「薬草仙人」を自認することにした。
その契機は、ここ1ヶ月の間、強度の神経痛に苦しめられてきて、その症状が、まるごと「リウマチ性多発筋痛症」に該当すると判明したからである。
「仙人」とは、300年以上の齢(よわい)を重ね、人事も世事も超越し、酸いも甘いもかみ分けて、神羅万象に通じた老人をいう。
白髪白髭、鹿の角を先端に付けた杖をつき、深山の岩屋などに住み、美少女が身辺の世話をしている。そして、ひとたび、一族や村に危難が迫れば、森の奥から現れて、ひと言、その対処法を述べる。天変地異や疫病の蔓延、戦乱、部族間や村の争いごとなど、いずれもそれが危機的状況であるのだが、適切な予言や助言をして、混乱を未然に防いだり、収めたりする。旅の宗教者や修行者には武芸や神法を授けることもある。不治の病の婦人や子供などには仙薬を与えて治療し、平穏に日常が戻ったことを見定めて、山の奥へと帰ってゆく。
今年の夏で77歳になる私は、神楽の里に通い、一晩中絵を描き続けて「神楽仙人」とか、源流の谿に分け入りヤマメを追う「釣り仙人」、山道を時速40キロで車を走らせながら瞬時に薬草の自生を見つけて「薬草仙人」などと呼ばれることがあるが、上記のごときほんものの「仙人」の要件は一つとして満たしていない。けれども、チビでハゲのジジイです、と自己紹介するよりも、幾分、お洒落に見えるかもしれないので、現時点は仙人に近づくための助走期間=仮称・仙人と規定して、あと230年を生き延びる工面をしようと思う。
「リウマチ性多発筋痛症」とは、高齢者に発症し、発熱や頸部、肩、腰、大腿など四肢近位部(近位筋)の疼痛と朝のこわばりを主訴とする原因不明の炎症性疾患という。多くの場合、急性の経過で現れ、数日から数週間にかけて典型的な症状が出現する。左右対称に症状が現れる特徴を有する。こわばりや痛みは体を動かさないときに強くなるため、朝の起床時に強く、ある程度体を動かすと軽減する。痛み以外に発熱、食欲不振、体重減少、倦怠感、うつ症状などを伴うことがある。関節リウマチと似ているが、関節の痛みや腫れを伴わず、関節よりも筋肉の痛みが強く、肩や股関節の痛みが高率にみられる。
これらの、発熱と食欲不振と鬱症状の他は、すべてが該当した。
起床時に身体を動かせない、着ていた布団を持ち上げられない、シャツや衣服の着脱が出来ないなどの強い痛みがある、階段の上がり降りが不自由などの症状の他に、1ヶ月を経過した時点で、両手の指全体にこわばりと痙攣があり、関節の痛みが出た。
それで、
――あっ、これはリウマチの症状に似ているな。
と判断し、調べたら、上記の病名と症状に一致することが確認できたのである。
私が小学6年から高校1年までのおよそ5年間、祖母がリウマチで寝込んだ。私たち小さな兄弟は、その世話をしたのである。いまでいう「ヤングケアラー」である。それで、関節が変形し、変形したまま固定化し、激烈な痛みが昼夜を問わわず続くリウマチの症状は、熟知しているのである。薬草や山野草に詳しい祖母だったが、特にリウマチの特効薬という野草はないらしかった。
この話は長くなるのでまた別の機会を設定することにしてとりあえず結論を開示しておこう。
近くの森からイタドリ(虎杖)とスギナ(杉菜)を採取してきて、毎日引用している「野草茶」に加え、近くのドラッグストアに行って薬剤師さんと相談し、漢方の「当帰芍薬散」を選んでもらい、鎮痛剤(飲み薬)の「ロキソプロフィン錠」を併用しても問題ない事を確認し、温熱療法「テルミー」を駆使して自己指圧を施した。それにより、今朝は痛みが緩和され、動きも軽くなった。「治癒」への道が見えたのである。いつも通り、ギャラリーの鍵を開けに行き、隣接する竹林から竹の子を採ってきて、料理を始めたところである。4日前のように竹の子を抱えて猪の通った跡のある地点を滑り降りたりしなければ、大丈夫のようである。関節リウマチとか、筋委縮症、膠原病などの難病でもなさそうだ。最も有効な治療法は、苦手とする「休養」のようだ。何もしないでじっとしているという事ほど難儀なことはない。それが私には人生の持ち時間を損したようなストレスとなるのだ。だが、今回はおとなしくしていよう。使いすぎた「神経」を労わってあげよう。それが治療だと心得て、仕事は筆より重いものは持たないと限定した小さな絵の仕上げか、森の散歩ぐらいにとどめておこう。
*本文の続きは次回。