
ソバ畑に行くのが楽しみである。なにしろ家から100メートルほどの距離だから、散歩を兼ねて一日に何度も出かけるのである。ソバの花が満開になったころから、さまざまな虫たちが集まってくるようになった。蜂だけでも、十種以上を数えたし、蝶もシジミ蝶の仲間やモンシロ蝶、アゲハ蝶など、やはり十種以上が飛んでいた。もう渡りの季節を過ぎたはずなのに、こんなに多くの蝶が、晩秋の森に残っているのが驚きであった。蜂は、蜜を集めるミツバチだけでなく、黒い蜂やスズメバチなども集まってきている。彼らは、勤勉なミツバチと違ってただ蜜を吸うだけの目的でやってきているもののようだ。じっと耳を澄ますと、無数の羽音が聞こえる。米良の山脈が、遠くに霞んでいる。
ところで、この連載「再生する森9・焼畑の煙」を読んだ方から、メールをいただいた。「光合成」の理論に対する補足というべき指摘である。以下に転載する。
『確かに、植物は光合成をしているしそれによって二酸化炭素を吸って酸素を吐き出している。けれど、夜など日光のない時は、人間と同じように呼吸をしている。つまり、酸素を吸って、二酸化炭素を吐いている。量としてはまだ、酸素を吐くほうが多いみたいだけど、植物は、自分の持分だけで、結構、酸素と二酸化炭素のやり取りをしてしまっているわけだ。光合成は、太陽の力だから、夏がやはり多いようだけど、最近、比較的多いはずの春・秋で、秋の光合成が少ない(つまり二酸化炭素吸収量が少ない)ということも分かったとか。植物は、二酸化炭素を消してしまう訳ではなく自分の体や地面に取り込んで固定しているだけだからその植物が枯れるか、燃やせば、もちろんまたそれらは地上に出てしまう。地球環境問題に寄与するには、かなりの森林とか必要なわけだが、それも、育つと、あまり二酸化炭素を吸収しないそうだ。朽ちて、土に帰れば、その時点で二酸化炭素は土壌に戻る、とか、刈って、なにかに変換した(わらとか)を燃せばまた吸収したはずの二酸化炭素は、地球上に戻ってしまう、など・・・』
以上、理科オンチを名乗る人から、焼畑に対して反対意見を唱えるわけではないが、この程度の光合成理論は頭に入れておかないと、批判されたときに対応できませんよ、という親切な助言であった。
なるほど、なるほど。
理科の時間に家の裏の柿の木に登り、柿の実を頬張っていた極めつけの理科オンチ少年の私が習った半世紀前の小学校の理科の勉強レベルから、21世紀の環境科学は進化しているということのようだ。要するに、植物による二酸化炭素の排出と吸収のバランスは、かぎりなく差し引きゼロに近い状態、ということらしい。忠告を下さった方も、正しい認識を共有した上での環境論議を提唱しているわけだ。
どうもありがとう。これで理科の勉強から逃げ回っていた私も、現代の光合成理論を身に付けることができたようだ。
そのうえで、こう考える。
焚き火や焼畑による二酸化炭素と酸素の排出・吸収の量が差し引きゼロか、やや酸素の排出量優位のレベルにあるということならば、やはり、焼畑の効用は、荒地で放置されるよりも森の整備が進むとか、蜂や蝶やカナブンなどの昆虫類がソバの花に集まり、それを狙った鳥たちがやってくるという本来の森の姿を取り戻し、それを眺めに通う私たちの心を癒し、豊かな気分にしてくれ、さらに美味なる味覚を収穫できるなど、多方面にわたる。焼畑は自然科学的農法であり、自然と人間とのかかわりを学ぶことのできる豊かで美しい農業である、と。
まあ、まあ。
そんなに力まなくてもいいではないか。焼畑のソバ畑は、今日も虫たちの楽園だ。来るべき冬に備えて、彼らは一心に蜜を集めている。上空を鷹が旋回している。
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