空飛ぶ自由人・2

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『ディズニーキャストざわざわ日記』

2022年09月08日 23時00分00秒 | 書籍関係

[書籍紹介]

職業ドキュメント「○○○○ ○○日記」の一つ。
シリーズ9作目にあたる。

今回の職業はディズニーランドのキャスト。
その中でもカストーディアルキャストと呼ばれる、
お掃除係。
↓の写真のような人々。

筆者の笠原一郎氏は、
一橋大学(国立ですゾ)を出てキリンビールに入社。
57歳で早期退職に応募して、
東京ディズニーランドに準社員として入社し、
65歳の定年まで勤める。
無遅刻無欠勤。
真面目な人で、
ディズニーランドの暗黒面を告発するような書き方ではない。
実情を節度をもって書き、好感が持てる。

ディズニーランドの勤務内容については興味はあるが、
以前、一つだけ関連本を読んだことがある。


契約で守秘義務でもあるのかと思ったが、
こういう本が出るところを見ると、
守秘義務はないらしい。
ただ、ミッキーやドナルドなどの「中身」の人は、
守秘義務があるようだ。
ディズーランドのキャラクターの中に、人は入っていない、
というのがディズニーランドの掟だから、
当然守秘義務はあるのだろう。

ディズニーランドのアルバイトは時給が安く、
ディズニー好きでないとつとまらない、
という話は前に聞いたことがある。
では、その実態は、
ということで、
いくつか、へえ~と思えたものを掲載しよう。

○ディズニーランドでは客のことを「ゲスト」、
スタッフのことを「キャスト」と呼ぶ。
ダンサーや演者だけでなく、
物販の人もレストランの従業員も
掃除メンバーも、
テーマパークという舞台で「演じる人」ということなのだ。
従って、客と対面する場所は「オンステージ」
客に見えない部分を「バックステージ」という。
キャストは、オンステージでそれぞれの役柄を演じ、
バックステージで食事や休憩をして、
オンステージとバックステージを行き来する。
バックステージにはブレイクエリアという休憩所、
従業員食堂もある。

○カストーディアルキャストの掃除対象は
ゴミやポップコーンの落ちたものなどの他、
ハトやカラスなどの鳥、ネズミやネコの死骸もある。
ネズミはまだしも、ネコは市内のどこからやって来るのだろう。
ネコは捕獲すると、閉園後、どこか遠くに運んで放しているらしい。
浦安市内には、ディズニーランド帰りのネコがいるのかもしれない。

○園内のゴミをきれいにするのがカストーディアルキャストだが、
「ねえ、ゴミ屋さん!」と呼ばれた時には、さすがにムッとしたそうだ。

○従業員の入り口は、パークの入り口とは別(当たり前)で、
舞浜駅から歩いて10分ほどのところに門がある。
入り口にIDカード(通行証)をカードリーダーにかざして入る。
この時、出勤時は「おはよう」、退勤時は「じゃあね、バイバイ」と
ミッキーマウスの声で言ってくれる。
1分ほどでワードローブビルに到着する。
ロッカールームがあり、ここでコスチュームに着替える。
着替え場所は別にあるのだが、
みんなロッカー前で着替える。
開園45分前に朝礼があり、
その日の天候、入園見込み数、
フードやグッズの欠品情報と変更点、
アトラクションの休止状況などが伝達される。
10分ほどで朝礼が終わると、
掃除道具を一式準備して、オープニング作業。
ベンチの清掃、レストルーム(トイレのこと)内の点灯と不審物チェック、
水飲み場の点検・清掃など。
そして、入園してくるゲストを待ち構える。

○盲導犬のトイレはないので、
バックステージに案内して、
用が済むと、カストーディアルキャストが後始末をする。

私も盲導犬をバックステージに案内したことがある。
賢そうな顔のラブラドールレトリーバーだった。
よくしつけられていて、私のあとについてバックステージに入ったかと思うと、
すぐさま申し訳なさそうな顔をして足を踏ん張り、
時間をかけぬよう手短に用を済ませてくれた。

○カストーディアルキャストは、オンステージを清掃する業務と
レストルーム(トイレ)を清掃する業務の2種類に
シフトで分けられる。
猛暑や極寒や雨や雪の日は
レストルーム組の方が喜ばれる。

○キャストの大半は「準社員」
実質は非正規雇用のアルバイトやパート。
正社員とは待遇面をはじめ根本的に異なる。
正社員月給制なのに対し、準社員は時給制
退職金もなければボーナスもない。
(たまに5千円程度のボーナスが出ることもある。)
2021年3月時点では、正社員約5400名に対して
準社員は約1万5800名。
全体の約75%を占める。

○週5日勤務する「専業キャスト」
土日だけ勤務する「土日キャスト」がある。
土日キャストは大学生や専門学校生、高校生や主婦など。
「土日っこ」と呼ばれている。

○準社員のキャストは「M」「A」「G」「I」「C」(魔法)の
5つのグレードに分かれ、時給が違う。
最上位の「C」が1350円
最下級の「M」は960円

○最も人数の多い「Gキャスト」で試算すると、
時給1070円として、1日7時間、20日勤務したとして、月15万
(交通費や職種別調整給のプラス部分は社会保険料などのマイナス部分は相殺)
この仕事で生計を立てようとすれば、余裕ある生活は難しい。

○ある時、スーパーバイザー(現場ごとの指導・監督者)に呼ばれ、
「今度、あなたの時給が10円上がります」と告げられた。
更に「このことは他のキャストには口外しないで下さい」とも。
10円=1日70円。
恥ずかしくて口外できない。

○それぞれ「県民の日」の時は混雑する。
公立の学校などが休みになるため。
10月1日は都民の日、6月15日は千葉県民の日など。
特に、「今日は埼玉県民の日です」と朝礼で言われると、ざわざわと声があがる。
埼玉県民はマナーに若干の問題があると思われているフシがあるが、
現実にはそんなことはなかった。

○キャストは時間帯によって
「オープニングキャスト」「クローズキャスト」に分かれる。
いわゆる「早番」「遅番」。
その中間が「ミドルキャスト」
クローズドキャストにあって、オープンキャストにない役得が、
夜の花火。
初期の頃、見とれていてスーパーバイザーに注意されたことがある。
閉園が10時だと、終礼が10時20分前後。

○夜の間にナイトカストーディアルキャストが清掃してくれる。
朝、出勤時、退勤するナイトカストーディアルキャストとすれ違う。
時給が高いという。(当たり前か)

「解消」という制度がある。
当日の天候要因などで見込み来園者数より実際が下回る時、発動する。
余剰と思われるキャストに対して、勤務中止を伝える。
勤務前に解消になるのを「全解消」といい、
働いた場合の6割の賃金が支払われる。
勤務途中で解消となるのを「一部解消」と呼び、
実際に勤務した時間分の賃金に加えて、
残り時間相当の時給の半分の賃金が支払われる。
収入が減るので、「解消」をいやがる人もいるが、喜ぶ人もいる。

○長く勤めると、入園者数予測が出来るようになり、
朝礼で出される数字より正確だったりする。
開園して20分すると、
その日のゲストの入れ込み数(開園直後の入園者数)が
PHSのグループ通話で流れて来る。
朝礼での入場者数予想は外れることが多い。
一体誰がどういうふうに予測するとこんなにも外すのか、みんな疑問たった。

○迷子には「心配しないでいいからね。
すぐに一緒に来た人を見つけてあげるからね」と言う。
親と来ているとは限らないので、
「お父さん、お母さん」ではなく「一緒に来た人」と言うのだ。

○キャラクターには2タイプある。
「かぶりもの系」と「生身系」。
しかし、「かぶりもの」という表現はNGで、
これは内部では徹底されていた。

一緒に海外研修に行ったときの仲間にも「中身」を演じている人がいたが、
自分から話さないのはもちろんのこと、
聞いてはいけない空気が充満していて
仲間内で話題にすることすらタブーだった。

「中身」の人かどうかは、身長で分かるのだろう。
キャラクター募集では、応募資格は身長138~152センチと
170センチ以上の2種で募集していた。
「中身」の人は、本当は言いたくてたまらないのかもしれない。

○ディズニーランドに勤めている、と言うと、
「ミッキーマウスの中身を見たことがあるか」と聞かれることがあるが、
キャラクターは厳重に管理されていて、
準社員はキャラクターの中身はもちろん
彼らの控室すら見ることが出来ない

○ワードローブビルにはキャスト用のショップがあり、
売れ残ったグッズや賞味期限の近い菓子などを
従業員向けに安い価格(2~3割引き)で販売している。
賞味期限の近い菓子などは9割引きも。
イースター、ハロウィン、クリスマスなどのイベント終了後には、
大混雑で行列ができる
近所の人や友人に配るらしい。

○買ったばかりのポップコーンをぶちまけてしまった場合、
キャストから「ピクシーダスト」という用紙をもらい、
補充することが出来る。

 

「魔法の国」の「夢」を支える人たちの日常について、
興味ある本だった。
ただ、カストーディアルキャストという
限られた職種のことだけなので、
全体を知ったとは言い難いのが難か。