ライオンミドリ la cantine du lionmidori

気の利いたつまみ、おいしいナチュラルワイン、ちょっと珍しいお酒、幸せなチーズ、明日も頑張れる気持ちになるデザート。

オイラが出会った一本、はや18年。

2020-06-25 12:07:37 | 日々の泡立ち
おかげ様で、ライオンミドリは7月1日で5周年を迎え、6年目に突入します。
5周年に向けて、ビオワインの魅力やライオンミドリで楽しんでほしい事をお伝えできるよう、メニューを色々いじっています。
その中でコラム的なものも掲載していこうと思っています。ワインを楽しみながら読んで頂けると嬉しいです。
今日はその中の一つを。


「ピエール・ジャンク」

僕にも、「この一本との出会いが」と言えるワインがあります。
アラン・カステックスというフランスのおじいさんが造った、「エルニーニョ」というワインです。
このワインとの出会いは、色々な意味で思い出深く、僕のその後の道しるべのようなものになっています。

2000年頃、パリではピエール・ジャンクという青年が話題になり始めていました。
パリで本格的な自然派ワインを扱うレストランやワインバーを手がけ、いわゆる大ヒットと言われる成功を収め、パリに自然派ワインを定着させた立役者の一人です。

それ以前にもパリには、無農薬で育てたぶどうを使って、なるべく酸化防止剤を使わず作ったワインを扱ういわゆる「自然派」の店というのはいくつかありました。
しかし彼は、そのような店とも一線を画し、「なるべく使っていない」ではなく、「酸化防止剤を使っていないものをワインとする」、というようなガチなタイプ。
ワインの酸化防止剤には、二酸化硫黄(SO2)が使われますが、ワイン醸造の過程では自然にある程度SO2が発生します。
彼はその自然発生したSO2しか含まれていないワインを「ヴァン・ピュール(真のワイン)」と呼び、そのようなワインしか扱わないという徹底ぶりでした。

僕が彼を知ったのは、フィガロ紙についている情報誌です。
当時水曜と土曜のフィガロに挟まれていた、沖縄タイムスでいえば、ワラビーとかほーむぷらざの、あれです!
そこで読んだのが初めてでしたが、当時彼は色々な媒体で紹介され始めていました。
気になって少し調べてみると、彼は単におしゃれなワインバーをやりたい実業家ではなく、ビオワインが本当に好きで、本気のワインを売りたい人なのかもしれないなと思い、興味を持つようになり、2002年か2003年、彼が手がけた「ラ・クレムリー La Cremerie」へ行ってみました。

最初の印象は、世界入りづらい居酒屋!
照明も薄暗く、常連さんやこなれた感じのフランス人ばかりでしたが、その日はピエール・ジャンク本人が店に立っており、当時は日本人が珍しかったようで僕に話しかけてくれました。
彼くらいの人に「おすすめは何ですか?」と聞くのは失礼にあたるので(当然人に薦めたいものしか置いていないのは明らか!)、
「今週入ってきたものの中で、特にお気に入りはどれですか?」と聞くと、さっと踵を返し、即出てきたのが、「エルニーニョ」でした。
フランス、ルーションで造られた、グルナッシュ、シラーを主とする赤ワインです。

本当にすごかった。愕然としましたね。ある意味人生観が変わりました。
それまで、完全に無農薬、酸化防止剤も無添加のワインで、おいしいと思えるものを飲んだ事はもちろんありましたが、何て言ったらいいのか・・・それまでのおいしいとは次元が違いました。
皆が知っているグルナッシュ、シラーのおいしさってありますよね。
奇をてらわず、素直に、おいしく仕上げた時のグルナッシュとシラーの、僕らが親しんできたあのおいしさ。
でもエルニーニョはそれだけじゃなかった。その素直なおいしさの中に、強烈なおいしい主張があって、もうレベルが違うとしか言いようがありませんでした。

そして、ピエール・ジャンク。・・・かっこよかったんです。
ガチなビオワイン信仰者という前情報、勝手に、朴訥で伏し目がちな細身の青年を想像していたら…
腕に刺青の入った、イタリア系サッカー選手風のイケメン(ジルーにちょっと似てる!)。
いかつい顔立ちだけど、よく見ると優しい目をしていて、立ち姿がなんともかっこいい。
とにかくオーラが半端なく、男が見ても惚れちゃうようなタイプ!

薄暗い店内を眺めていて、なるほどこれは…と思いましたね。
それ以前にもパリで自然派ワインの店に行った事はありましたが、何と言いましょうか・・・ワインについて色々知っていないとアウェイな感じがあったんです。
うんちくを語り合うこぎれいな人達や、当然のように好みのワインを細かく聞いてくる店員。
それはそれで楽しいんです、僕はワインが好きで、それなりに勉強していたので。
でも、クレムリーはちょっと違いました。
「ワインが好きなんでしょ、飲んでいって。」
「ピンときたもの、まずは飲んでよ。全部おいしいから。」
そんな雰囲気に満ちていて、僕はとても居心地がよかったですね。
きっとピエール・ジャンクの、「すごいワインがいっぱいある、とにかくみんなに飲んでほしい。」そんなシンプルな思いが、店中に散りばめられていたんだと思います。
好きな事を突き詰めて楽しく仕事をする、僕の大好きなフランス人の気質、その情熱をたずさえて生き生きと立ち回っている若者と、彼のメッセージや目指すところを敏感に受け止め、幸せそうにワインを飲んでいるパリの人々、目の当たりにして嬉しくなりましたね。
いい時代が来たな、とわくわくしたのをよく覚えています。

その後、彼の手がけた店、「ラシーヌ Racines」、「ヴィヴィアンVivant」、「ヘイマット Heimat」、「アキッレ Achille」などが次々とヒットしました。
それまで、無農薬で?自然農法で?わざわざどうして?どこか偏屈で親しみにくいイメージがあり、ほとんど認知されていなかったビオワインが、時代の波を捉えた彼の情熱で、パリで一つのステータスと言えるくらいにまで定着しました。
その流れは当然東京にも押し寄せ、今では沖縄にまで到達しています。
今、ビオワインと言うと、なんとなくおしゃれでかっこいい感じがするのは、彼のおかげだと僕は思います。

それからです。
何で「エルニーニョ」はあんなにもおいしいのか色々勉強し始めました。
そして僕は、ビオワインの気難しく複雑な性分、それゆえの壮絶な人生?でもとにかくピュアで誰にでも分け隔てなく優しい、そんな魅力を知ってしまいました。
そして今、うっかりこんな店をやっています!

今思うと、あの日ピエール本人が店にいなかったら?今週の、と聞いてはみたけど次の週だと何が出てきた?そのワインが僕の好みとほんの少し違っていたら・・・?
そう考えるとちょっと背筋が寒くなるような感覚があります。

だから今でも「エルニーニョ」は、店でも自分の立ち位置の一番近い場所に置いています。
うーん、幸せだから。側に置いておきたいから。
これを見ると、オイラが売りたいものをちゃんと売っていこう、人生は短い。そんな気持ちを思い出させてくれるから?


ピエール・ジャンク
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