小池都政、都庁人事にひずみも 「改革」に忙殺、人材が枯渇
2017/1/17 21:22 日経新聞
2017年の東京都政は夏に都議選を控えて波乱含み。五輪準備や豊洲市場の問題など、耳目を集める懸案も積み残されている。就任半年が近づく小池百合子知事が巡航速度に移行するには、巨大組織・都庁のかじ取りが重要になる。都政の底流の課題を探る。
「帰宅はいつも日付が替わってから。知事が掲げる午後8時退庁なんて無理」。昨秋に発足した都政改革本部。事務局からは冗談には聞こえない恨み節が漏れる。「8時は8時でも午前8時」
小池都政の中核として同本部はゼロから次第に拡充。職員は昨年12月時点で29人に達した。「知事肝煎りの組織だけに、それなりの人をあてがわないといけない」(都幹部)と精鋭がそろう。それでも20年五輪の会場問題などの懸案で激務が続き、顔色はさえない。
豊洲市場の問題を担当する中央卸売市場も状況は似たり寄ったり。移転延期で経営に影響を受ける業者への補償の検討など難題を多く抱える。この14日に公表された地下水調査も数値が一気に悪化し、展望は開けない。
「私が都庁の仕事を増やしているのは事実」と小池知事。移転延期を決めてから「体制強化」の号令をかけ続け、市場だけで管理職を10人以上増やしているが、業務量も膨らむ一方。新任の幹部の一人は「とにかく疲れる」と嘆く。
五輪の大会組織委員会に派遣する職員数も、小池知事が就任した昨年8月の時点で1年前より83人増えて213人に達した。しかも各部局の「エース級」を相次ぎ送っている。火事場の部署にマンパワーを割かれる影響は全庁に及ぶ。部下が市場担当に異動したある幹部は「突然引き抜かれると業務が滞る。痛手」と嘆く。
「改革」に必要な人手の不足を補おうと、都は「前倒し採用」を拡大する。春の採用予定者のうち既に大学を卒業している人などに声をかけ、入庁を早める仕組みで、例年は1月1日付。それが今年度は11月1日付で16人、12月1日付で4人と異例の前倒しを進めた。
目先の人繰りはついても、ひずみは残る。小池知事の就任後、春と夏の定期異動とは異なるタイミングで局長級も含む人事が玉突きで続く。ある幹部は「新年度以降の人材の育成構想は白紙に戻った」と話す。
市場問題では担当局長の中央卸売市場長が10月に更迭された。豊洲市場で土壌汚染対策の盛り土をしなかった焦点の経緯に直接は関わっていないが、組織責任を負った。 過去には東京マラソンの財団設立など都政の重要な仕事をこなしてきた出世頭の不遇。市場移転に向けても一筋縄ではいかない業界調整などに汗をかいていただけに、庁内では「大きな責任を伴う難事業に取り組む意欲がそがれる」と士気の低下を懸念する声も聞かれる。
時の知事の意向で人事がぶれがちなのは都政の常でもある。石原慎太郎元知事は1期目、局長経験のない理事を副知事に登用するなど異例の抜てき人事を断行した。一方で4期途中まで務める過程では、副知事に4年の任期を全うさせないことが増えた。次々と首をすげ替えることで「幹部候補の人材枯渇を招いた」と今でもささやかれる。
制度上も「人材育成は都庁の弱み」(元幹部)との指摘がある。特に事務系職員は局をまたぐ異動が頻繁で、専門性はなかなか身につかないという。霞が関も異動が多いとはいえ、省庁を次々と替わりはしない。「都は国と対峙する仕事も多いが、各分野の経験や知識の差で後手に回りがち」
舛添要一前知事は「10年、20年先をみて新しい種をまかないと」と、金融や都市外交などの分野の人材育成を提唱した。五輪準備などに備え、行政系の職員定数を15年度に41年ぶりに増やし、16年度も上積みした。
都政の現場を担う職員の力をどう引き出すか。小池人事の色はまだ見えない。
2017/1/17 21:22 日経新聞
2017年の東京都政は夏に都議選を控えて波乱含み。五輪準備や豊洲市場の問題など、耳目を集める懸案も積み残されている。就任半年が近づく小池百合子知事が巡航速度に移行するには、巨大組織・都庁のかじ取りが重要になる。都政の底流の課題を探る。
「帰宅はいつも日付が替わってから。知事が掲げる午後8時退庁なんて無理」。昨秋に発足した都政改革本部。事務局からは冗談には聞こえない恨み節が漏れる。「8時は8時でも午前8時」
小池都政の中核として同本部はゼロから次第に拡充。職員は昨年12月時点で29人に達した。「知事肝煎りの組織だけに、それなりの人をあてがわないといけない」(都幹部)と精鋭がそろう。それでも20年五輪の会場問題などの懸案で激務が続き、顔色はさえない。
豊洲市場の問題を担当する中央卸売市場も状況は似たり寄ったり。移転延期で経営に影響を受ける業者への補償の検討など難題を多く抱える。この14日に公表された地下水調査も数値が一気に悪化し、展望は開けない。
「私が都庁の仕事を増やしているのは事実」と小池知事。移転延期を決めてから「体制強化」の号令をかけ続け、市場だけで管理職を10人以上増やしているが、業務量も膨らむ一方。新任の幹部の一人は「とにかく疲れる」と嘆く。
五輪の大会組織委員会に派遣する職員数も、小池知事が就任した昨年8月の時点で1年前より83人増えて213人に達した。しかも各部局の「エース級」を相次ぎ送っている。火事場の部署にマンパワーを割かれる影響は全庁に及ぶ。部下が市場担当に異動したある幹部は「突然引き抜かれると業務が滞る。痛手」と嘆く。
「改革」に必要な人手の不足を補おうと、都は「前倒し採用」を拡大する。春の採用予定者のうち既に大学を卒業している人などに声をかけ、入庁を早める仕組みで、例年は1月1日付。それが今年度は11月1日付で16人、12月1日付で4人と異例の前倒しを進めた。
目先の人繰りはついても、ひずみは残る。小池知事の就任後、春と夏の定期異動とは異なるタイミングで局長級も含む人事が玉突きで続く。ある幹部は「新年度以降の人材の育成構想は白紙に戻った」と話す。
市場問題では担当局長の中央卸売市場長が10月に更迭された。豊洲市場で土壌汚染対策の盛り土をしなかった焦点の経緯に直接は関わっていないが、組織責任を負った。 過去には東京マラソンの財団設立など都政の重要な仕事をこなしてきた出世頭の不遇。市場移転に向けても一筋縄ではいかない業界調整などに汗をかいていただけに、庁内では「大きな責任を伴う難事業に取り組む意欲がそがれる」と士気の低下を懸念する声も聞かれる。
時の知事の意向で人事がぶれがちなのは都政の常でもある。石原慎太郎元知事は1期目、局長経験のない理事を副知事に登用するなど異例の抜てき人事を断行した。一方で4期途中まで務める過程では、副知事に4年の任期を全うさせないことが増えた。次々と首をすげ替えることで「幹部候補の人材枯渇を招いた」と今でもささやかれる。
制度上も「人材育成は都庁の弱み」(元幹部)との指摘がある。特に事務系職員は局をまたぐ異動が頻繁で、専門性はなかなか身につかないという。霞が関も異動が多いとはいえ、省庁を次々と替わりはしない。「都は国と対峙する仕事も多いが、各分野の経験や知識の差で後手に回りがち」
舛添要一前知事は「10年、20年先をみて新しい種をまかないと」と、金融や都市外交などの分野の人材育成を提唱した。五輪準備などに備え、行政系の職員定数を15年度に41年ぶりに増やし、16年度も上積みした。
都政の現場を担う職員の力をどう引き出すか。小池人事の色はまだ見えない。