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水素を液体化、体積500分の1に 千代田化工建設の新技術を聞く

2016年01月26日 | 資源・エネルギー
水素を液体化、体積500分の1に 千代田化工建設の新技術を聞く

2013/8/8 7:00 日経ニュース

 クリーンだが、かさばるのが難点とされてきた水素の使い勝手を画期的に向上させる技術を千代田化工建設が開発した。液体化して体積を500分の1に小さくし、常温・常圧で貯蔵や輸送が可能になる。水素社会への扉を開くものと国際的にも注目を集める。同社技術開発ユニットの岡田佳巳技師長に開発の背景などを聞いた。

■新開発の触媒、1年使えて再利用も可能

 ――「SPERA(スペラ)水素」と商標登録された新技術の中身を説明してください。

 「有機溶剤のトルエンと水素を化学反応させメチルシクロヘキサン(MCH)という化学物質にして水素を貯蔵・輸送する技術だ。MCHは修正インクやボールペンのインクなどに日常的に使われている。例えばガソリンなどと同じようにためたり運んだりできる」

 「体積は500分の1になる。ガスの状態で500分の1にするとしたら、500気圧の高圧ボンベに閉じ込める必要があるが、MCHなら常温・常圧で貯蔵できる」

 「トルエンに結合して水素を固定化する技術は以前から確立済みだった。これまで実用化できなかったのは、MCHに固定した水素を再びガスの形に分離する効率的な技術(脱水素化技術)がなかったからだ」

 「1980年代にカナダの水力発電でつくった水素を欧州に運ぶ『ユーロケベック計画』で脱水素技術の開発に挑んだが、できなかった。私は2002年に脱水素化の技術を開発しろと命じられ、ほぼ10年をかけて実用レベルの技術を開発できた。ちなみにスペラはラテン語で『希望せよ』という意味だ」

 ――脱水素化反応の触媒が開発のポイントですか。

 「従来の脱水素化触媒は寿命が課題で、2~3日で使えなくなった。私たちが開発した触媒は1年(8000時間以上)は十分使える。白金の触媒で、自動車排ガス浄化用触媒と同じく、劣化したら回収して再利用が可能だ。初期投資はやや高いかもしれないが、運転コストは安い触媒だ」

 「白金の粒子をおよそ1ナノ(ナノは10億分の1)メートルまで小さくし、(触媒反応の土台になる)アルミナの上に均一に分散させてつけた。MCHの分子の大きさは0.6ナノメートルくらいなので、白金粒子はほぼ分子と同じサイズだ。まさにナノサイズの触媒技術で、世界でもほかに例がないと思う」

 「触媒にはこのほかにもいくつか工夫がしてある。基本的な構造は論文などで公表したが、容易にはまねはできないはずだ」

 ――どのような形で実用化を考えていますか。

 「まず想定しているのは、水素を大量に製造・輸送するサプライチェーンだ。産油・産ガス国で天然ガスや石油の随伴ガスから水素を生産し、MCHにしてタンカーで日本など消費国に大量輸送する」

 「水素製造時には二酸化炭素(CO2)が生ずるが、これは油田に押し込んで石油増進回収(EOR)か、炭素回収・貯留(CCS)に使えばよい。CO2はいまは廃棄物扱いだが、化石資源が枯渇する将来には貴重な炭素資源になるはずだ。消費国に運んだMCHは脱水素化して水素を化学工業や発電向けに供給する。普及期を迎える燃料電池車向けへの供給も可能だ」

 「もう少し将来を見通せば、風力や太陽光など再生可能エネルギーを使って水素を生産して利用、CO2を排出しない低炭素社会づくりにつなげたい。水素は天然には存在しない2次エネルギーで、その点は電気と同じだ。太陽、風力などどんな1次エネルギーからでもつくれる究極のエネルギーだが、大量に効率よくためる技術がないことには基幹エネルギーにはなれない。SPERA水素はそこを可能にしたという意味でゲームチェンジングな技術だ」

■3年以内に実用化、自社の事業拡大

 ――水素は既存の火力発電所で燃やせますか。

 「およそ70%くらいまでなら天然ガスなどに混ぜて燃やせる。混ぜた分だけCO2の排出を減らせる。80%以上になると水素は燃焼温度が高いので特別な燃焼器やタービンが要るだろう」

 ――横浜の研究所(新子安オフィス・リサーチパーク)に建てた実証プラントに見学者が押し寄せていると聞きますが。

 「デモプラントは毎時50立方メートルの水素をMCHに固定化、脱水素化を繰り返す。プラントには特殊な素材を使わなくてもいいし、ガスの形で貯蔵しないので爆発の恐れも少ない。実際に見てもらうのがいちばんで、国内外から様々な見学者に来ていただいている」

 「先日はパリの国際エネルギー機関(IEA)で水素技術のロードマップをつくる会議に呼ばれて、説明をした。大量貯蔵・輸送技術は世界でも千代田化工の技術だけだと評価された」

 ――千代田化工として、この技術をどう生かすのですか。

 「エンジニアリング会社として液化天然ガス(LNG)基地の建設などを生業としているが、非常に好不況の波が大きな業界だ。新技術を武器に新しいエネルギー会社として事業の拡大ができると考えている。自らがプレーヤーになる。無論、千代田化工だけでは水素サプライチェーンはつくれないので、商社や海運会社、化学会社、それに産油国などと組んで展開していく。3年以内に実用にもっていきたい」

 ――コスト面での課題は。

 「新エネルギー産業技術開発機構(NEDO)が5年ほど前に行った試算では、圧縮水素ガスをタンクローリーで水素ステーションまで供給するとコストは1立方メートル当たり約85円(水素の原価は約15円)ほどになる。このうち50円以上が圧縮にかかる経費だ。圧縮にかかるコストがなければ価格は3分の1程度になる計算だ。私たちはいま1立方メートル当たり30円で提供できると考えている。また発電に使った場合、大量輸送による輸送費節減や、脱水素化に必要な熱をゴミ焼却場から安価に入手できるなどの条件を前提とすれば、LNGや石炭火力と遜色ないコストで発電できる。将来、CO2の排出に規制がかかれば、水素が有利になるかもしれない」

■取材を終えて
 「ゲームチェンジング」という岡田さんの言葉が印象に残った。水素は資源量にほとんど限りがないといっていいしクリーンなエネルギーだ。期待も大きいが、体積が大きく爆発の危険性があり扱いが難しい。原子力発電所事故の「水素爆発」という悪いイメージもある。それが脱水素化触媒というひとつの発明で、まったく事情が変わってくる。
 さらに目を開かされたのは、天然ガスなどから水素をつくる際に生ずるCO2を資源ととらえる視点だ。CO2を地中に埋めるCCSはとてもコストのかかる手法だが、埋めたCO2はいつの日か取り出して、再び水素と合わせれば、化学産業の資源になる。石油がなくなっても合成繊維や樹脂などの石化製品がつくれる。
 潜在力のある技術だが、課題はこれをネタに国際的なエネルギービジネスを立ち上げる構想力や求心力が千代田化工や日本の企業にはたしてあるかだろう。せっかくの機会を逃してはならないと思う。

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