歴代総理の功績・業績について、A~Eの5段階に評価し、解説した本です。
単に歴代総理について勉強しようと思って読んだ本なのですが、評価が相当に偏っていて、かなり笑えました。著者としても恐らく笑わすつもりはないのでしょうが、一種の「トンデモ本」になっています。
著者は、元通産官僚。そのためか、官僚出身の総理にはおおむね高評価であり、党人総理の評価は低いようです。
例えば、官僚出身である岸信介、池田勇人、福田赳夫、大平正芳の評価は、それぞれB、A、B、B、党人である鳩山一郎、田中角栄、中曽根康弘、竹下登の評価は、それぞれC、D、C、Dという具合です。
最悪のタイミングで消費税増税を図り、結果、上向きかけていた日本経済を再びドン底に落としてしまった橋本龍太郎氏に対しては、その経済失政を指摘しながらも、なぜかB評価。政策通で、本来は見識と能力が高いからとのこと。消費税増税は「経済音痴の大蔵官僚の甘言に乗っただけ」と弁護してます。そんなこと言ってたら、すべての失政は総理の責任ではなくなってしまうような気が…。通産官僚としての大蔵官僚に対する対抗意識も、何だか露骨です。
中曽根康弘氏に対しては、「外交は満点」と非常に高い評価を与える一方で、バブル経済を演出した責任により、総合点としてはC評価。もっとも、バブル経済の方向転換を図り日本の危機を救ったのは、中曽根政権下、官僚であった著者が個人的に頼まれ企画した「緊急土地対策」なのだそうです。ホンマかいな?しかし、中曽根政権が「優秀な官僚様」の企画を採用してバブル経済を収束させたのなら、経済政策面でも高評価を与えてよろしいのでは?自己矛盾してませんか?
さらに著者は、戦争責任者がことのほか嫌いなようで、その反動からか、多少なりとも平和主義的な役割を果たした(ように見える)総理には評価が高いようです。
東条英機や近衛文麿が最低のE評価であるのは、この著者の感性からすれば当然のこととしても、一般的には開戦反対派であったと見られている米内光政も、軍国主義化の「流れを止めることができなかった」とD評価。その一方、鈴木貫太郎は、ポツダム宣言の受諾が遅れたために原爆投下とソ連参戦を防げなかった責任があるとしながら、最終的に終戦を導いたことでB評価。原爆投下とソ連参戦を防げなかった責任て、そんなに軽いの?幣原喜重郎は、平和憲法の制定を「呑んだ」というだけの理由で、歴代総理の中で6人しかいないA評価のひとり。そのときの総理が誰であっても、「呑まない」という選択肢はなかったのではありませんか?
かつて総理は東大等の「官学」出身者がほとんどだったのですが、近年むしろ「私学」出身者が中心となったため、著者はその「学歴低下傾向」を嘆いてもいます。もちろん、著者は東大卒。先に例を挙げた橋本龍太郎氏などは、「東京帝国大出の大蔵官僚を父に持ちながら私大卒」なのに、東大出の役人に負けないよう一生懸命勉強していたからエライのだそうです。
そんな「官尊民卑」の香り漂う著者ですが、「日本人は、浮ついた言葉で独りよがりに『品格』を語るより、『正しい宰相選び』を通じて、価値ある国であることを示すべきだ」と、ベストセラー本にはちょっぴりジェラシー(笑)。生臭さも漂います。