歩きながら考える

最近ちょっとお疲れ気味

グローバル時代の自動車メーカーと地域社会

2006-09-30 20:24:49 | ものづくり・素形材
入交さんの講演の続きです。話は、空冷エンジンに本田宗一郎氏がこだわったために経営危機に陥った話、CVCCエンジンを開発してビッグ3に挑戦した話が続きました。これらの話はかなり有名かと思いますのでここでは省略します。

今や日本の自動車メーカーは国内生産台数を海外生産台数が上回るまでになっており、グローバリゼーションへの対応は自動車メーカーのみならず、関連産業にとっても必要不可欠なものになっています。こうした中、Honda Americaの社長として、日本の自動車メーカーの海外法人として初めて本格的な現地生産に取り組み、そして成功を収めた入交さんのお話は興味深いものでした。
日本のメーカーが米国で自動車を作るということはどういうことなのか、それはビッグ3の真似ではだめだし、日本流の押しつけでもだめだ、だと入交さんは語ります。現地における柔軟性は現地メーカーに比べて決定的に劣るわけだから、現地の良さを生かしながらどこまで本国の強みを生かすかがポイントなのだと言います。このため入交さんは現地の人間と徹底的に議論を行い、日本側がどうしても妥協できない点は残しつつ、現地の人間がリーダーシップを発揮できるHonda Wayというものを確立したのだそうです。
さらに、現地法人が日本に依存することなく、自活能力を持つことが必要であると言います。年間50万台が部品メーカーがHonda Americaの仕事に専念できる最低ライン、100万台が現地での研究開発を行う最低ラインなのだそうです。そして、様々なノウハウ、問題解決能力、自己開発能力を誰に蓄積させるか、がポイントである、と述べました。こうした努力があってこそ、現在のHonda Americaの成功があるわけですね。

さて、産業のグローバリゼーションが進展する中、勝者と敗者が明確になり、経営者の判断というものの重要性は一層高いものになっています。こうした状況の下、「企業の繁栄と地域経済が離れていく」という、いやな現象が起きています。入交さんはドイツを例に取り上げて説明します。ベルリンの壁崩壊から間もないころ、もはや我々が旧西独地域に投資することはあるまい、と語ったドイツメーカーの幹部に対し、入交さんが「それでは企業としての地域社会に対する責任はどうなるのか」、と尋ねたところ、件の幹部氏から、それでは競争に敗れてしまう、と反論されてしまったそうです。そして現在、ドイツの自動車メーカーは繁栄していても、統一以
後のドイツは高い失業率に悩み、経済はかつてのような力強さが見られ
ないというのはご承知の通りです。このほか世界の様々な地域で、同様な現象が見られるようになっています。
そんな中、企業の繁栄と地域社会の繁栄が見事に一致している唯一の地域が、日本の東海地区であると入交さんは言います。トヨタ自動車はすごい会社ですね。

さて、以下は私の意見です。
トヨタ自動車に限らず、ほとんどの日本のメーカーは多かれ少なかれ、雇用面での地域社会への責任を意識していると思います。すべてがそうだとは言いませんが、そもそも伝統的な日本のメーカーは、単なる利益追及集団とは言いがたく、地縁や血縁といった関係性が色濃く組織に反映した、一種の共同体に近い性格を持っています。中小のものづくり企業の場合は、一層そのような性格が濃厚です。十分に海外に進出できる実力を持ち、海外でのビジネスチャンスが大きいことを認識しつつも、地域社会への責任感から敢えて日本にとどまっている中小企業は少なくありません。
ものづくり中小企業がたくさん集まった地域を、産業集積と表現しますが、単なる「産業の集積」ではなく、こうした共同体の集積でもあり、地域社会そのものであると思います。地域社会は国民にとって重要なセーフティーネットですが、産業集積は我が国製造業にとって重要なセーフティーネットと言えるのではないでしょうか。明らかに海外に比べて比較劣位となった企業が産業集積から姿を消すことはやむを得ないとは思います。しかし比較優位を十分保っている企業が、より大きなビジネスチャンスを得るために自発的に海外に出るというのならともかく、「今時海外に出ないとは、なんと時代に遅れていることか」と、彼らを無理に産業集積から海外に
出そうという昨今の風潮は、将来の日本の製造業を危ういものにしかねない、と私は思います。