変化を受け入れることと経緯を大切にすること。バランスとアンバランスの境界線。仕事と趣味と社会と個人。
あいつとおいらはジョージとレニー




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カテゴリの 『連載』 を選ぶと、古い記事から続きモノの物語になります。
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 <目次>      (今回の記事への掲載範囲)
 序 章         掲載済 (1、2)
 第1章 帰還     掲載済 (3、4、5、6、7)
 第2章 陰謀     掲載済 (8、9、10、11)
 第3章 出撃     掲載済 (12、13、14、15、16)
 第4章 錯綜     掲載済 (17、18、19、20)
 第5章 回帰     掲載済 (21、22、23、24)
 第6章 収束     掲載済 (25、26、27、28)
 第7章 決戦     掲載済 (29、30、31、32、33、34)
 終 章          ○    (35)
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 《終章》

 吹き抜ける風は爽やかであった。王宮に咲き乱れる花々の香りさえするようでもある。陽の光も穏やかであり、そこは平穏そのものであった。閉ざされた一画から自由で出入りできないことを除いて。
 幽閉とは、地下牢にでも押し込まれるものと思っていた王子は、穏やかな表情で庭園を見下ろしていた。なぜ自分が幽閉されなければならないのか、この先どうなってしまうのか、全く想像もできなかった。昨日、王宮内で炸裂した爆弾の衝撃はここにも届いていたが、脱出を言いに来る者は誰もいないし、父親である王は会いに来てもくれない。
 自分が何をしたと言うのだろう? 噂では、王国は大陸の北方において致命的な敗北を期したとも言う。そして究極の最終兵器も、無敵の前評判も空しく破壊されたと聞いた。これらに自分が関係していると疑われているのか? そんな馬鹿な。
 しかし、囚われの身の耳に届く噂は、もたらされる食事程の鮮度もなく、信憑性は皆無といい。そんな情報からは何事も推し量ることはできなかった。

 そんな王子を見ている初老の男がいた。王子の教育係であり、ルナの時代から『老師』と呼ばれている男である。孫のような王子とその取り巻きを、彼は彼なりの最大の情熱を以って教育して来たつもりである。そんな彼にとって、王子捕囚の知らせは悪夢以外の何物でもなかった。だからと言って、何ができるだろう? 一介の役人でしかない彼には、見ていることしかできないのだ。いつも一緒にいた仲間達とも引き離され、王子は本当の意味での孤独を始めて味わっていることだろう。少年にとって、恐らくそれは耐え難い苦痛であるか、近々そうなるはずだ。
 脱出できないものだろうか。過去に、幾人の英雄が囚われの身から脱したか。その脱出劇までもが英雄足る所以なのだろう。王子にそれが可能だろうか。彼の仲間は助けに来ないか。奇跡が訪れてくれはしまいか。
 彼は、王子の仲間の数人が既にこの世の人でなくなってしまったことを知らない。王子奪還が計画された上に実行され、既に失敗に終わったこと、彼はそれを知らなかったのだが、誰よりも彼等の幼さと至らなさを知っているだけに、もしも救出に来ようものなら、その命を賭けることになるということまでを見抜いていた。故に、少年達にはそんなことをしないで欲しいという気持ちが先立っており、だからこそ偶発的な奇跡を期待してしまいもするのだ。そんな複雑な心境にも関わらず、初老の男は何故か楽観的な気分でもあった。理由は定かではないが、あの不躾な男が再びドアを開け、王子を解き放ってくれるような気がしてならないのだ。
 ルナの行方は杳として知れないと聞く。王国の将来も極めて危うい状況であるし、その原因はルナにあるとの噂は絶えない。あろうことか、王子がここから脱出してルナに合流した、との噂まである。また、リメス・ジンとか言う最終兵器を撃破したのがルナだと言う者いる。軍がクーデターを起こしたと真しやかに語る輩もいるが、それさえもルナとの関係が疑われている。全てがルナに面白可笑しく結び付けられた情報は、どれも噂の域を出ないと考えるべきだ。そもそも、ルナの生死すら誰も確認できてはいまい。ところが彼も、現状はルナが打破してくれる、といった確信めいた思いを払拭できずにいて、噂を流している連中と大きくは違わない。
 くしくも、一人で物思いにふける王子も同じことを考えていた。ルナが現れて自分の窮地を救ってくれるはずだと。
 多くの臣民とて同様であった。周到に仕組まれ、そして大部分が事実の上に構築されたルナの悪評は、一部の者~ 悪評を仕組んだ者達 ~ 以外には受け入れられなかったようだ。

 初老の男は、次回の講義を準備することで気持ちを落ち着けることにした。次回は、オリエント遠征を終えて、カエサルがローマに帰還するところからフィルムが始まる。ローマ帝国は危機を脱し、それから数百年に及ぶ繁栄と安定を謳歌するのだ。後年、『パックス・ロマーナ』と呼ばれる時代の始まりであり、二千年の時を越え、現在の概ねの枠組みが完成した時代だ。
 歴史に『もし』は無いという。だがしかし、もし、カエサルなければ、どんな世界と歴史が作り出されたのだろう? ブルータスがカエサルの暗殺を成し遂げていたら……、そんな他愛も無い想像にふけりながら、初老の男は淡々と講義の準備を進めるのだった。

終わり


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