空飛ぶ自由人・2

旅・映画・本 その他、人生を楽しくするもの、沢山

短編集『日暮れのあと』

2024年01月06日 23時00分00秒 | 書籍関係

娘は、今朝、無事韓国から戻りました。
1年間の留学以降、10日間、最長の韓国滞在。
その間、9本のミュージカルとコンサート。
やれやれ。

 

[書籍紹介]

小池真理子の短編集。
2015年から2023年までの間に、
「オール読物」「小説現代」などに発表された作品を収録。
途中、2020年1月、夫君の藤田宜永を亡くしおり、
その人生の岐路の反映も見られる。

ミソサザイ

武夫の母方のおばの佐知子の葬儀の記憶がよみがえる。
夏空にミソサザイがさえずり、
武夫は、おばは小鳥たちに寿いでもらいながら旅立ったのだと思う。
佐知子は、計算が出来ない女だった。
後に武夫は、それが「計算障害」というものだったことを知る。
その佐知子との秘密のようなひとときの記憶・・・

喪中の客

古く、使われていないブザーを鳴らして訪れた客。
妹の夏美母子と同居していた「私」にとって、
歓迎せざる客だった。
夏美が不倫の果てに、
旅先の海で相手の男と溺れて死んだ、
その相手の妻なのだ。
その人物が、夏美の娘のことである指摘をするが・・・

アネモネ

22も年上の女と同棲している将太は、
女装を強制する女の首を絞めて殺してしまう。
警察に自首する前に、
「アネモネ」に会うために花屋に寄る。
「アネモネ」とはその花屋の女店員で、
将太は密かに好意を寄せていた・・・

夜の庭  

不倫の果て傷ついた美津子は、
病院の売店で働いている時知り合った
骨董商の村井に乞われて、
通いの秘書兼家政婦をしていた。
ある朝、いつものように村井の家を訪れた美津子は、
亡くなっている村井を発見する。
実は、前夜、美津子は村井の死亡の場に立ち会っており、
その秘密を抱えていた・・・

白い月  

多美の夫、武彦が死んだのは、ほんの二日前。
山手線の座席で、突然心臓が止まり、
そのまま何周も回っていたのだ。
その通夜の場で、
一人の男の姿を多美は見つける。
近所の印刷屋で、住居移転の知らせや
喪中葉書の印刷を度々依頼した男だった。
今度も喪中の葉書を頼みに行った多美は、
男の意外な半生を知り・・・

微笑み  

シナが40歳だった頃、
若い男・ヨウジと交際した時期があった。
旅行で宿に泊まれば、母親と間違えられるような年回り。
間違えられたことで、ヨウジはいつまでも怒っていた。
いつの日か別れが来るという予感が当たり、
ヨウジが若い女性と喫茶店で談笑している姿を見た時、
別れを決意し、告げる。
それから25年ほど経ち、
買い物に訪れた百貨店で、
ヨウジが画家となり、個展を開いていることを知る。
一目立派になったヨウジの姿を見ようとしたシナは・・・

日暮れのあと

父から相続した庭の剪定のため
無理を言って依頼した雪代は、
庭師の息子・大樹が作業にやって来た時、
大樹の結婚話が家族から大反対されていることを知る。
結婚相手は、雪乃という。
「雪」つながりを感じた大樹は事情を語る。
反対の理由は、結婚相手が60代半ばになろうとする女性だったからだ。
大樹の母親より上。
しかも、その女性は元風俗嬢だったという。
大樹の純な気持ちを知った雪代は、
自分の著書の絵本にサインして、
その女性に贈る・・・
大樹を見送った後、雪代は思う。

日が沈んでも月が昇る。星が輝く。
そのことを忘れていたような気がした。
宇宙はいっときの休みもなく動いている。
去ったものは戻る。
少なくとも代わりになるものを持ってくる。
すべてが闇に帰し、
無になってしまうことはないのである。

 

等々、粗筋を書いても、
この作品群の持っている雰囲気は伝えられないのを感じる。
強いて言えば、老境に至った女流作家の
到達した境地とでも言えるのではないか。
それにしても、
7作中、3作が歳が至った女性と若い男の恋愛。
71歳の小池真理子の願望であろうか。

いずれも人間の生と死、
男女の感情のすれ違い、
人生の哀歓を描いて、
味わいある短編集だった。
小池真理子、作風が変わったな、という印象。

雪代と大樹の会話。

「でもね、ふしぎよね。
過ぎてみれば、全部、
どうってことなかったような気もするの。
それどころか、楽しかったかもしれない、って。
そう思えるのは、
私が年をとったせいなんだろうけど」
「今のセリフ、雪乃とそっくりです。
ていうか、まったく同じで。
彼女もよく、そういうこと言います。
過ぎてしまえば、
全部、どうってことなかった、って。
そう思えるようになったのは、
年をとったからだろう、って。
彼女はね、
早くおばあさんになりたいそうです。
楽になれるからだ、って。
おばあさんになれば、
いろんなことが本当に楽になるのがわかってるから、って」

「日暮れのあと」が
「オール読物」に掲載されたのは、
2023年1月号。
本書に収録された7作中、
一番新しい。
作者の至った心境と考えていいだろう。

私自身も似た心境で、
人生を振り返ってみれば、
恥ずかしいこと、怒ったこと、
悔しかったこと、様々あれど、
全部許せる気がしているのは、
やはり歳を重ねたせいだろう。
執着も願望も悔恨も全て昇華されるのが、
歳を取ることの利点だと思う。

 



最新の画像もっと見る

コメントを投稿