半出発ということにしてあったが、6時前に着いてしまった。S男はもっと早く5時15分には着いていたとのこと。かなり、気合いが入っているのだろう。気が高ぶって、ほとんど寝ていないとこぼしていた。ここで、S男の弘前優先キャンセルを知る。残念。後でS男にはバツゲーム。
オレの車をK女指定の駐車場に入れ、I男のデリカでゴー。6時15分発。入間ICから圏央道に入る。どんよりした天気。八王子に近づいたら、霧が立ち込めている。中央高速は車が多いが、速度60~80kmはキープできる状況。7時半に河口湖ICを下りる。途中、富士山は見えなかったが、天気は崩れる気配はないので、今のところ心配はあるまい。ただ、富士山を見るのが目的だから、不安が少しはある。河口湖大橋を渡り、三ツ峠登山口に着いたのは8時。やはり連休、車が多い。車を置くスペースがなく、路肩に乗り入れて駐める。まずはK女がトイレに直行。もう下山する人も数人いる。随分、朝早くから登ったのだろう。下山者の駐車スペースが空くのではないかと期待したが、グズグズしていて、なかなか出て行かない。K女がすっきりした顔で戻った。どこでも可能なタイプらしい。今度はI男とトイレに行く。あまりすっきりしない気分で車に戻ったら、K女が赤い顔をして手を振っている。駐車場が空いたという。そのスペースには、我々の荷物が置かれている。聞けば、空いたので、慌てて、荷物を運んで待機していたと言う。その間、2台の車が来て、追い払ったそうだ。さすが中年女性の図々しさを持ち合わせている。感心した。車を移動して、では出発。8時30分。
2人ともに、山歩きの経験は皆無なようなもの。楽して富士山を見るなら、このルートしかないだろう。ハイキングするグループが何人もいる。この時間に下山する方々は、ほとんどが単独。冴えない顔をしたジイさんに、どうだったか聞いてみる。話が長い。つまりは、道は悪いし、富士山も見えなかったそうだ。確かに曇り空だし、今日は無理かな。I男が心持ち早く歩き出してしまい諌める。K女のスピードにダウン。それでも、2人は間もなくぜいぜいしはじめ、口数が少なくなる。前に同じ道を来た時は、えらく時間がかかった気がしたが、今回は、知っているゆえに、これでも早いかなといった感じ。富士山が見えなきゃ、この山の存在意味も薄れる。ゆっくり歩いて、雲が消えるのを時間稼ぎするのが賢明かも。
K女を先頭にしながらも、つい、オレが自然に先になってしまう。複数で歩くクセがないから、独りよがりで歩いてしまう。考えてみれば、それが2人に負担になったようだ。登山道は悪路。拍車をかけるように、山頂の小屋用ジープがトラクターの跡のようにしまう。靴が泥だらけ。休みなく歩き、1時間で展望地に着いてしまう。オレは、景鶴山で足を痛めながらも、翌々日には消えているから、リハビリがてらの歩きのつもりだった。せめて、途中で2回は休憩を入れるべきだったろう。また、ここで、展望地に着いた時点で、晴れ渡った富士山が見えていたら、1時間の疲れも飛んでいたろう。ところが、ガスが立ち込め、視界も20mの世界。I男もK女も、立場上、「残念ですね」なんて言っているが、オレは申し訳なく思っている。飲み屋で、期待を持たせるような余計なことを言い過ぎたかな。I男なんか、彼女との富士山詣での下見にすらならなかったにも関わらず、「いい汗かきましたよ」なんて、何気ない一言がオレにはグサッとくる。
霧の中を開運山に向かう。途中のベンチで休憩。ここで、オレは持参の菓子パンを食べたが、2人は食欲がないようだ。休むと寒い。隣でアンパンを食べているオッサン4人組も着込みはじめる。開運山そのものはまったく見えない。表示と感だけで歩く。10時ちょうど着。どうしようか。このまま下山して、汗を流して帰るにはあっけない。オレとしても、何とか、富士山は見せたい。今のところ、2人ともに、疲れは消えたようだ。さらに時間稼ぎをしながら先を歩けば、何とか晴れるかもしれない。清八山に行ってみよう。ガスは幾分、薄くなりだした。家族連れが来たのを潮どきに、歩き始める。
御巣鷹山からは延々と下りが続く。こっち方面には、ほとんどの人は来ないようで、登山道も山道に近くなる。ジクザグ下り。脇を通り過ぎた中高年グループが、その中のオバサンのストックを伸ばしながら、「下りではストックを長くするもんだ」と言っているのを聞き、そういうものかと感心し、K女のおろしたてのモンベルの杖を伸ばしてやった。I男は、登り途中で拾った、手頃な木を杖代わりにしている。まず、K女がこの下りで足を痛める。おぼつかない足取りで下りて行く。ここで戻ると上りになるから、とりあえず、鞍部まで行って、様子をみることにしよう。地図にない分岐で、上りの青年に会う。一応、「こっちが清八山ですよね?」と聞いたら、「えぇ、笹子の方です」と言うから、もしかして、笹子から来たのだろうか。分岐の反対側に下りて行った人たちがいたとのことだが、先ほどの中高年グループだろうか。地図を広げても分からないが、林道に至る道だろう。
ようやく鞍部に到着するが、なかなか、手頃な大休止ポイントが見つからない。アップダウンがはじまり、ピークを3つ程越える。昭文社版地図記載の茶臼山、大幡山なのだろうが、表示板がないので、山名を特定できない。このアップダウンで、K女がさらに足を悪くする。I男はまた寡黙に。先で2人を待っていることが多くなる。鉄塔が立つ、広い草刈り跡に出た。風が涼しい。ようやく視界が広がり、風が心地よい。都留の町が見える。時間も11時半だから、昼食にする。K女が作った、おにぎりとオカズをいただく。なかなかおいしい。2人ともに、食欲が出てきたのでほっとした。I男はおにぎり2個では足りないらしく、菓子パンまで平らげた。I男「山で食べると、本当においしいっすね」。山で、コンビニ以外のおにぎりを食べたのは久しぶりのこと。K女の足も何となく回復したようだから、このまま、清八山に行ってみよう。もしかすると、富士山も見えるかもしれない。この先に、林道との出会いがあるはずだし、最悪の場合、この林道を下ればいい。単独が通り過ぎる。
清八山への上りはさほどのものではないが、その間にピークが1つあり、その下ったところで林道が合流する。というよりも、林道の起点になっている。K女も遅れがちだが、何とか大丈夫のようだ。右手に本社ヶ丸。I男は腹を満たしてエネルギー補給になったのか快調に歩いて来る。清八山に到着。12時50分。富士山がようやく見えた。かなり雲が流れていて、全容は見えない。裾野は雲。山頂部分が見え隠れ。それでも見えたから良かった。ほっとした。大声で「富士山が見えるよ~」と声をかけたら、2人ともすっ飛んで来た。足を引きずっていたはずのK女もダッシュ。ハァーハァーしながらも、2人ともにうっとりと感動している。街から見る富士山よりも、山から見る富士山は迫っていて、すごくいいと言う。三ツ峠山の方は曇っているから、あそこからは、やはり富士山は見えないだろう。しばらく休憩。ここに、清八峠側から登って来たオッサン3人。1人がいきなり、オレに話しかけてきた。「高尾・陣馬の地図持っていませんか?」。何を考えているのか知らないが、昭文社の「山と高原地図」のことを言っているのだろうが、そんなもの、持ち合わせているわけがない。高尾山までの大縦走を考えているのだろうか。あまり、接触したくないタイプだから、手前ピークに戻る。
ここから、登山道は一気に山道になる。天下茶屋まで歩く人は少ないのだろうか。枯葉もクッションになって堆積している。左手に富士山を眺めながら歩く。ここで、今日のリーダーとしての失敗に気づく。地図は八丁山、八丁峠と続くのだが、「山と高原地図」では比較的になだらかな尾根道になっているのだが、意外とアップダウンが続く。当然、K女の足に響くし、I男の顔も険しくなる。後で、1/25,000地形図で確認すると、7つ以上の小ピークがあった。標高差20m以内の範囲内ではあるから、自分には許容範囲ながらも、2人にはきつい上りになる。地形図を持参していたら、あの林道に戻って下った方が無難と判断したろう。昼を過ぎ、気温もグングン上がる。2人ともに、歩き方がだらけ始めた。上り小ピークを見るたびにウンザリした顔。先導して行くが、歩いている時間よりも、彼らを待っている時間が長くなる。昔を思い出す。山岳同志会あがりの友人に誘われて、奥穂と雲取に行った。いずれの時も、天狗のような歩き方をする彼について行けなかったが、要所要所で彼は待っていた。その時の彼の心境が、まさに今のオレの心境だろう。
変な山道である。方向板があって、「八丁山→」と記されていても、八丁山らしきところには表示板がない。肝心の分岐のところには、何も表示がない。どの道を行っても、天下茶屋に出るのだろうか。整備はされていて、木の階段もある。ヤシオツツジ、山桜が満開。I男が「ヤシロツツジはきれいっすね。」と言うから、「ヤシオ」と訂正してやった。ようやく、河口湖を望む、最後らしきピーク。車の音が聞こえる。K女は完全に足のスジを痛めてしまった。そして、靴が合わないようだ。I男は余力がありそうながらも、目がうつろ。初めての山にしては、選択がきつかったかなぁ。とりあえずは高尾山だったな。ここからは、本当に下りだけ。上りはないことを確証。さっきは2人にウソを言ってしまった。「最後の上り」と言っておきながら、実際はまだ2つもあった。
K女の歩きがかなり鈍くなり、失礼ながら、「オブってやるか」と言ったら、素直に応じた。まさか簡単に承諾するとは思っていなかったから、少々、驚いた。オレのザックはI男に持たせ、木の階段に腰掛けて、おんぶする。少しよろめいた。重いのなんのって。20歩も歩いたろうか、自分の腰を痛めそうなので、やはりこのアイデアはやめにした。お尻の下でしっかり手を組めば安定して楽なのだろうが、他人の奥さん相手に、そんな無邪気なことも出来まい。我慢して歩いてもらうことにする。I男も助かったみたい。オレのザックは重いから、下りとはいえ、持たせられたら、嫌だろう。天下茶屋の屋根が真下に見える。そして、人の声。清八山から、ここまでだれにも会わなかった。天下茶屋到着15時45分。I男とK女が着いたのは、その5分後。I男も足を痛めたらしく、ふくらはぎをやたらにもんでいる。
もう、富士山も裾野から遠望できるが、確かに、山から見る富士山とはちょっと違うな。この天下茶屋の近くに太宰治文学碑があるようだが、そっちのルートを下らなかったので、見ることはできなかった。たいしたものではないだろうが。大方、「富士には月見草がよく似合ふ」の歌碑か。天下茶屋の周囲は混んでいる。名物の桜見物だろうか。ほうとうを食べに来ている人達だろうか。ここのHPに、逗留中の太宰に名物のほうとうを出したら、太宰が怒った逸話が書かれていた。「ほうとう」と「放蕩」をかけて皮肉られてのこととあるが、本当だろうか?(ほうとうだろうか?)。いやしくも、津軽の大地主・名家のせがれ、ほうとうなんか喰えるか、といった、太宰の我儘から出た言葉ではないだろうか。さて、これ以上、2人を歩かすのも酷だから、2人を残して、車を取りに行く。往復に40分はかかるだろう。その間、何か食べるなり、今晩の宿をネットで探してもらうことにする。当初から、到着時間によっては、泊まる計画にしてあるが、いくらゴールデンウィークでも、どこか空いているだろうと、安易な考えで来ている。
舗装道路をテクテク下る。暑い。林道に入り、駐車場に到着。15分くらいで着いてしまった。どうせ泊まりだからと、ここでは着替えもしない。そそくさと車で天下茶屋まで戻る。その間、わずか25分。茶屋の中で2人は携帯片手に茶を飲んでいる。「さっ、行くよ」と声をかけ、車に戻る。しかし、中々、2人は出てこない。ようやく、出て来たと思ったら、味噌おでんだか、田楽を持っている。店のバアサンがグズグズしていて、頼んだものも持って来ないので、テイクアウトにしてもらったとのこと。3本550円とかで、随分、高い買い物。1串に1個の小ぶりコンニャクでは、どう考えてもぼったくり。「富士では味噌おでんが高くつく」か。宿はどのサイトでも見つからなかった。どうせ石和に抜けるから、石和の宿案内に寄ってみようということにした。
行楽帰りの車が多い。旧道からの合流に手間取る。I男が運転しながら、「ガーッと、ギンギンに冷えたビール、飲みったいすね。まずは温泉っすね」と言う。こっちもノドが鳴る。道路沿いにあるプレハブの事務所・㈲木観光。どこかで聞いたことのありそうな名前。「本日の宿ご案内」。ここに飛び込み、オッサンに宿の依頼をする。10軒も電話してもらったろうか、どこも満室。残念でした。木のオッサンも、電話代損。3人分の宿泊マージンがフイになった。このまま帰るしかないか。20号線を大月方面に向かう。不気味な電光掲示板。「中央高速、渋滞、25km、100分」。やはりか。電柱広告で見かけた、ビジネスホテル。ちょうど、初狩駅前。ここいらだったら、飛び込みでも空いているじゃないのと、車を向けてみるが、こんなところでも満室。もうあきらめ。汗をかいたままで、帰路につく。20号線も渋滞になっている。大月ICから入る。しばらくは問題なく進んだが、やがてピタリ。車の中での会話も同時にピタリと無言。八王子の手前まで2時間近くかかってしまった。K女邸に着いたのは21時ちょい過ぎ。打ち上げもなく、あっさりとお開きになってしまった。K女邸で乾杯したいところだが、そういうわけにもいくまい。それ以前に誘われもしなかった。女は極めて現実的。
翌日、I男とK女からメールが届く。I男はさすが若いだけあって、サーフィンに出かけたそうだが、筋肉痛の影響か、足がつってしまったそうだ。K女は寝たきり老人になってしまっているとのこと。しかし、今回の様子を見るからに、オレがあと2回ほど調教登山をすれば、もしかすると、2人とも、木会長認印の「あさひ山の会」の会員になれるんじゃねぇかなと思ったりして。それとも、こっちはこっちで山の会をつくろうかな。複数歩きも、場所によっては楽しいもんだ。
ご苦労様でした。
今後の2人の成長が気になりますね。