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音楽無用? 映画『アース』

2007-12-27 06:57:06 | Cinema
来年1月12日から公開される映画『アース』の試写会に行ってきた。

今月は、『スルース』『つぐない』『胡同の理髪師』と来年公開映画の試写があれこれ。
先日はスカパー放映の6時間近いイタリア長編映画『輝ける青春』も観た。
どれもなかなかの見ごたえ。詳細レビューは、追々書いていきます。

「主演、地球 46億歳。」 というのが『アース』のキャッチ。
登場するのは、ホッキョク熊、アザラシ、カリブー、オオカミ、アフリカ象、ザトウ鯨、オシドリ、
ツル、チーター、ライオン、オオヤマネコ、アムールヒョウe.t.c  ヒトは一切登場しない。
5年の歳月をかけ、北極から北米の氷河、赤道直下の熱帯雨林、アフリカのサバンナ、
南極など、40名のカメラマンが地球の一瞬一瞬を命がけでとらえた
スペクタクルな大自然ドキュメンタリーだ。

この手のBBC制作ネイチャードキュメンタリーは、NHKなどでも時々放送しているけれど
大画面用に撮影された恐ろしくクリアで精緻な映像は、大きなスクリーンで観てこその大迫力。
広大な氷河や大瀑布も、鳥や動物たちのめくるめく群れも、移ろい行く四季の樹木の彩りも
リアルな自然そのものの造形ゆえ、CG依存のSFやアニメの比ではない。
俯瞰で追うオオカミとトナカイの非情な追跡劇や、暗視カメラがとらえた巨像とライオンたちの
昼と夜のかけひきなど、へたなサスペンスホラーより手に汗握る。

なかでも、弾道実験用に開発されたという2000分の1秒のハイスピードカメラがとらえた
チーターとカモシカのこどもの死走を、スローモーションで見せるサバンナのシーンは圧巻。
ゆっくりと転げていくカモシカのこどもを、背後からしなやかに抱きすくめ、もがく首筋にスーッと
口を寄せ、一瞬の迷いもなく喉笛に牙をたてるチーターの一切無駄のない洗練された動きは
乙女を魔手にかけるエレガントなドラキュラ伯爵のようにすら見えた。

残酷にみえるが、食物連鎖の世界にヒーロー映画のような勧善懲悪はない。
生きていくことは、残酷の集積の上に成り立っている。
血抜きされ、きれいにパックされた切り身の肉や魚を買って、家族の夕飯をこしらえる
母親たちを誰も残酷とはいわないけれど。

冒頭に登場する冬眠からさめたホッキョク熊の赤ちゃんは抱きしめたくなるほどかわいいけど、
最大の肉食獣である大人の雄のホッキョク熊は、セイウチの赤ちゃんを狙って、
かばう母親を襲う。でも逃げられて力尽き、やがて飢え死ぬ。温暖化で氷が融け、
従来の捕食活動ができなくなっているがゆえの歪みが、そこに縮図としてあらわれている。

ここに出てくる多くの動物たちは、餌を求め、水を求めて、みな旅している。
ある種の、地球ロードムービーともいえるが、この原型は数年前に話題になった仏映画
『WATARIDORI』(ジャック・ペラン監督)にあるのではないかという気がする。
この映画もCG一切なしで世界中の渡り鳥たちの生態を克明に描き出しており、
そのリアルな鳥瞰アングルには眼を見張った。

が、この2つの映画の決定的な違いは、音響のセンス。
『WATARIDORI』はロバート・ワイアットやニック・ケイブなどの曲を効果的に用いていたが、
『アース』はベルリン・フィルの壮大な交響曲が、のべつまくなしベタベタに流れる。
また、たとえば鳥たちの羽音やライオンの群れの唸りなどは非常にリアルだったが、
ホオジロ鮫やザトウ鯨などの海中シーンに、ハリウッドのアクション映画ばりの
派手な効果音は無用だと感じた。水中はそもそも音のない静寂の世界のはず。
子供向け映画の側面もあるので、ナレーションを否定はしないが、
なくても全然構わない。試しに耳を塞いでみたら、一段と映像が際立ってみえた。

音楽もナレーションも一切カットし、生音だけでみせるという選択肢もあったはず。
音楽も、坂本龍一氏とかに頼めば、もっと映像を邪魔しないものになったのでは、という気も。。
もし、お正月明けに観にいくひとは、耳栓を持っていく、というのもおすすめ。


「もちもーち、こちら地球星」©シロ <『アース』のキャッチに推薦。
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