夏があっけなく幕を下ろす直前、短くも濃い旅に――
8月最後の週末、出発ぎりぎりまでかかった徹夜原稿をちゅっとメールして
一睡もしないまま東京駅に走り、朝8時台の上越新幹線MAXとき に駆け込んだ。
シートに沈むや意識が薄れ、はたと気づくと窓外に、めくるめく田圃が広がっていた。
緑の大きな生きものの毛並みのような、ふっさふさの稲穂がゆれる田園が。
越後湯沢でほくほく線の電車に乗り換え、車内でまたうとうとしていたら、
トンネルに入った所で突如、天井に花火がどーん。しばし夢うつつのまま
美しき青きドナウなどのクラシックに合わせて上映されるヴァーチャル花火に見入る。
ほくほく線では定期的に上映しているよう。
十日町で下車し、別便で来た弟の竜ちゃん&はーちゃん夫婦と駅で無事合流。
名物のへぎ蕎麦(美味!)をつるんと食べ、レンタカーに乗り込み、
目指すはいざ「大地の芸術祭。越後妻有アートトリエンナーレ2009」。
といっても、会場は東京23区の1.2倍もの広大な越後妻有エリア760㎢っっ。
その集落や空家、廃校などに約350ものアートが散らばっているのだ。
最初に向かったのは、タレルの「光の館」がある川西エリア。
途中、こんな鳥男やウサギなどとすれ違った。芸術祭が始まった2000年に設置された
藤原吉志子の「レイチェル・カーソンに捧ぐ ~ 4つの小さな物語」。
農薬の弊害に警鐘を鳴らした「沈黙の春」以降も環境破壊が進む社会に疑問を呈した作品らしい。
そこからほどなくジェームズ・タレルの「光の館」に到着。
2000年に設置された瞑想のためのゲストハウスで、妻有の伝統的な邸宅がモデルに。
着想を得たのは、谷崎潤一郎の「陰翳礼賛」だそう。
和室の畳に寝転ぶと、開閉式の天井から移ろいゆく空の表情が臨める。曇っていたのに意外と眩しい。
至る所にほわっと温かな色彩の間接照明が仕込まれており、浴室にも不思議な光の仕掛けが。
直島で体験した幾つかのタレル作品にも通じる世界観。宿泊してこそ真価を実感できるのだろうが、
好みははっきり分かれるところだろう。
☆廃校
芸術祭のために新設されるハコもさることながら、私がこの芸術祭で最も興味深かったのは、
妻有の深刻な高齢過疎化の産物である「廃校」や「空家」を舞台としたプロジェクトだ。
これはそのひとつ、鉢のように丸くくぼんだ鉢集落にある旧真田小学校の「絵本と木の実の美術館」。
絵本作家・田島征三が 校舎を縦横無尽に駆使して稚気溢れる立体絵本に仕立て上げていた。
主人公である最後の卒業生3人の思い出が詰まった学校は、無人になってしまっても
決して“空っぽにはならない”という温かなメッセージが校舎の隅々に宿っていた。
校舎の裏では、水内貴英による虹を人工的に造り出す「虹色の蛇」が歓声を誘っていた。
夏草にきらきら降り注ぐ霧雨のスクリーンに浮かぶ大きな虹にしばしみとれ。。
鉢集落をあとに向かったのは、十日町エリアの旧名ヶ山小学校にある「福武ハウス 2009」。
ここには 芸術祭の総合プロデューサー福武總一郎氏の呼びかけで日本や中国・韓国の
先鋭ギャラリーが集結。音楽室はギャラリー小柳、体育館は小山登美夫ギャラリーなどなど
そのシチュエーション自体がひどくシュールで。
今春訪れた直島や犬島もそうだが、都市から発信されるのが当たり前のような現代アートを
過疎の里山から世界へ発信するという逆発想は痛快。各画廊の作品同士に脈絡はないのだが、
無関係なエッヂとエッヂがプリティな教室と教室で隣り合っているのは案外わくわくする。
帰りに、福武ハウスのカフェでいただいた地元産のフルーティなトマトのあまりの美味しさに、
思わずはーちゃんと驚嘆「えーっ」。あるイミ、これこそ“大地の芸術”かも?!
夕方近く、芸術祭のさまざまなエッセンスが集約された松代の「農舞台」方面へ。
ここでまず目につくのは、棚田で働く農夫たちのカラフルなシルエット。
2000年から設置されているイリヤ&エミリヤ・カバコフの作品「棚田」だ。
展望台から眺めると、稲作の情景を詠んだテキストとオブジェがオーバーラップする。
で、これは農舞台前の簡易トイレに入ろうとしている私を竜ちゃんがぱちり…ではなく、
雪深い妻有でよく目にするかまぼこ型倉庫をイメージした「かまぼこ画廊」。
作者はあの「なすび画廊」の小沢剛。中を覗くと、ちゃんといろんな作品が。。
農舞台の中では、筑波時代の恩師カワタツこと河口龍夫先生の作品に思いがけず遭遇。
「関係-黒板の教室」と題されたこの部屋は、壁も床も机も椅子も棚も地球儀も全部、黒板!
しかもチョークで落書きOK。せっかくなので、黒板にへなちょこサインしてきました(中学生かっ)
これは「農舞台」周囲の作品群でもひときわ毒々しい…否、華々しい草間彌生の「花咲ける妻有」。
☆
夜は松之山温泉の宿で、熱々の源泉に浸かってとろとろに。草津、有馬と並ぶ日本三大薬湯らしく、
1200万年前の化石海水が湧出する90℃以上の自噴泉は、火山型温泉が多い日本では希少だそう。
朝も露天を堪能した後、せせらぎと湯煙に誘われるように宿の周囲を散策。
さらに、のんびりした朝の温泉街のお土産やさんをひやかし、
店先で津南名物の濃厚なにんじんジュース(美味!)を3人仲良く飲んだ後、
いざ、大地の芸術祭2日目に出発。
幸先よく、前夜から降り出した雨も宿を出る頃にはすっかり上がった。
「大地の芸術祭2009@越後妻有 ②とどのつまり編」へ つづく――
8月最後の週末、出発ぎりぎりまでかかった徹夜原稿をちゅっとメールして
一睡もしないまま東京駅に走り、朝8時台の上越新幹線MAXとき に駆け込んだ。
シートに沈むや意識が薄れ、はたと気づくと窓外に、めくるめく田圃が広がっていた。
緑の大きな生きものの毛並みのような、ふっさふさの稲穂がゆれる田園が。
越後湯沢でほくほく線の電車に乗り換え、車内でまたうとうとしていたら、
トンネルに入った所で突如、天井に花火がどーん。しばし夢うつつのまま
美しき青きドナウなどのクラシックに合わせて上映されるヴァーチャル花火に見入る。
ほくほく線では定期的に上映しているよう。
十日町で下車し、別便で来た弟の竜ちゃん&はーちゃん夫婦と駅で無事合流。
名物のへぎ蕎麦(美味!)をつるんと食べ、レンタカーに乗り込み、
目指すはいざ「大地の芸術祭。越後妻有アートトリエンナーレ2009」。
といっても、会場は東京23区の1.2倍もの広大な越後妻有エリア760㎢っっ。
その集落や空家、廃校などに約350ものアートが散らばっているのだ。
最初に向かったのは、タレルの「光の館」がある川西エリア。
途中、こんな鳥男やウサギなどとすれ違った。芸術祭が始まった2000年に設置された
藤原吉志子の「レイチェル・カーソンに捧ぐ ~ 4つの小さな物語」。
農薬の弊害に警鐘を鳴らした「沈黙の春」以降も環境破壊が進む社会に疑問を呈した作品らしい。
そこからほどなくジェームズ・タレルの「光の館」に到着。
2000年に設置された瞑想のためのゲストハウスで、妻有の伝統的な邸宅がモデルに。
着想を得たのは、谷崎潤一郎の「陰翳礼賛」だそう。
和室の畳に寝転ぶと、開閉式の天井から移ろいゆく空の表情が臨める。曇っていたのに意外と眩しい。
至る所にほわっと温かな色彩の間接照明が仕込まれており、浴室にも不思議な光の仕掛けが。
直島で体験した幾つかのタレル作品にも通じる世界観。宿泊してこそ真価を実感できるのだろうが、
好みははっきり分かれるところだろう。
☆廃校
芸術祭のために新設されるハコもさることながら、私がこの芸術祭で最も興味深かったのは、
妻有の深刻な高齢過疎化の産物である「廃校」や「空家」を舞台としたプロジェクトだ。
これはそのひとつ、鉢のように丸くくぼんだ鉢集落にある旧真田小学校の「絵本と木の実の美術館」。
絵本作家・田島征三が 校舎を縦横無尽に駆使して稚気溢れる立体絵本に仕立て上げていた。
主人公である最後の卒業生3人の思い出が詰まった学校は、無人になってしまっても
決して“空っぽにはならない”という温かなメッセージが校舎の隅々に宿っていた。
校舎の裏では、水内貴英による虹を人工的に造り出す「虹色の蛇」が歓声を誘っていた。
夏草にきらきら降り注ぐ霧雨のスクリーンに浮かぶ大きな虹にしばしみとれ。。
鉢集落をあとに向かったのは、十日町エリアの旧名ヶ山小学校にある「福武ハウス 2009」。
ここには 芸術祭の総合プロデューサー福武總一郎氏の呼びかけで日本や中国・韓国の
先鋭ギャラリーが集結。音楽室はギャラリー小柳、体育館は小山登美夫ギャラリーなどなど
そのシチュエーション自体がひどくシュールで。
今春訪れた直島や犬島もそうだが、都市から発信されるのが当たり前のような現代アートを
過疎の里山から世界へ発信するという逆発想は痛快。各画廊の作品同士に脈絡はないのだが、
無関係なエッヂとエッヂがプリティな教室と教室で隣り合っているのは案外わくわくする。
帰りに、福武ハウスのカフェでいただいた地元産のフルーティなトマトのあまりの美味しさに、
思わずはーちゃんと驚嘆「えーっ」。あるイミ、これこそ“大地の芸術”かも?!
夕方近く、芸術祭のさまざまなエッセンスが集約された松代の「農舞台」方面へ。
ここでまず目につくのは、棚田で働く農夫たちのカラフルなシルエット。
2000年から設置されているイリヤ&エミリヤ・カバコフの作品「棚田」だ。
展望台から眺めると、稲作の情景を詠んだテキストとオブジェがオーバーラップする。
で、これは農舞台前の簡易トイレに入ろうとしている私を竜ちゃんがぱちり…ではなく、
雪深い妻有でよく目にするかまぼこ型倉庫をイメージした「かまぼこ画廊」。
作者はあの「なすび画廊」の小沢剛。中を覗くと、ちゃんといろんな作品が。。
農舞台の中では、筑波時代の恩師カワタツこと河口龍夫先生の作品に思いがけず遭遇。
「関係-黒板の教室」と題されたこの部屋は、壁も床も机も椅子も棚も地球儀も全部、黒板!
しかもチョークで落書きOK。せっかくなので、黒板にへなちょこサインしてきました(中学生かっ)
これは「農舞台」周囲の作品群でもひときわ毒々しい…否、華々しい草間彌生の「花咲ける妻有」。
☆
夜は松之山温泉の宿で、熱々の源泉に浸かってとろとろに。草津、有馬と並ぶ日本三大薬湯らしく、
1200万年前の化石海水が湧出する90℃以上の自噴泉は、火山型温泉が多い日本では希少だそう。
朝も露天を堪能した後、せせらぎと湯煙に誘われるように宿の周囲を散策。
さらに、のんびりした朝の温泉街のお土産やさんをひやかし、
店先で津南名物の濃厚なにんじんジュース(美味!)を3人仲良く飲んだ後、
いざ、大地の芸術祭2日目に出発。
幸先よく、前夜から降り出した雨も宿を出る頃にはすっかり上がった。
「大地の芸術祭2009@越後妻有 ②とどのつまり編」へ つづく――