いつか南イタリアのマテーラで逢ったバンビーナ。カリーナだったか、はたまたナタリーナだったか。
彼女は風に向かって何か語りかけていた。歳を訊いたら、かわいい指を4本立ててみせた。
今ごろは美しいシニョリーナになっているだろうな。
これはうちに飾ってある写真のひとつだが、
思いがけず撮った旅の写真って、何年経って見ても 心ときめく。
絵葉書みたいなただただきれいなショットより、旅先で出逢った心震わす存在に向かって、
夢中でシャッターを切ったショットに惹かれる。それが自分の写真であれ、誰の写真であれ。
日曜、「旅」をテーマにした写真展の第3部「異邦へ」を見に、写美(東京都写真美術館)へ。
(夏に第2部を見た感想はこちらをお読みください)
ポスターになっていたのは、渡辺義雄が1956年に撮った[イタリア]シリーズのひとつ、
フィレンツェのウッフィツィ美術館にあるミケランジェロのダビテ像ショット。
日本人写真家が海外で撮った写真を集めた今展は、世界中の観光客がカメラを向ける
エキゾチズムの対象を、名匠たちがどう料理してきたのかが私的見どころだった。
これは理屈抜きで好きだった作品のひとつ。
木村伊兵衛の「パリ・霧のメニール モンタン」1954年
初の海外旅行で、しかもブレッソンやドアノーの洗礼を受けたとはいえ、
人物を決定的に活写した木村伊兵衛の天才ぶりを垣間見るに十分なショットではないかと思う。
奈良原一高の[静止した時間]シリーズは、非常にシュルレアリスティック。
特に左は、フォトジェニックゆえに審美的敷居も高いヴェネツィアを切り撮った
アートとして、恐ろしく切れ味鋭い。
先ほどの渡辺義雄の[イタリア]シリーズの中で、最も惹かれたのがこの作品「サルデーニア」。
白と黒にくっきり分断された南イタリアの光と陰。こちらに注がれた女性の眼差しに射抜かれる。
同[イタリア]より。サン・ピエトロ寺院前の大通りを行く修道女3人の黒い衣のバランスが絶妙。
これも渡辺義雄の[イタリア]シリーズなのだが、こちらは図らずも典型的なローマ絵葉書的ショット。
ローマの名所でカメラを向けると、フォトジェニックゆえに誰しも撮ってしまう絵柄というか。
右はサン・ピエトロ寺院の中のバロックな螺旋階段。左はエウルの四角いコロッセオこと労働文明館。
↑ちなみに、右は うちの本棚に長らくたてかけてある自分で撮ったサン・ピエトロ寺院 の螺旋。
左は姉に撮ってもらったスナップ(下方に豆粒のような私..)。
オムニバス映画『ボッカチオ’70』で、フェリーニはこの四角いコロッセオに
ゴジラみたいに巨大化した妖艶なアニタ・エクバーグを絡めていたっけ。。
展示の最後にあった、港千尋の「バスク海岸、ビアリッツ」1986年
海はそもそもフォトジェニックな存在だけれど、凡百の海ショット以上の圧倒的な海の存在感を
焼きつけることは、実はとてつもなく難しいと思う。撮る側が小さいと、確実に負けてしまうから。
自称トラヴェリング・フォトグラファーこと港千尋のノルマンディー上陸作戦の海岸を撮ったこの1枚は
見る者を吸い込むような力がある。商業的な海写真に毒されていると、よけいに新鮮。
(と、毎度 終了してしまった企画展の話ばかりで恐縮です。。)
☆
写美を出ると、ガーデンプレイスの一角に植えられたオリーブの樹にどっさり実がなっていた。
いいなあ&おいしそう。。うちのオリーブは、ぼうぼう枝が伸びるばかりで今年は結実しなかった。。
とはいえ うちのベランダの枇杷の木が、10年目にして初開花! 秋冬に咲く珍しい花。
枇杷に絡んだ季節外れの朝顔に触発されたのかな。来年こそ枇杷の実がなるとうれしいな。
☆
先週末、弟の竜が研究会のついでにうちに来ていたので、中国通の竜おすすめの
西池袋ディープチャイナエリアにある中国東北地方の家庭料理店に足を延ばした。
竜から聞いていた通り、客もメニューも雰囲気も完全に中国。しかも身体に優しい味。
かつて北京留学中の竜と方々を巡ったことを懐かしく思い出した。
あれから約10年、中国は劇的に変わっている。
これは今年9月に竜が北京旅行中に撮影したスナップ。
右はレム・コールハースがデザインした中国中央電視台の新社屋。左はマンダリン・オリエンタル
…といいたいところだけど、今年2月に炎上してしまった後の残骸(高さ160m!)。
火災原因は花火だったらしいが、国慶節には懲りずに花火をばんばん打ち上げていたよう。
昔もいまも、かの国の人たちは、面くらうほどいきものとしてたくましい。
国慶節の練習用に打ち上げられた花火を 竜が激写。よく見ると、逆さスマイル!
☆
火曜、乃木坂の仏料理店で対談取材後、ミッドタウンに寄り道。クリスマスデコレーションの
華やかさに比して、平日だからか人影もまばら。サンタの方がいっぱいいたかも。。
右下は写美の帰りに通ったガーデンプレイス。どこもLEDはきらきらだけど、不況の影は深い。
☆
木曜、レイちゃんのお誘いで木彫刻師 岩崎努さんの個展を見に銀座の『サロン・ド・バーグレー』へ。
ここはオーダーメイドでお洋服を作ってくれるサロンなのだが、今回は期間ギャラリーとして開放。
作家さん自らが作業する姿も見られて面白かった。いろんな木を使っているそうで、サロン内にも
ほんのり心地よい木の香りが。私が特に気に入ったのは、この兎の彫刻。作家の岩崎さんいわく、
こんな風にむくむくの毛の量感や質感を表現する方法を「毛彫り」というそう。恐るべし、けぼり!
帰りにレイちゃん&山川さんとゴハン。VMDのプロ山川さんは最近靴作りも学んでいるそうで、
靴の皮革で手帖カバーも手作りしているのだとか。受注販売もするそうなので、
愛用のクオ・ヴァディスのレザーカバーを早速お願いしてみた。
↑山川さん手作りの上質レザーでできた手帖カバー。彼女のネイルもシックでした。
☆
先週、ニキの1年半目の月命日にと挿していた白い百合が、10日も経つのにみずみずしく、
しかも1本から6輪も開花。残り2つの蕾も着実に膨らんでいる。濃く澄んだ香りに記憶がそよめく。
7年前の11月、父が逝ったときにも濃密に香っていた百合の芳香。
漱石の「夢十夜」の第一夜には、白百合の印象的な夢のラストシーンがある。
女の墓の側で百年待った男の鼻先に「骨にこたえるほど」匂う真っ白な百合が咲くのだ。
金井田英津子 画のパロル舎刊「夢十夜」より
彼女は風に向かって何か語りかけていた。歳を訊いたら、かわいい指を4本立ててみせた。
今ごろは美しいシニョリーナになっているだろうな。
これはうちに飾ってある写真のひとつだが、
思いがけず撮った旅の写真って、何年経って見ても 心ときめく。
絵葉書みたいなただただきれいなショットより、旅先で出逢った心震わす存在に向かって、
夢中でシャッターを切ったショットに惹かれる。それが自分の写真であれ、誰の写真であれ。
日曜、「旅」をテーマにした写真展の第3部「異邦へ」を見に、写美(東京都写真美術館)へ。
(夏に第2部を見た感想はこちらをお読みください)
ポスターになっていたのは、渡辺義雄が1956年に撮った[イタリア]シリーズのひとつ、
フィレンツェのウッフィツィ美術館にあるミケランジェロのダビテ像ショット。
日本人写真家が海外で撮った写真を集めた今展は、世界中の観光客がカメラを向ける
エキゾチズムの対象を、名匠たちがどう料理してきたのかが私的見どころだった。
これは理屈抜きで好きだった作品のひとつ。
木村伊兵衛の「パリ・霧のメニール モンタン」1954年
初の海外旅行で、しかもブレッソンやドアノーの洗礼を受けたとはいえ、
人物を決定的に活写した木村伊兵衛の天才ぶりを垣間見るに十分なショットではないかと思う。
奈良原一高の[静止した時間]シリーズは、非常にシュルレアリスティック。
特に左は、フォトジェニックゆえに審美的敷居も高いヴェネツィアを切り撮った
アートとして、恐ろしく切れ味鋭い。
先ほどの渡辺義雄の[イタリア]シリーズの中で、最も惹かれたのがこの作品「サルデーニア」。
白と黒にくっきり分断された南イタリアの光と陰。こちらに注がれた女性の眼差しに射抜かれる。
同[イタリア]より。サン・ピエトロ寺院前の大通りを行く修道女3人の黒い衣のバランスが絶妙。
これも渡辺義雄の[イタリア]シリーズなのだが、こちらは図らずも典型的なローマ絵葉書的ショット。
ローマの名所でカメラを向けると、フォトジェニックゆえに誰しも撮ってしまう絵柄というか。
右はサン・ピエトロ寺院の中のバロックな螺旋階段。左はエウルの四角いコロッセオこと労働文明館。
↑ちなみに、右は うちの本棚に長らくたてかけてある自分で撮ったサン・ピエトロ寺院 の螺旋。
左は姉に撮ってもらったスナップ(下方に豆粒のような私..)。
オムニバス映画『ボッカチオ’70』で、フェリーニはこの四角いコロッセオに
ゴジラみたいに巨大化した妖艶なアニタ・エクバーグを絡めていたっけ。。
展示の最後にあった、港千尋の「バスク海岸、ビアリッツ」1986年
海はそもそもフォトジェニックな存在だけれど、凡百の海ショット以上の圧倒的な海の存在感を
焼きつけることは、実はとてつもなく難しいと思う。撮る側が小さいと、確実に負けてしまうから。
自称トラヴェリング・フォトグラファーこと港千尋のノルマンディー上陸作戦の海岸を撮ったこの1枚は
見る者を吸い込むような力がある。商業的な海写真に毒されていると、よけいに新鮮。
(と、毎度 終了してしまった企画展の話ばかりで恐縮です。。)
☆
写美を出ると、ガーデンプレイスの一角に植えられたオリーブの樹にどっさり実がなっていた。
いいなあ&おいしそう。。うちのオリーブは、ぼうぼう枝が伸びるばかりで今年は結実しなかった。。
とはいえ うちのベランダの枇杷の木が、10年目にして初開花! 秋冬に咲く珍しい花。
枇杷に絡んだ季節外れの朝顔に触発されたのかな。来年こそ枇杷の実がなるとうれしいな。
☆
先週末、弟の竜が研究会のついでにうちに来ていたので、中国通の竜おすすめの
西池袋ディープチャイナエリアにある中国東北地方の家庭料理店に足を延ばした。
竜から聞いていた通り、客もメニューも雰囲気も完全に中国。しかも身体に優しい味。
かつて北京留学中の竜と方々を巡ったことを懐かしく思い出した。
あれから約10年、中国は劇的に変わっている。
これは今年9月に竜が北京旅行中に撮影したスナップ。
右はレム・コールハースがデザインした中国中央電視台の新社屋。左はマンダリン・オリエンタル
…といいたいところだけど、今年2月に炎上してしまった後の残骸(高さ160m!)。
火災原因は花火だったらしいが、国慶節には懲りずに花火をばんばん打ち上げていたよう。
昔もいまも、かの国の人たちは、面くらうほどいきものとしてたくましい。
国慶節の練習用に打ち上げられた花火を 竜が激写。よく見ると、逆さスマイル!
☆
火曜、乃木坂の仏料理店で対談取材後、ミッドタウンに寄り道。クリスマスデコレーションの
華やかさに比して、平日だからか人影もまばら。サンタの方がいっぱいいたかも。。
右下は写美の帰りに通ったガーデンプレイス。どこもLEDはきらきらだけど、不況の影は深い。
☆
木曜、レイちゃんのお誘いで木彫刻師 岩崎努さんの個展を見に銀座の『サロン・ド・バーグレー』へ。
ここはオーダーメイドでお洋服を作ってくれるサロンなのだが、今回は期間ギャラリーとして開放。
作家さん自らが作業する姿も見られて面白かった。いろんな木を使っているそうで、サロン内にも
ほんのり心地よい木の香りが。私が特に気に入ったのは、この兎の彫刻。作家の岩崎さんいわく、
こんな風にむくむくの毛の量感や質感を表現する方法を「毛彫り」というそう。恐るべし、けぼり!
帰りにレイちゃん&山川さんとゴハン。VMDのプロ山川さんは最近靴作りも学んでいるそうで、
靴の皮革で手帖カバーも手作りしているのだとか。受注販売もするそうなので、
愛用のクオ・ヴァディスのレザーカバーを早速お願いしてみた。
↑山川さん手作りの上質レザーでできた手帖カバー。彼女のネイルもシックでした。
☆
先週、ニキの1年半目の月命日にと挿していた白い百合が、10日も経つのにみずみずしく、
しかも1本から6輪も開花。残り2つの蕾も着実に膨らんでいる。濃く澄んだ香りに記憶がそよめく。
7年前の11月、父が逝ったときにも濃密に香っていた百合の芳香。
漱石の「夢十夜」の第一夜には、白百合の印象的な夢のラストシーンがある。
女の墓の側で百年待った男の鼻先に「骨にこたえるほど」匂う真っ白な百合が咲くのだ。
金井田英津子 画のパロル舎刊「夢十夜」より