時雨みち
[書籍紹介]
1981年に刊行された、
藤沢周平の中期短編集。
11篇を収録。
武家ものが4篇、市井ものが7篇。
「えっ、これで終わり」と思うような、
突き放した終わり方のものや、
暗澹とした救いのないものが比較的多いのが特色。
例えば「飛べ、佐五郎」は、
敵持ちの脱藩浪人が、9年の逃亡の末に、
追手が病死したのに安心して、
武家に戻るつもりが、世話になった女に殺される話。
「盗み食い」は、
労咳で窮状の職人仲間を救うために、
自分の女を世話役にあてがうが、
逆に寝取られてしまう話。
「滴る汗」は、
公儀隠密として潜入した藩で、
正体がばれたと思い違いをして、
関わりのあった人物を殺めてしまい、
それでかえって発覚してしまう話。
「帰還せず」は、
地方藩の探索をした公儀隠密が、
同時に潜入した仲間が江戸に戻らないのを知って、
元の藩に戻って消息を探り、
最後は仲間を殺してしまう話。
「幼い声」は、
幼少の頃遊んだ女が
罪を犯して入牢したのを援助するが、
出牢の時、その断絶を思い知らされる話。
「おばさん」は、
職場を火事で失った若い職人を世話するうち、
家庭を持つ喜びを取り戻した寡婦が、
養子にする希望を抱くが、
同じ長屋の若い女と共に去られる話。
本作中、最も切ない話。
「亭主の仲間」は、
夫の職人仲間につきまとわれ、
金の無心を受けて困る話。
「時雨みち」は、
成功した商家の主人が、
昔ひどい別れ方をした女が苦海に身を沈めていることを知り、
救済のつもりで訪ねて金を渡そうとするが、
はねつけられる。
妻は役者狂い、娘はやくざ者とつきあい、
家庭はばらばらな状態で、
もし、若い時に、あの女と一緒になっていたら、
どんな暮らしが出来ただろうか、と思う話。
本作の中でも光る一篇。
残りは明るさのある話。
「夜の道」は、商家の女将さんから、
昔迷い子で失った子どもではないかと言われた女が、
記憶をたどっても思い出せないまま、苦悶する話。
「おさんが呼ぶ」は、
紙問屋の下女で、苦労のあまり口を聞かない女が、
地方から紙の売り込みに来た農夫に
恋心を覚え、ついに口を開く話。
女が農夫に嫁いで幸せになる未来が見える。
「山桜」は、
二度嫁しては不縁となった武家の娘が、
かつて縁談があり、断った武士と接するうち、
取り返しのつかない回り道をしたことに気づく話。
これも未来が明るい。
2008年に映画化された。
やるせない、せつない話が多く、
明暗二つの世界を描いているが、
人生の苦味や哀しみは、全編にただよう。
やはり、藤沢周平は、いい。
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