核禁止 国連総会で議論へ 条約交渉入り採択 日本は棄権
2016年8月20日 東京新聞夕刊
【ジュネーブ=共同】ジュネーブの国連欧州本部で行われていた核軍縮に関する国連作業部会は最終日の十九日、核兵器の法的禁止についての二〇一七年の交渉入りを、「幅広い支持」を得て国連総会に勧告するとの報告書を賛成多数で採択した。今秋の国連総会で議論が本格化する見通しで、核兵器禁止条約制定に向け大きく歩を進めることになりそうだ。
報告書は参加国の総意で採択する方針だったが、オーストラリアが条約制定に反対の立場を取る十四カ国を代表し土壇場で多数決を要求。賛成六八、反対二二、棄権一三で採択されたが、核禁止を巡る国際社会の亀裂が鮮明になった。日本は棄権した。
報告書には、交渉入りに賛同せず、多国間の軍縮は安全保障を考慮しながら進めるべきだと勧告する国々もあったとして、核兵器を徐々に減らす漸進的なアプローチを提唱する日本や北大西洋条約機構(NATO)諸国などの意見も盛り込み、両論併記とした。
多数決を求めたのはオーストラリアのほか韓国やポーランド、トルコなど。交渉入りの勧告はアフリカ諸国や東南アジア諸国など百七カ国が支持、反対派の意見を支持したのは日本や欧州諸国など二十四カ国が中心だった。
タニ議長(タイ)が当初示していた報告書草案は「核禁止のための法的措置」について、参加国の過半数が一七年の総会での交渉開始を支持したと明記。しかし、日本など条約反対派は「過半数」の文言に反発し「幅広い支持」に修正された。
作業部会は今年二月に第一回、五月に第二回会合が行われ、今月五日から断続的に行われた今回が最終会合だった。
◆深い溝浮き彫り
日本国際問題研究所軍縮・不拡散促進センターの戸崎洋史主任研究員の話 報告書は、本来なら一つの結論に向かって話がまとめられるべきだが、核兵器禁止条約の交渉開始への幅広い支持を明記する一方、それに反対する国もあることを示した両論併記にならざるを得なかった点に、利害が異なる核軍縮の問題の難しさが表れている。
全会一致での採択でなかったことで、条約の賛成国と反対国の溝の深さが浮き彫りになってしまった。核保有国が会議に参加しておらず、報告書がそのまま核軍縮につながるかは不透明だ。
被爆国の日本はもちろん、米国も核兵器の非人道性の問題は真剣に捉えている。しかし、北朝鮮の核開発や中国の軍事的台頭などで地域の安全保障が揺らぐ中、日本は核の抑止力も重視せざるを得ない。
一足飛びで条約による法的禁止を目指すよりも、原爆の悲惨さを共有し、核兵器の数やその役割を徐々に減らしていく方が、核のない世界の実現に向けた現実的なアプローチだ。日本は亀裂の深まる国家間の橋渡し役として根気よく協議を続けてほしい。 (共同)