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『サラエボの花』と戦争映画考

2007-11-11 05:50:24 | Cinema
9.11以降のアメリカの愛国映画について、数年前に原稿を書いたことがある。
『ブラックホーク・ダウン』『エネミーライン』や『ワンス&フォーエバー』『パールハーバー』など、
普段あまり観ないハリウッド系の戦争映画を資料として連日見続けた。想像以上に身にこたえた。
まるで『時計仕掛けのオレンジ』の悪童アレックスが、殺戮映像を強制鑑賞させられるように…。

まあ“戦争映画”といってもピンきりだが、私はざっくり7タイプに分けて捉えている。

①昂揚プロパガンダ ②戦闘バイオレンス&武器礼賛 ③戦場ヒーロー&サバイバル
④戦争悲劇ロマンス ⑤戦争戯画・コメディ ⑥反戦・和解メッセージ ⑦戦争PTSD
(①~⑤はまとめて“戦争エンタテイメント”ともいえる。各タイプが複合化している場合も多々。
 ①~③は愛国映画が百花繚乱。⑥⑦は表現が非常に多彩でドキュメンタリーも多い)

先日、試写で観た『サラエボの花』は、“戦争PTSD”という切り口で
ボスニア・ヘルツェゴビナ紛争「その後」を描いた、ひとつの“戦争映画”だ。

といっても、映画には激しい戦闘シーンも、主人公のシングルマザーが戦中に収容所で受けた
屈辱の日々も、具体的な回想映像としては一切描かれていない。
ただ彼女が時おり見せる男性への嫌悪と恐怖の眼差しに、言い知れぬトラウマの深さが垣間見える。

映画の舞台はサラエボ。1984年にサラエボ冬季オリンピックが華やかに開催されたその街は、
わずか数年後には壮絶な民族紛争の舞台に変貌した。1995年にはNATOの空爆も行われ、
他国介入で和平合意に至ったが、その犠牲は少なくなかった。死者20万人、難民200万人以上。
敵民族の女性に敵民族の子供を産ませるという暴力も組織的に行われたという。

私はちょうど同じ頃、何度かイタリア旅行をしている。サラエボはイタリア半島のすぐ対岸。旅先で目に
するTVや新聞にはいつも、ボスニア内戦のNEWSが日本のメディアよりずっと大きく取上げられていた。

主人公のシングルマザーの娘は、自分の父が殉教者であることを誇っている。が、その顔は知らない。
なぜなら彼女は、母が収容所時代にセルビア人に強制的に産ませられた私生児だから。
母の深いトラウマの要因は、母のかけがえのない愛の対象でもあるのだ。
母はすべての幸と不幸を受け入れている。身を裂かれるような戦慄を乗り越え、自暴自棄に荒れたり
自虐に暮れたり 敵を糾弾することもなく、娘を育てながら日々黙々と働き、生きている。

そこには、ただ涙を誘うだけで想像する余地のないメロドラマ的な演出は介在しない。
ゆえに、観ている者は激しく心を揺さぶられる。

紛争当時はサラエボから100mの地域に住む十代の娘だったヤスミラ・ジュバニッチ監督は云う。
「私は“日常”というものに魅了されている。でも、“戦争”と比べると、それ自体は平凡で、
陳腐ですらあるかもしれない。それでいて、日常が崩れてしまうと、人間の感情が司る、
現在、過去、未来はすり抜けていってしまう。
成長し、前へ進んでいくための果てしないパワーをボスニア・ヘルツェゴビナの社会は必要としている」

から元気のような妄想的ポジティブシンキングではなく、
地に足のついた日常の積み重ねの先にしか、未来は広がって行かない。
憎しみの連鎖が招く戦争の火種を消すのは、そんな“日常”への愛なのかもしれない。
残酷なトラウマからの再生について、深く考えさせられた映画だった。

賞と映画の価値とは別物だが、2006年度ベルリン映画祭金熊賞も受賞。
岩波ホール創立40周年記念作品第1弾として、来月12月1日からロードショーが開始される。
岩波ホールでは今夏、米の日系三世が撮った秀逸なドキュメンタリー『ヒロシマ ナガサキ』も観たが
『サラエボの花』同様、岩波ではいつも世界中の人に観てもらいたい映画を上映している。
ぜひ、ひとりでも多くも人に足を運んでもらいたいと思う。

ちなみに、娘役を演じたかわいいアクトレスの名はルナ(!)・ミヨヴィッチ。
劇中、母から出生の秘密を聞き、父に似ていると以前言われた髪を自ら剃って丸刈りになった。
初映画とは思えない存在感と目ぢから。ルナつながりで光栄です(笑)。
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極私的映画ベスト20+

2007-11-01 01:06:11 | Cinema
愛猫ニキータの名の由来は、この映画↑
         
昨夜、映画の話題で盛り上がったとき
好きな映画ベスト1を尋ねられ、「暗殺の森」と即答したが
これがベスト3となると、とたんに頭を抱えるしかない。

私は昔から映画好きという人に、好きな映画ベスト3を尋ねる癖がある。
好きな映画は、思いのほかその人の趣向や哲学を雄弁に物語るから。
人に尋ねるわりに、自分じゃ3本には到底絞り込めない。。

じゃあ、せめてベスト10を、と思いつくまま書き出してみたものの、
あれもこれもとあぶくのように湧いてくる。
じゃあ、ベスト20なら、と妥協してみたものの、さらにふつふつ。。

悩んだ末、選んだ作品は、王道ものから、おばかなB級まで駄作迷作玉石混交。
作品としては必ずしも優れているわけではないし、破綻しているものもある。
でも、もし何処かでその映画が上映されている場面にふと遭遇したら、
たちまち吸い込まれて見入ってしまうであろう、無条件に愛しい映画たちだ。

★My Favorites Cinema 20+ 洋画編(順不同)

暗殺の森 Il Comformista       1970年 ベルナルド・ベルトルッチ
暗殺のオペラ Strategia Del Ragno  1969年 ベルナルド・ベルトルッチ
灰とダイヤモンド Kanał       1956年 アンジェイ・ワイダ
欲望 blowup  1966年 ミケランジェロ・アントニオーニ
甘い生活 La Dolce Vita    1959年 フェデリコ・フェリーニ
軽蔑 Le Mepris           1963年 ジャン・リュック・ゴダール
イノセント L'Innocente       1975年 ルキノ・ヴィスコンティ 
男と女 Un home et une femme  1966年 クロード・ルルーシュ
風の痛み Brocio nel vento     2001年 シルヴィオ・ソルディーニ
あんなに愛しあったのに C'eravamo Tanto Amati  1974年 エットレ・スコラ
ローマの人々 Gente di Roma       2003年 エットレ・スコラ
シェルタリング・スカイ Sheltering Sky 1990年 B・ベルトルッチ
ラスト・タンゴ・イン・パリ Last Tango inParis 1972年 B・ベルトルッチ
惑星ソラリス Солярис        1972年 アンドレイ・タルコフスキー
去年マリエンバードで L'Annee Derniere A Marienbad 1960年 アラン・レネ
鬼火 Le Feu Follet          1963年 ルイ・マル
昼顔 Belle de jour    1967年 ルイス・ブニュエル
8 1/2 Otto e mezzo       1963年 フェデリコ・フェリーニ
アメリカの夜 La Nuit américaine    1973年 フランソワ・トリュフォー
スローターハウス5 Slaughterhouse Five  1972年 ジョージ・ロイ・ヒル
女性上位時代 La Matriarca   1968年 パスクア・フェスタ・カンパニーレ
バーバレラ Barbarella     1967年 ロジェ・バディム 
サスペリアSuspiria     1977年 ダリオ・アルジェント
ニキータ Nikita       1990年 リュック・ベッソン
数に溺れて Drowning by Numbers    1988年 ピーター・グリーナウェイ
建築家の腹 The Belly of an Architect  1987年 ピーター・グリーナウェイ
ストリート・オブ・クロコダイル Street of Crocodiles 1986年 ブラザーズ・クエイ
アリス Alice        1988年 ヤン・シュヴァンクマイエル
ギルガメッシュ/小さなほうき(短編)  1985年 ブラザーズ・クエイ
太陽は夜も輝く Il sole anche di notte 1990年 タヴィアーニ兄弟
時計仕掛けのオレンジ A Clockwork Orange 971年 スタンリー・キューブリック
マジック・ボーイ Magic Boy       1982年 カレブ・デシャネル
眺めのいい部屋 A Room with a View   1985年 ジェームズ・アイヴォリー
恋する惑星CHUNGKING EXPRESS   1994年 王家衛
花様年華            2000年 王家衛
さらば、わが愛/覇王別姫    1994年 陳凱歌 
あの子を探して         1997年 張芸謀
   

★My Favorites Cinema 10+ 日本映画編 (順不同)

素晴らしき日曜日                 1948年 黒澤明
生きる                      1952年 黒澤明
黒い十人の女                   1961年 市川崑
私は二歳                     1962年 市川崑
他人の顔                     1966年 勅使河原宏
しとやかな獣                   1962年 川島雄三
巨人と玩具                    1958年 増村保造
月曜日のユカ                   1964年 中原康
浮雲                       1955年 成瀬三喜男  
秋日和                      1960年 小津安二郎
家族ゲーム                    1983年 森田芳光
ハーフ・ウーマン(短編)             2003年 押井守

なんだろう、このずらりフェティッシュなセレクションは。
やっぱり映画の好みは その人となりを如実に浮き彫りにするのかも。。
各々の映画に対する思いは枚挙に暇がないので、また折々に。
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春のひだまり

2007-03-26 19:33:47 | Cinema
輝ける陽射しを纏って疾走する白日夢。
ひねもす春の月曜、あまぬるい午後に憩う。
病の猫も、ひだまりでふうわり午睡。
やがて、日が暮れると
窓辺に子供が描いたような金星が瞬いていた。
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