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森の空想ブログ

ヤマメの卵<黄金イクラ>は秋の森の宝物  [風を釣る日々<15>]



ヤマメ釣りシーズンの最後を締めくくる、秋の谷の釣りでは、切ない場面に遭遇することがある。
産卵期を控えたヤマメは、活発な採餌行動を開始しているため、よく釣れるのだが、釣果の半数以上をメスが占めていることがある。産卵前に、そしてそのあとすぐにやってくる厳しい冬を耐え抜くために、体力を蓄えておかなければならぬのだ。
釣り上げたヤマメの後を、そのパートナーと思われる影が水際まで追ってくることもある。そのような場合、釣れているのはメスで、恋人を追いかけてくるのはオスである。
―おい、おい、オレを捨ててどこへいくのだよー?
―あっ、あ。釣り上げられてしまった!?
とばかりに、慌てて反転する「けしき」は「あはれ」の範疇である。

25センチ級の大物になると、腹が大きく膨らんでいるから、すぐにメスだと判別できる。それで、
―うんと、卵を産んでくれよ。
と小さく声をかけながら水に放してやる。悠然と水流の中へと引き返してゆく魚体に近づく別の魚影(相方に違いない)を確認すると、少し安堵する。
だが、20センチ前後のものやそれ以下のものは、目視では雌雄の区別がつかない。それゆえ、「漁獲」となるのだが、釣り終えて腹を割いてみると、充分に成長した卵がとろりとはみ出てくる。これが切ない。
―しまった、メスだったか・・・
―放してやればよかったものを・・・
と後悔するぐらいなら、この季節には釣らない、という選択をすればよいのだが、そうはならぬ。釣り師の欲望は、原始的な狩猟本能とセットであるから、
「釣れるときには釣る」
という衝動を抑えきれないのだ。


・二泊三日の収穫。大きい皿は「尺皿(直径33センチの皿)」、青い明治印判手の皿が「八寸皿」。大物揃いであることがお分かりいただけると思う。白磁の皿にヤマメの卵。

今季最後の釣行では、かなりの分量のヤマメの卵を確保できた。
食べることにする。
これまで、卵も内臓と一緒に川に流し、小魚や沢蟹、水生昆虫などの餌にして、循環の法則に戻すことを原則としてきたが、狩りの秘伝書「諏訪の祭文」にも、食することが供養である、と書かれている。古来、山川の恵みをいただくことも、狩猟の目的のひとつでり、「山の暮らし」の一こまであった。



ヤマメの卵の調理法は、さほど難しいものではない。
一度、釣ったばかりのヤマメの卵を口に入れてみたが、これは生臭くて食えたものではなかった。
まず、谷から上がる時、よく水洗いし、塩を振っておく。
持ち帰り、少し熱いくらいのお湯に塩を入れ、それにヤマメの卵を入れてよく洗う。このとき、汚れや皮膜などを洗い落とす。
次に笊にとり、軽く水洗いした後、もう一度お湯で洗う。このとき、少量の酒を加えるとよい。
これにより、臭みがとれ、紅色だった卵が「黄金色」となる。養殖ヤマメの卵を「黄金イクラ」と称して販売している例があり、私はこれまで、それは誇大広告ではないか、と思っていたのだが、決して誇張ではなく、まさに秋の森の色を映した黄金色だということがわかった。

ダシを作る。インターネットで検索すると、いろいろと難しいことを書いているものもあるが、わかりやすくいえば、「数の子」を漬け込むダシ汁を作り、それに漬け込めばよい。それぞれに秘訣があるだろう。



これで、すぐに食べられるが、塩漬けや醤油浸けにして保存しておくと、芳醇の度を増す。
折から、白神山地の酒を入手。白磁染付けの小鉢、唐津の盃で一杯。木綿豆腐の上に一匙。背景に映っているのは老母の自慢のヤマメの甘露煮。
かすかな森の香り、谷の音、そしてちょっと切なさの混淆した、絶妙の味であった。

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