報道写真家から

我々が信じてきた世界の姿は、本当の世界の実像なのか

HIV感染者に悲劇をもたらすWTOの知的所有権保護

2006年07月25日 21時32分27秒 | ■時事・評論
世界の途上国のHIV感染者を治療してきたのは、インド製の安いエイズ治療薬だ。

これは「ジェネリック(コピー)治療薬」と呼ばれている。インドの特許法では、製法が異なれば、同じ成分・効能を持つ医薬品を製造することができた。

欧米の製薬会社は、インド製のジェネリック薬は粗悪で危険であると主張してきたようだが、世界保健機構は、インド製のジェネリック治療薬に高い評価を与えている。

インドのジェネリック治療薬は、途上国で使われるエイズ治療薬の約50%を供給していると報告されている。

それまでは、患者1人当たり年間1万ドルの費用が必要であったが、ジェネリック治療薬の登場で200~250ドル程度すむようになった。

ところが、インドでは今後、ジェネリック治療薬の製造には高いロイヤリティが必要になる。近い将来、途上国でエイズ治療薬を手にできる人はいなくなってしまうかもしれない。

WTO(世界貿易機関)のTRIPs協定(1995年)は、「南側の諸国の政府に対して自国で(医薬品の)コピー製品を製造したり分配したりすることを禁止している。」(『WTO徹底批判!』スーザン・ジョージ著p34)

昨年3月、インド議会は、WTOのTRIPs協定を踏まえた特許法の修正案を可決した。今後開発される新しい治療薬に関しては、ジェネリック治療薬を製造することはできない。

ただし、現在製造されているジェネリック薬は、TRIPs協定以前のものか、特許権が放棄されたものなので製造を続けることができる。

問題は、今後新しく開発されるエイズ治療薬だ。現在使用されている治療薬に対する耐性ウィルスが出現した場合、耐性ウィルス用の治療薬のジェネリック薬の製造は実質的にできなくなる。ロイヤリティを支払えば、もはや途上国に供給できる安い薬を製造することはできない。

年間、数千ドルから1万ドルもする治療薬を、途上国の患者が手にすることなどできない。

ニューヨーク・タイムスは、インドの法改正には、「WTOの強い圧力がその背景にある。」と書いている。WTOは、欧米の製薬会社の利益を守るために、途上国のエイズ患者には死ねと言っているに等しい。

近年、エイズ問題に対する取り組みの流れが変わってきたように思う。その典型は、やはりアメリカだろう。HIV/AIDS対策として、コンドームの使用から”禁欲”を重視する政策を執るというのは、あまりにも非現実的だ。このような計画に5年間で150億ドルを拠出するという。

WTOもアメリカも、HIV感染者を増加させたいのだろうか。



グローバル・エイズ・アップデート
http://blog.livedoor.jp/ajf/
●特集:インド特許法改正とジェネリック・エイズ治療薬
http://blog.livedoor.jp/ajf/archives/2005-03.html#20050317
インドで、エイズ治療薬の特許申請に初の異議申し立て
http://www.msf.or.jp/access/a_news.php?id=2006033101
WTO-安いエイズ治療薬が生産停止に!
http://www.jca.apc.org/~kitazawa/wto/wto_no_more_cheap_medicine_2005_3.htm
途上国のエイズ患者に打撃 インドがジェネリック薬品製造を規制
http://www.nikkanberita.com/print.cgi?id=200503251613125
世界保健機構がインド製のHIV治療薬を承認する
http://www.janjan.jp/world/0508/0508301738/1.php
『WTO徹底批判!』スーザン・ジョージ著
http://www.amazon.co.jp/gp/product/4878934743/250-1991737-7990664?v=glance&n=465392