クニの部屋 -北武蔵の風土記-

郷土作家の歴史ハックツ部屋。

災害のあとに奉納された“河川改修奉納絵馬”とは?

2011年08月30日 | 利根川・荒川の部屋
往古において、大雨による土手の決壊など、
その改修工事は多くの地元の人々だった。
手伝い普請で、遠国から大名が派遣されて工事をするものの、
重機のない往古は人手が必要だ。
そこで、男女問わず、村の人々が工事に携わったのである。

利根川流域には、その“改修図奉納絵馬”が神社に現存している。
大久根茂氏の調査によると、
埼玉県では10点の河川改修奉納絵馬があり、
その数は他県にはものだという(※)。

その一つが羽生市の新郷地区にある。
利根川の堤防を修復している絵図で、
作業をしているたくさんの人の姿を見ることができる。

この絵馬が奉納されたのは明治24年。
前年8月23日に大雨で堤防が決壊し、
その改修工事を描いたものである。

工事に男も女も関係ない。
明治23年の改修工事にも多くの女性が参加したらしく、
ドハ打ちをしている女性が描かれている。
おそらく歌を唄いながらドハ打ちをしていたのだろう。
絵馬からは、力強い男たちのかけ声と、
女たちの歌がいまにも聞こえてきそうである。

ちなみに、この「利根川堤防工事絵馬」は色がだいぶ剥落している。
それには笑えない話があるのだが、
ここに記すことでもあるまい。

絵馬の墨書によると、村人が力を合わせて河川改修工事を行い、
そのことを後世に伝えるために奉納したという。
工事は秋口に始まり、翌年の初夏に竣工した。

季節が変わっても続けられたその工事に、
人々の想いも強くなっていったのだろう。
竣工のあとも、人々の心に残っていたに違いない。
そんな想いが絵馬にはこめられていると言えよう。

むろん、新郷の絵馬だけではない。
他地域の絵馬も、それぞれ村人たちの熱い想いが込められている。
それは災害の記憶のみならず、
力を合わせて災害を乗り越えた人々の記憶でもある。

※参考文献
大久根茂「絵馬に描かれた河川改修」(「利根川文化研究」第31号、2008.9)


記事とは関係ないが新郷駅(埼玉県羽生市)

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