空飛ぶ自由人・2

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映画『アテナ』

2022年09月29日 23時00分00秒 | 映画関係

[映画紹介]

パリ郊外の団地で、
13歳の少年が暴行されて殺され、
犯人は警察官だという噂が流れ、
事件の解明を求める若者たちが
アテナ団地に立てこもる。
それを排除しようとする警官隊との闘争を描く。
2015年に実際に起こった事件がモデル。

この作品の特徴は、
随所に挟まる長回しのカット。

冒頭、殺された少年の兄であり軍人のアブデルが
警察署で記者会見を開く。
冷静にと呼びかけるためだ。
会見の最中、カメラが集まった人々に寄っていく。
すると、後ろの方にいた青年が火炎瓶に火を付けて投げ込み、
会見場は混乱に見舞われる。
火を付けた青年は亡くなった少年の、もう一人の兄カリムだった。
暴徒が乱入して、警察署を破壊して火を放ち、
武器を奪って逃走する。
冒頭のアブデルのアップからワンカットで描写したカメラは、
そのままカリムにへばりついて、追跡する。
カリムと一緒に車の中に入ったカメラは、
いつの間にか車外に出て、
カリムが乗る奪ったパトカーに並走し、
近づくと、再びいつの間にか車の中に入り込む。
車は、他の拠点で騒乱する現場に寄り、
やがて、アテナ団地に到着する。
暴動の準備をする青年たちを描き、
指導者カリムに付いたカメラは、
団地の入り口の高所にたどり着くと、
そのまま空中を移動して、
青年たちが立てこもる
要塞と化した団地の全景を捉える。

ここでメインタイトル。


ここまで約10分間のワンカット映像
私の好み。
全編ワンカットとはいかず、
カット割はあるのだが、
長回しは随所に登場する。
それゆえ、臨場感は半端ではない。
膨大なエキストラを使った、大変な撮影だっただろう。

映画は、アブデルとカリムの兄弟と異母兄モクテルと、
警官隊の中で、後に人質になり、命の危険にさらされる
一警官との4つの視点で描かれる。
混乱し、脱出する住民たち、
ハシゴをかけて団地内に侵入する警官隊、
武器で応戦する青年たち・・・
次々と展開する情景を可能な限りの長回しで捉える。
手持ちカメラとクレーン、ドローンの連動で、
一体どうやって撮ったのかと不思議に思う
すさまじい驚異の映像が頻出する。

無意味な長回しではなく、
ぎりぎりの臨場感を伝えるための長回し。
手法と描きたいことが見事に一致する。
途中カット割はあるが、
精神的には全編ワンカットと思える映画だ。
ダイナミックナ映像が観る者に迫って来る。

カリムの主張は、
殺した警察官を特定し、連れて来い、というもの。
警察側は拒否。
ならば、と警官の一人を人質にし、
警官を連れてこなければ殺す、と要求を突きつける。
アブデルは、その警官の救出に向かう。
最後に事件の真相が明らかになるが・・・

舞台となる団地は、
移民や難民をはじめとする低所得層の住む地域。
フランス社会の反映で、
団地の暴動は、フランス各地の内戦に発展する。
三人の兄弟の分裂は、
フランスの分断を象徴しているという。
また、題名の女神アテナをはじめ、
背景にはギリシャ神話が存在する。

監督はギリシャ人のロマン・ガブラス
ギリシャの弾圧を扱った「Z」(1969)でアカデミー外国語映画賞を取った
コスタ・ガブラスの息子だ。
撮影は、マチアス・ブカール
18㎏あるIMAXカメラで撮影したという。
だから、細部まで鮮明な映像が展開する。

背景に、宗教曲風の合唱が流れるのも効果的。

2022年のベネチア国際映画祭コンペティション部門出品作品。
Netflix で9月23日から配信。
必見。