歩きながら考える

最近ちょっとお疲れ気味

日本にとってのマレーシアの位置づけ

2006-09-26 21:19:36 | 海外ものづくり事情
上海の中心部に豫園という地区があります。東京で例えれば浅草のようなところで、近代的な高層ビルが建ち並び、今や東アジアの巨大なビジネス都市となった上海の中で、昔ながらの伝統建築が残り、たくさんの土産物屋が軒を連ねる観光スポットです。数年前の夏、中国での企業ヒアリングを終え、最終日にこの豫園を訪れ、家族のための土産を探したところ、ふと中国の伝統的な剪紙(切り絵)に目が止まりました。
年輩の職人がその場で客のリクエストにあわせて作る剪紙のコーナーには、中国人観光客がたくさん集まっていました。私もその人垣の中に割って入ったのですが、職人の後ろに掲げられたサンプル品を見て、かわいい犬を描いた図柄と、女の子が描かれた図柄が気に入りました。犬の図柄と女の子の図柄を組み合わせ、さらに誕生日を近く迎える私の娘の名前を入れてもらいたい、と思いましたが、私の拙い中国語では意図を職人に伝えられません。仕方なく英語でその旨を伝えたのですが、彼は全く英語を理解してくれません。
困り果てていると、後ろに並んでいた青年が助け船を出してくれました。彼が私の意図を中国語に翻訳して職人に伝えてくれたおかげで、私は無事に娘への素敵な土産物を買うことができました。私は青年に礼を述べ、流暢な英語を話す彼に「香港人ですか?」と聞くと、自分はマレーシアに住む華僑で、中国には観光で訪れている、とのことでした。
こうした経験があることから、マレーシア華僑の若者は英語と中国語の両方に堪能で、かつ考え方は普通の中国人よりもはるかに西洋化されていて、日本人にとって付き合いやすいな、という印象を持っています。

現在アジアで日本の製造業が注目している国は、まず言うまでもなく中国であり、次いで自動車産業が伸びているタイ、そして中国の次としてのベトナム、インドといったところです。マレーシアはかつて家電産業を中心に日系企業の進出が相次いだのですが、経済成長に伴い人件費が上昇し、また市場としても小さいために、投資先としての魅力は大きく低下してしまいました。このため日本の製造業にとってマレーシアは、アジアの中でも「過去の国」というイメージが強いことは否定できません。
ところが、アジアの金型産業について精力的な調査を行っており、旧知の間柄である松本大学助教授の兼村智也さんから、非常に面白い話をうかがいました。マレーシアは中国、インドへの事業展開の足がかりとして最適の地である、というのです。なるほど、と思いました。
マレーシアはマレー系、中国系、インド系からなる多民族国家で、ブミプトラ政策に基づきマレー系が優遇されているとはいえ、各民族がそれぞれの文化を保ちながら平和に共存している「多民族国家の成功事例」(兼村氏)です。日本企業は、マレーシアを起点に、中国系を使うことで中国へ、インド系を使うことでインドへ、それぞれ事業を展開する道が開かれている、というわけです。
「世界の工場」としてますます重要性を高めている中国、日本勢がやや出遅れてしまったもう一つのアジアの大国インド、この双方を睨むことが出来るマレーシアは、今後注目して良いと思います。