まきた@VetEpi

酪農学園大学をベースに、発展途上国と日本の獣医疫学に取り組む獣医師のブログです。

出発点

2006-02-17 10:19:47 | 学業
2月16日(木)。

今週から2週間ほど、休暇でいなくなった先輩の机を、処々の理由で借りて仕事しています。

その机に向った日に気付いたのだけれど、机の上に、主任指導教官で助教授である、W先生の博士論文が置いてあります。その先輩は自分の論文の参考にしているのです。

古びたその本には、1991年と書いてあります。今から15年前、先生は一体何を研究していたのだろうか?机の上に、所狭しと自分の文献を広げてパソコンで書き物をしていた僕は、顔を上げるたびにその背表紙が目に入って気になっていました。

W先生は、アフリカ眠り病研究の第一人者で、ご主人は僕たちが研究している熱帯獣医学センターの所長です。彼もやはり眠り病研究に長年従事され、眠り病の正式名である、「トリパノソマイアシス」という本を執筆されています。

昨日久しぶりに一時快晴の気持ちよい天気になり、部屋に光が差し込んだとき、さらにW先生の博士論文がその光のせいか、何か語りかけてくるようで気になったので、思わず作業を中断して、本を手に取りました。

今では、眠り病に関する、分子レベルの細かい研究から、国を越えた広範囲の病気の分布に関する研究まで、非常に幅広く活躍されているW先生ですが、その論文は、眠り病を媒介するツェツェ蝿という昆虫の体の中に住んでいる、ある微生物に関する研究でした。その微生物は、眠り病を起こす寄生虫ではありません。眠り病研究のために必要な、ツェツェ蝿と寄生虫の飼育に影響を与える微生物です。

確かに、研究の切り口は明解だったので、元々いい筋があったのかも知れません。しかし、蝿でも寄生虫でもなく、その微生物を研究していた当の本人も15年前に、今のような幅の広い研究をするようになると想像していたでしょうか?希望はあったでしょうが、具体的にそんなことはなかったと思います。

僕はよく、自分には向いていないのではないか、能力不足ではないか、今の研究の方向性が将来の仕事にちゃんと結びつくのかなどと考えてしまいます。しかし、W先生の論文を読んで、今の僕が取り組んでいる仕事は、まだまだ出発点にしか過ぎないということに気が付きました。

しかし、もともとの出発点はどこだったかと考えると、
2005年、去年の今は大学とイギリスに慣れるのに必死で、
2004年の今は日本で大学院の出願に必要なTOEFL(英語)の試験で必死で、
2003年の今は大学院で学ぶための奨学金申請に必要な英検準1級の試験で必死で、
2002年の今も別の奨学金に必要なIELTS(英語)の試験で必死で(落ちた)、
2001年は異動もあり、仕事を頑張って過ぎていき、
1998年から2000年はネパールで走り回っていて、
その前は大らかに仕事を愛して楽しく過ごしていたので、

途上国のことを真剣に考え始めたのは8年前、想いを実現するために取り組み始めたのは4年前ということになります。

そう考えると、出発点のことは、何だかどうでもよくなってきました。マラソン選手が次の電柱まで、と身近な目標をクリアしながら走っていくように、僕はもう寝て、明日をとりあえず頑張ります。人生いつでも出発点、ということで。
皆さんも、どうか実りある金曜日をお過ごしください。