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鬼灯、ロータス、木版画展

2009-07-17 03:00:44 | Scene いつか見た遠い空
鬼灯(ほおずき)は旧盆に死者を導く提灯ともいわれる。
先週土曜、キムリエさんのお誘いで芋洗い坂の途上にある朝日神社のほおずき市へ。
前日には軽い脱水症状で近所の病院で点滴をしていたというのに、この日は嘘のようにけろりと回復。
というかむしろ前より元気に。ヒトの身体って、つくづく丈夫にできているものだなあと妙に感心。

神社では宮崎県日之影町直送の鬼灯を入手。南国育ちは実が大きい! 思わず一個、剥いてみた。
――幼い頃、高い木の枝に巣を張っている鬼蜘蛛が、何かの拍子で地面に落下し、
蜘蛛の腹からこんな朱い珠ともう少し小さな緑色の珠がとろんと流れ出てくるのを見たことがある。
長い間、いきものの魂とは、こんな朱い珠なんだと信じていた。



芋洗い坂を下り、キムリエさん&レイちゃんと麻布十番でおいしいパンを買い食いしたりしながら
古河橋まで歩いてクーリーズ・クリークへ。この日は昨年末のアダン・オハナ以来の
ドイス・マパスLIVE(正確にはユニット名が「木下ときわ」名義に)。
8/9日発売される新作アルバム「海へ来なさい」の曲を中心に、ボッサでもフォークでもない
独特の音楽世界を楽しませてくれた。井上陽水や矢野顕子などのカバー曲もある中、
「団塊少女」というオリジナル曲がなんともアイロニカルかつチャーミングで、らしいなあと。


♪犬の散歩をしませた後に テレビ見て 戦争の国を 心配してた
 いつかつつまれる 世界がキノコ雲に 私 気にしないわ あなただけ ずっと一緒
 定年になれば 熱帯だね サルバドール マニラ メコンリバー
 定年になれば 熱帯だね ここにはもう戻ってこない... ♪ 「団塊少女」より  

 ね、いろんなイミですごいでしょ(笑)


翌日曜、都議選に行った後、自転車で駅前の商店街に出ると、
あろうことかヤギやら羊やら兎やら鶏やらポニーやら! 
夏祭り企画とか。しかし川崎の牧場からやって来たという動物くんたち、少々面食らいぎみだった。
駅前牧場。

人垣の中でぽつねんとしていた亀さんの周りだけ、違う時間が流れていた。ちょっと気の毒。。


商店街のスーパーの軒先では、ここ最近売り出し中の鈴虫に、クワガタムシも加わっていた。
しかし、ペナペナのお惣菜用の容器におが屑を詰めて売られたクワガタは、
まるでキナコに埋もれて潰れた小豆おはぎみたいで、こちらも気の毒。。



商店街を抜けて代々木公園の遊歩道を自転車で疾走中にすれ違った眩しい金色のハンゴンソウ。


数頭のアオスジアゲハが乱舞しているのにも遭遇。恐ろしくすばしっこくて
一瞬のうちに視界から消えてしまうけれど、昔からこの蝶に出逢うとむしょうに嬉しくなる。


代々木公園から表参道を抜け、麻布にあるスタジオトリコの側に越したキムリエさんの新居へ。
マンションの下にツバメの巣があり、ふわふわの雛鳥たちがすごくかわいかった。
寺山修司の「天井桟敷館」跡地にも至近の地で、界隈は独特の雰囲気がある。
そこからキムリエさん、レイちゃん、カッシーと暗闇坂を上って、5月に[ROSALBAvol.15] で取材した
桐島かれんさんの期間限定(7/1~20)ショップ「ハウス オブ ロータスに。
今回のテーマはバリだそうで、その名も「BALI BALI LOTUS」。
築約80年近い洋館にバリ直送のユニークな雑貨が集い、かれんさん自らが蓮の蕾を
手作りで加工したディスプレイなど、相変わらず随所に独特の美意識が。


あれこれ迷った挙句、蓮の蕾のような小さな籠に入ったガムランボールのペンダントヘッドを入手。
唐草模様が彫られたシルバーの珠を揺らすと、しゃららん…と世にも涼しげな音が鳴る。


ハウス オブ ロータスを出て狸坂に出ると、坂の向こうに鬼灯の実のような色の夕陽が見えた。
夜は海の家みたいなゆるゆる心地よいキムリエさん&キムナオさんの新居で、
ベランダからちょこっと覗く東京タワーの先っぽと月を眺めながらわいわいゴハン(愉!)。
付近で見た変り種の紫陽花?

余談ながら、麻布というのは、江戸川乱歩の少年探偵団ものに頻出する場所。
「麻布の、とあるやしき町に、百メートル四方もあるような大邸宅があります。
四メートルぐらいもありそうな、高い高いコンクリートべいが、ずうっと、目もはるかにつづいています。いかめしいとびらの門をはいると、大きなそてつが、どっかりと植わっていて、そのしげった葉のむこうに、りっぱな玄関が見えています。」
――『怪人二重面相』より


麻布の大きな洋館から純情可憐な子息や令嬢が誘拐されるというのは、乱歩の常套句。
松山巌は『乱歩と東京 1920都市の貌』で、開放的な下町に比べ、隣人が何を生業にしているか
不明な山の手の閉鎖性の怖さと、そこに勉強部屋を与えられて囚われる少年たちの怯えを、
麻布に代表される寂しい屋敷町に跋扈する怪人への恐怖に共鳴させていると指摘している。
今では○○ヒルズ的なタワーがキノコの如く乱立しつつある界隈だが、
それでも細い坂の途上に、乱歩的風景の名残がふと垣間見えた。



月、火はこもって旅関係の原稿と水関係の原稿書き。
水曜は表参道で取材後、NODE編集者さとうさんとランチ。トニー・レオン好き同士で盛り上がる。

午後は銀座界隈のギャラリー巡り。まずはINAX GALLERYの「考えるキノコ展」へ。
その不思議な造形に魅かれてやまない輩にはユートピアのような空間。キノコは存在自体がアート。
さらにボザールミューで開催の「元祖ふとねこ堂個展 猫世草子」へ。江戸をテーマに擬人化された
猫画がいとをかし。ギャラリーの案内版下では、看板猫のシーちゃんが爆睡していた。

これは先月、谷中の猫町ギャラリーで入手したふとねこ堂さんの団扇。今夏、大活躍です。

さらに並木通りから細い通路にスッと入った所にある「ギャラリーGK」で
7/18まで開催中の本多廣美 「木版画展」へ。


本多氏は近年愛飲している やなか珈琲店のパーッケージ画で知った作家さん。
デ・シーカやフェリーニ、アントニオーニなどの旧いイタリア映画に、レイ・ブラッドベリや夢野久作などの
幻想小説が大好きだそうで、初対面だったのにいきなりその辺の話でどっぷり盛上がってしまった。
私が彼の作品に魅かれるのは、そうしたものに通じる匂いがあったからだったんだと妙に納得。
ただし、本多氏はそうしたものを直接の題材にして描くことはしないという。
いわく「既成の創作物はその人が既に作った世界だから、それを題材にしたら僕の創作じゃない」。
あくまでも独自の創作世界へのこだわりを 飾らない言葉で誠実に話してくれて、非常に鼓舞された。
本多廣美画伯
「猫と女学生」

展示作品の中でもとくに魅かれてやまなかった版画「猫と女学生」を連れて帰ることに決めた。
ちょっとレトロな匂いもするこの画、実は「今から2,3千年先の未来人が、《21世紀初頭の人々は
ケータイとかいうものを使って交信していたらしい》..という伝承を元に描いた想像画」という
コンセプトらしい(!)。ゆえに携帯も怪しい古代昆虫の姿をした黒電話にすり替わっている。

彼の作品によく登場する猫や月、星、蝶などは、“日常の中に潜む 非日常へと誘う存在”なのだそう。
私にとっても猫や蝶や月や星は、夢の此岸と彼岸を行き交うとくべつな存在だ。


帰宅後、本多氏の木版画がデザインされたやなか珈琲店の缶に入ったコーヒーを淹れる。
しみじみ、おいしい。
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