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森の空想ブログ

夏の渓谷に咲く清楚な花/コバノギボウシ[花酒と旅の空<58>]



夏の渓流で過ごす極上の一日。
獺祭(だっさい=カワウソが巣の回りに獲物を開陳する習性)のように、皆の弁当を広げ、分け合って食べた後、少年たちはカワウソそのもののような動きで谷を下り、一度戻ってきて獲物を見せて、次には身をひるがえして上流へと遡って行く。
私は一人居残って、水辺で過ごす。
傷めた足(アキレス腱断裂)の回復は順調だが、少年たちと活動をともにするほど治ってはいない。慎重に踏み出した足が、岩角にかかり滑って踏み外したり、足元の小石がぐらりと動いたりすると痛みが走るのだ。





水辺には、ヤマメ釣りや川エビ獲りなどの川漁とはまた違った楽しみがある。
山の神様(女神である)のほかには見ているものはいないことを前提に、素裸となって水に浸かり、泳いだり、岩の上に寝転んで甲羅干しをしたりする。





水から上がると、沢沿いにそろそろと歩く。
行手には暗い森がある。
苔が、木漏れ日を浴びている。茸が生えた倒木もある。
光が燦々と降り注ぐ木立ちがあり、その下でわずかな光を集めて、ミズヒキソウ(水引草)が蕾を開き始めている。




日陰の岩場に、コバノギボウシ(小葉擬宝珠)がひっそりと咲いている。
ギボウシにはオオバギボウシとこのコバノギボウシがある。花びらの形が宝珠に似ていることがその名の由来。小葉のギボウシは白色と淡い青紫の花があり、渓流を彩色する。大葉のギボウシは夏の湿原に咲く。私の育った村の後背地に広々とした草原とそれに続く湿原があり、草原では、キキョウ、オミナエシ、カワラナデシコなどが咲いた。湿原ではギボウシが紫の花を点綴した。お盆の10日から12日(盆の入り)に、子どもたちはこの草原から湿原を歩いてこれらの花を鎌で刈り取り、両腕に抱えて持ち帰り、墓掃除をして先祖の霊に供えた。



コバノギボウシは少年の日の真夏の村を思い出させる。
この花をいただき、焼酎に漬け込んでみた。
どんな「花酒」が出来上がるかはまだわからないが、漬け込んで四日を過ぎても花の色は褪せず、白さを保っている。
少しだけガラスの杯に注ぎ、飲んでみた。
良い香りがして、ほのかな甘みがある。
半年後には良い酒に仕上がるだろう。
夏の渓谷からいただく逸品といえそうだ。

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