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森の空想ブログ

古層の神の声を聴く時/「縄文の土面」を入手―新着資料紹介―[空想の森から<144>]

縄文時代の土面(上掲)が、「由布院空想の森美術館」の収蔵品の一つとして加わった。館長の高見剛(私の弟)が、インターネットオークションに出ているのを見つけ、入札して落札したのである。落札価格は非公開としておくが、このような資料が入手できるとは、稀有のことである。インターネット時代の恩恵というべきであろう。同様の土面は全国で150点余りしか出土しておらず、それらの多くは発掘地の資料館または国立博物館の所蔵となり、一部は重要文化財の指定を受けているのである。

私どもは、40年近くの歳月をかけて「九州の民俗仮面」を収集し、展示・調査・研究を続けてきた。その過程で、木製の民俗仮面の中に顔の歪んだ仮面や鼻曲がり仮面、口をすぼめた仮面などの「異形」の仮面があり、それが「神楽」のわき役として登場する田の神、ひょっとこ、猿面、河童(水神)、狐(稲荷)などの「道化神」と関連していることがわかってきた。これをもとに、縄文の土面の造形が、先住民の祭祀として引き継がれ、古層の神の系譜として命脈を保ってきたのではないか、と想定して議論を続けているのである。そのことを考える現物資料がこれらの土面である。

掲出の土面はサイズ22㌢×22㌢。顔に付けたものではないが、手に持ち、顔面の前方に掲げ、何らかの祭祀として使用したことは考えられる大きさである。それが「祈り」であったか「踊り」であったかまではわからない。縄文時代の遺跡からは仮面を付けた土偶が発掘されているから、仮面を用いた祭祀があったことは確定できる。

これらの土面は、東北から関東地方へかけて分布している。多くが縄文後期から晩期(3000年前~2500年前)へかけてのものである。西日本~九州にはこのような土面の分布は見当たらないが、佐賀市東部の東名遺跡からは7000年前の大型仮面が出土し、熊本市南部の阿高貝塚からは6000年前の貝製仮面が出土していることからこの方面に仮面祭祀が皆無であったとはいえない。

東北地方には大きな山岳の麓に「守山」「森」「山森」など、「モリ」と名の付く祭祀遺跡が分布している。そこはこんもりとした丘状の森で、今も山の神信仰が残る土地である。その地下には縄文時代の遺跡が眠っており、発掘すると土器、土偶、土面などが出土する例がある。これにより、土偶や土面が、古層の神を祀る儀礼と関連しており、山の神祭祀として継承されていることがわかる。九州脊梁山地の神楽には「モリ」というヒトガタ御幣を祀る儀礼や「山森」「森」「山守」という演目があり、それが山の神祭祀・狩猟儀礼と関連していることもわかってきた。

ここで、この仮面の造形を見ておこう。顔面全体に「波」のような文様があり、その文様の内側には細かな点々が刻されている。何らかの尖った器具で、引っ掻くようにして付けた連続文様である。これは、魏志倭人伝に「鯨面」と記される倭人の習俗「入れ墨」を表象したものであろう。そしてその入れ墨が表現しているのは、波と水ではなかろうか。そのような視点でみれば、この「閉じた眼」という造形が、「蛙の眼」に最もよく似たものであることは明らかである。縄文土器に多くみられる文様として、蛇・蛙がある。後代の水神信仰へと連関している儀礼である。一般的にこれらの「閉じた眼」の造形物は「遮光器土偶」「遮光器仮面」などと命名されているが、これは不適格な解釈であり、命名に誤りがあろう。そもそも、3000年前とか6000年前という当時に、太陽光を眼鏡で減光する「遮光器」などという概念や理論や科学的知識があり、それに基づく造形物が制作されたなどという解釈は、あまりにも非現実的であろう。それよりも、天空に接し、動物たちが棲み食物がみのる森を擁し、雨をもたらし水を恵む「水源の山=水神」を祀る信仰を根本原理と把握し、それを象徴する水辺の動物や昆虫・水草などが造形され、絵画化された事例を参照して「蛙眼の神」と解釈したほうが実相に近づく方法ではないだろうか。百歩(場合によっては千歩でも)を譲って、縄文の土面の歪んだ顔や鼻曲がりなどの造形がシャーマンの神憑りの表情という解釈に従うならば、眼を閉じた神は、シャーマンの忘我の表情とするべきであろう。「縄文」という造形法も、縄を綯いそれを撚り合わせて土器の表面に捺し付けるといった二段階、三段階の思考を経た技術ではなく、単純に水の神「蛇」の交尾する姿形を大地の増殖・種の存続と見立て、神格化し、「祈りのかたち」として造形したものと捉えた方が自然であろう。

結論を急ぐわけではないが、一点の仮面を入手したことで、このように思考を発展させることが出来た。下記の写真二点も以前インターネットオークションで入手したもの。これで、当館に縄文の土面二点と土偶の頭部一点、レプリカだが「鼻曲がりの土面」一点が揃った。

「仮面」とは古層の神の声を聴く祭具の一つである。私どもはその声なき声を聴き分けながら、仮面史の深部を探訪する旅を続けるのである。

・鼻曲り土面(国重要文化財)
*御所野縄文博物館/岩手県二戸郡一戸町岩舘字御所野のホームページより

     ☆

*以下に関連の木製仮面を掲示しておこう。

 

・木製鼻曲がり仮面/推定中世頃 「由布院空想の森美術館」

 

・木製うそふき面/推定中世頃 「九州民俗仮面美術館」

・木製「臣下」室町時代/宮崎県えびの市「水流菅原神社」伝来

・佐賀県東名遺跡出土仮面


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