[書籍紹介]
く
両親を交通事故で失い、
喪失感の中にあった大学生の青山霜介(そうすけ)は、
設置のアルバイトで出かけた水墨画の展覧会場で
一人の老人と出会う。
霜介は知らなかったが、
その老人こそ、
高名な水墨画の大家・篠田湖山(しのだ・こざん)だった。
霜介の語る画の感想に聞き入った湖山は、
その把握力と洞察力と鑑賞眼に感心すると共に、
霜介の内包する深い苦悩を察知し、
その場で内弟子にしてしまう。
それに反発した湖山の孫・千瑛(ちあき)は、
翌年の「湖山賞」をかけて霜介と勝負すると宣言する。
全く水墨画など知らなかった霜介だったが、
湖山の個人的指導を受けて、
戸惑いながらも魅了されていき、
線を描くことで、喪失感から次第に恢復していく・・・
という、一人の青年が
水墨画を通して、人生を取り戻していく経過を描く成長小説。
おそらく小説では初めて取り扱われる題材で、
筆者の砥上裕將(とがみ・ひろまさ)さん(38歳)は、
正真正銘の水墨画家だ。
だからこそ、
素人でも納得できる水墨画の深い世界に
読者を引き込んでくれる。
「お年寄りの趣味と思われがちな水墨画の魅力を、
小説を通して広い世代に伝えたい」
という志で本作を書き上げたという。
といっても、
私は誰劣らぬ、絵心のない人物。
「あめとーーーく」の「絵心ない芸人」の
非芸人枠で出場可能なほどだ。
ただ、絵を見て、その美を感じる心だけは
神様に与えてもらった。
それは感謝している。
そこで、読後、ネットで水墨画の画像を見て、驚倒した。
一切の色を排した、
白と黒の濃淡だけで、
こんなにも豊かな世界を構築できるとは。
芸術の世界は奥深い。
水墨画の巨匠・篠田湖山や藤堂翠山(とうどう・すいざん)の造形、
その弟子の西濱さんや斎藤さんの人柄、
湖山の孫・千瑛との交流、
霜介の友人の古前君や川岸さんの配置もいい。
ただ、全員が水墨画に吸収されていくのは
ちょっと不自然で、
水墨画に親しめない人や反発する人、
落伍していく人も描いて欲しかったな。
絵心無派としては。
また、芸術というのは、
精神と才能と技術と努力の結集によるものだが、
ちょっと精神的な「心」や「想い」に偏り過ぎている気もする。
水墨画には、四君子という基本がある。
その4つとは、春蘭、竹、梅、菊を描くこと、
というのも、新知識。
湖山先生の言葉
「絵は絵空だよ」
「できることが目的じゃないよ。
やってみることが目的なんだ」
「命を見なさい。青山君。、
形ではなくて、命を見なさい」
などの言葉が耳を打つ。
また、こういう描写もある。
水墨画は形を追うのではない、
完成を目指すものでもない。
生きているその瞬間を描くことこそが、
水墨画の本質なんだ。
また、両親の死について考える時、
仲の良かった両親が交通事故で一緒に死んだことを、
あの二人はどちらかが取り残されなくてよかったな
と思い至る部分も胸を打つ。
水墨画を通じて、人生を見る、希有な小説。
「青春小説と芸術小説が最高の形で融合した一冊」と
高く評価されている。
第59回メフィスト賞受賞作。
2020年本屋大賞第3位。
ブランチBOOK大賞2019受賞。
未来屋小説大賞第3位
キノベス!2020第6位
ホームページは、↓へ。
https://youtu.be/ZckNTyRH-Fg
コミック版もあり、
横浜流星主演で映画化され、
10月21日に公開の予定。
映画版は、↓へ。
https://senboku.kodansha.co.jp/
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