クニの部屋 -北武蔵の風土記-

郷土作家の歴史ハックツ部屋。

ドラマ「東京タワー」は“オカン”と“ボク”のどんな物語か? ―郷土と母―

2006年11月19日 | レビュー部屋
(注意 この記事はドラマのラストについて触れています。謎解きではありませんが、まだ観てない方はご注意を……)

今年初めての出来事。
泣きました。
ドラマ「東京タワー ~オカンとボクと、時々、オトン」を観て。
「オカン」(田中裕子)が臨終を迎えるシーンのみならず、
何でもない日常生活シーンでも胸に沁みてくるのでした。
きっとそれはドラマ全体に“郷愁”が流れているからでしょう。
「少年時代」「故郷」そして「オカン」。
タイトルに「東京タワー」と付けられていますが、
オカンと「ボク」(大泉洋)が暮らしていたのは福岡県筑豊。
首都の象徴である東京タワーと、生まれ育った故郷との対比が生まれ、
郷愁を誘っていたと思います。

このドラマはオカン(時々オトン)と「ボク」との物語ですが、
言い換えると「ボク」が“大人”になる物語でもありました。
すなわち、オカンの死は「ボク」にとって“通過儀礼”。
少年時代の終焉をそのまま示すものであったことは、
「男は母親が死んで大人になるんだよ」(大意)と、
葬式で「法子」(大塚寧々)が言った言葉に端的に表されていました。
旅行先でオカンが倒れ、病院に駆け付ける「ボク」が、
少年の姿になっていたのもそのためです。
彼がどんなに貧乏に喘いだり、仕事が軌道に乗って
「真沙美」(広末涼子)とつき合い始めるようになっても、
心は少年のままでした。
得てして男とは、そういう生き物なのかもしれません。

ここでは「母親」=「故郷」として描かれていました。
「ボク」が少年時代を過ごした福岡県筑豊(ちくほう)は、
まさに炭鉱開発が活発だった時期であり、
東京タワーの伏線とも言える煙突が、風景の中にそびえ立っていました。
その町で食堂を営むオカンと、魚の行商をする祖母の「種」(加藤治子)。
乱暴者の「オトン」(蟹江敬三)はほとんど家にいません。
「ボク」にとってそんな活気溢れる筑豊こそが“母”であり、
そこを出たことは第1の“通過儀礼”だったと言えます。
しかし、それだけでは“大人”になれなかったことはすでに述べました。
オカンがいる限り、彼は少年のままなのです。

少年時代、筑豊で祖母の死に直面しますが、
これは通過儀礼ではなく“経験”でしかありません。
すなわち、オカンの死の“伏線”です。
のちに直面する母親の死の準備とも換言できるでしょう。
筑豊から上京して、東京で暮らし始める2人。
圧倒的にそびえ立つ東京タワーは、
彼らにとって異国の象徴でもありました。
そして、その異国の地で死を迎えるオカン。
泣き崩れる「ボク」に、医師に掴みかかるオトン。
最後に鏡越しで見た東京タワーは、
オカンの目にはどのように映っていたのでしょうか。
オカンが息を引き取ったとき、「ボク」の少年時代も静かに終焉を迎えたのです。

ただし、最後にもうひとつだけ“通過儀礼”が残っていました。
それは東京タワーに登ることです。
オカンの死によって一緒に行く約束は果たされず、
足を踏み入れることさえできなかった「ボク」は、
「真沙美」へ気持ちを伝えるために歩いて登ります。
それは、“大人”への第1歩そのものでした。
すなわち、少年時代が終わりを告げた「ボク」は、
「真沙美」と共に生きようとするのです。
「私はオカンに似とると?」とオカン言葉(方言)で訊いた真沙美に、
「似てない」と答えた「ボク」は、
大人への覚悟だったと思います。
結局2人が復縁したかどうかは描かれていませんでしたが、
「ボク」はそれまでとは明らかに別の人間です。
ここで「ボク」はようやくオカンから巣立ったのです。

リリー・フランキーのベストセラー小説を映像化した今回のドラマ。
「電車で、おじさんが泣いていても、変な目でみないでください。」
というキャッチコピーがありますが、その“おじさん”たちは
少年のように涙を流すのかもしれません。
「東京タワー」に描かれた「ボク」のごとく、
得てして男とは弱い生き物なのです(たぶん)。

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2 コメント

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Unknown (みったんえったん)
2006-11-21 01:30:42
挿入歌でBEGINの「東京」以外に2曲ぐらいあったと思いますが 何の曲かわかりますか?(洋楽)なかなか調べてもたどり着かないので もしわかったら教えてください。
返信する
東京タワー (クニ)
2006-11-21 12:24:48
>みったんえったんさん
検索してみたところ、
ミック・ジャガー&デイヴ・A・スチュワートの
「Old habits die hard」という曲に行き当たりました。
参考URLとしてアマゾンの↓ http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B0003JAO8G
を開くと「Old habits die hard」が試聴できるようです。
(ぼくのパソコンはボロなので試聴できず……)

これ以上の情報はわかりませんでした。
もしかするとすでにご存知かもしれませんね。
ぼくは「東京」(BEGIN)にひと聴き惚れしました。
あれはシングルで売られているのでしょうか?
ついでに検索かな……
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