クルマ異次元攻防(4)鉄VSアルミVS炭素繊維
熱帯びる素材間競争
2016/8/5 3:30 日経朝刊
米フォード・モーターのピックアップトラック「F―150」。同社で最も売れている看板車種でボディーにアルミを全面採用し話題を呼んだ。300キログラム以上軽量化に成功、燃費向上にもつながり、売れ行きも順調だ。発表後1週間で30万台以上の予約を集めた米テスラモーターズの廉価車種「モデル3」もアルミを多用する。
止まらぬ軽量化
「自動車の軽量化の流れは止まらない」(神戸製鋼所の川崎博也会長兼社長)。アルミは比重が鉄の約3分の1。同じ強度にする場合、約50%軽量化できる。神戸製鋼は鉄鋼事業が主力だが、軽量化に向けた戦略投資枠1千億円の半分以上をアルミにあてる。
アルミ国内最大手のUACJの名古屋製造所(名古屋市)。飲料缶材の大量生産ラインを自動車用に転換、真新しい仕上げラインも設けた。「国内市場は2020年に2~4倍になる」と田口正高所長は手応えを感じる。同社は5月にテスラやフォードに骨格用のアルミ材を納める米メーカーを買収するなど、ここぞとばかりに大規模投資を続ける。
「鉄は大丈夫なのか」。6月24日、新日鉄住金の株主総会。株主から質問が飛んだ。アルミに代表される他素材の車への採用が進んでいるためだ。日本の鉄鋼メーカーはこれまで日本の自動車メーカーと二人三脚で、強度の高さと加工のしやすさを両立した次世代鋼板を実用化してきた。しかし、環境規制強化のスピードも速い。米国では25年に乗用車で16年比で5割も燃費効率を高める必要がある。エンジンの改善だけではしのげない。
新日鉄住金は最高級鋼板をさらに20%軽量化した製品を開発、20年以降の量産を視野に車メーカーに提案を始めた。新日鉄住金の高橋健二副社長は「われわれはまだ鉄の能力の10分の1しか利用できていない。極限まで鉄のもつ潜在力を引き出す」とアルミなど他素材の台頭に対抗する。
量産加工技術欠く
鉄かアルミかだけではない。トヨタが6月に国内初披露したプラグインハイブリッド車「プリウスPHV」。後部ドアには炭素繊維強化プラスチックを採用した。鉄より強くアルミより軽い炭素繊維は東レや帝人など日本企業が世界シェアの過半を握るお家芸。だが、現実はそう甘くない。炭素繊維を型にはめてボディーやバンパーなどに加工して量産する技術で日本は後れを取る。独BMWは小型電気自動車「i3」がボディーに炭素繊維を採用、「カーボンカー」の量産化に成功した。
「このままでは日本は炭素繊維の糸を供給するだけの地位に成り下がってしまう」。すかさず動いたのは三井物産だ。石川県白山市にある金沢工業大学。14年にできた革新複合材料研究開発センター(ICC)で4月、炭素繊維に樹脂を染み込ませ、熱を加えて固める「RTM」と呼ばれる装置が動き始めた。
三井物産がRTMをドイツから購入してICCに持ち込んだ。ICCは約30社と共同研究を始めた。ホンダ出身の鵜沢潔所長のもと、三井物産とともに東レなどの素材メーカーや装置、部品メーカーの技術者らが集まり、知恵を絞る。
白熱する素材間競争。自動車メーカーと素材メーカーがタッグを組んできた日本勢はどう勝機を見いだすのか、試行錯誤は続く。
熱帯びる素材間競争
2016/8/5 3:30 日経朝刊
米フォード・モーターのピックアップトラック「F―150」。同社で最も売れている看板車種でボディーにアルミを全面採用し話題を呼んだ。300キログラム以上軽量化に成功、燃費向上にもつながり、売れ行きも順調だ。発表後1週間で30万台以上の予約を集めた米テスラモーターズの廉価車種「モデル3」もアルミを多用する。
止まらぬ軽量化
「自動車の軽量化の流れは止まらない」(神戸製鋼所の川崎博也会長兼社長)。アルミは比重が鉄の約3分の1。同じ強度にする場合、約50%軽量化できる。神戸製鋼は鉄鋼事業が主力だが、軽量化に向けた戦略投資枠1千億円の半分以上をアルミにあてる。
アルミ国内最大手のUACJの名古屋製造所(名古屋市)。飲料缶材の大量生産ラインを自動車用に転換、真新しい仕上げラインも設けた。「国内市場は2020年に2~4倍になる」と田口正高所長は手応えを感じる。同社は5月にテスラやフォードに骨格用のアルミ材を納める米メーカーを買収するなど、ここぞとばかりに大規模投資を続ける。
「鉄は大丈夫なのか」。6月24日、新日鉄住金の株主総会。株主から質問が飛んだ。アルミに代表される他素材の車への採用が進んでいるためだ。日本の鉄鋼メーカーはこれまで日本の自動車メーカーと二人三脚で、強度の高さと加工のしやすさを両立した次世代鋼板を実用化してきた。しかし、環境規制強化のスピードも速い。米国では25年に乗用車で16年比で5割も燃費効率を高める必要がある。エンジンの改善だけではしのげない。
新日鉄住金は最高級鋼板をさらに20%軽量化した製品を開発、20年以降の量産を視野に車メーカーに提案を始めた。新日鉄住金の高橋健二副社長は「われわれはまだ鉄の能力の10分の1しか利用できていない。極限まで鉄のもつ潜在力を引き出す」とアルミなど他素材の台頭に対抗する。
量産加工技術欠く
鉄かアルミかだけではない。トヨタが6月に国内初披露したプラグインハイブリッド車「プリウスPHV」。後部ドアには炭素繊維強化プラスチックを採用した。鉄より強くアルミより軽い炭素繊維は東レや帝人など日本企業が世界シェアの過半を握るお家芸。だが、現実はそう甘くない。炭素繊維を型にはめてボディーやバンパーなどに加工して量産する技術で日本は後れを取る。独BMWは小型電気自動車「i3」がボディーに炭素繊維を採用、「カーボンカー」の量産化に成功した。
「このままでは日本は炭素繊維の糸を供給するだけの地位に成り下がってしまう」。すかさず動いたのは三井物産だ。石川県白山市にある金沢工業大学。14年にできた革新複合材料研究開発センター(ICC)で4月、炭素繊維に樹脂を染み込ませ、熱を加えて固める「RTM」と呼ばれる装置が動き始めた。
三井物産がRTMをドイツから購入してICCに持ち込んだ。ICCは約30社と共同研究を始めた。ホンダ出身の鵜沢潔所長のもと、三井物産とともに東レなどの素材メーカーや装置、部品メーカーの技術者らが集まり、知恵を絞る。
白熱する素材間競争。自動車メーカーと素材メーカーがタッグを組んできた日本勢はどう勝機を見いだすのか、試行錯誤は続く。